私は甘えさせているのではない。
ふつうの車イスを、彼は自分で動かせないので、
人に押してもらっているから。
初めて外に出る日、私に見せてくれた。
私は、彼について海まで歩いてあげながら
よかったねと言いながら、
もっと勇気があったら、はやくにこうしていられたのよと心の中で思った。
お湯と温風の吹き出る便器を用意したのも、
大便のあとの清潔にすることさえ、他人にしてもらうことを、
恥と思えなくなったとき、
恥ずかしさを忘れたとき、
ただの障害者でしかなくなるから。
それを敏感に感じなければ、
そのまますべて、他人に一生をお願いする生活になってしまうから。
身動きできないからだでも、せめて、おしりくらい自分でしまつできてほしい。
これが私の願いだから。
人に頼ることを、少しでもすくなくするようにならねば、自立ではないのだから。
私たちのやさしさとは、
ただ、甘えさすだけではないのだから。。
…電動車椅子も電器の便座も、
もっと深い意味にとってほしいと心から願う。
健、私はあなたがちゃんとした人になるよう願うよ。
たとえ、人より織り機がおそくとも。
…
自分だけのものを見つけること、もつことが、どんなに大切か?
…
けれど、生きてゆくうえで、チャンスはまってくれないのよ、健。
ただ頭だけで考えてもだめ。
なにか、やってごらんよ、健。
なぜ、単純なことだけど、キャッシャ-が打てるように練習しないの、健。
お店で必要なもの。
あなた、マスターできたら、生徒でなく、社員になれるのよ。
少し、冒険が足りないと、私、思うんだ。
健、健ちゃんの健は健康の健なのに。
あなたは、私に言うかな~、まり子さんは、障害者じゃないから、その気持ちわからないって?
健、健康な者同士でも、
障害者同士でも、
人のなかのほんとうの心はわからない。
ただ、やさしい心で想像するだけよ。
人生は、きびしいから、すてきなの。
これ私のあなたへのオクリモノ…
健、あなた、心が健康であってほしい。。

時々の初心より
宮城まり子さん