つまらないなぁ、退屈だなぁ。――何もなくなった私の後には、いつも空虚が付きまとった。

「一人旅ってのもねぇ……せめて美女でもいればちったぁ変わるかな」

 永く生きていると、必要なものが少なくなってくる。大きなトランクを一つ。その中に、私の必要なものはすべて収まった。金なんていつでも稼げる。何しろ、食べ物が要らないので、結構浮くもんだ。我が城が佇むトランシルヴァニアから何日か歩き、乗り物に揺られ、私はとうに滅びたある国にやってきた。名前も知らないんだが……。

「お邪魔しまーす」

 外で寝るっていうのも味だが、私は仮にも貴族だ。盗賊に襲われても困るので、昼のまぶしい日差しをよけるべく、ここに少しとどまっていることにした。

「うん、見事に空っぽだねぇ」

 どこかの蛮族とかが住んでてもいいくらいに住宅はある。しかし、誰もいない。吸血鬼となった今、嗅覚も聴覚も視覚も人間を超えていた。わからないはずがない。――そこには誰もいなかった。

「はー……」

 きっと金品も食べ物もないんだろうな。冷たい夜の空気が甲高い、寂しい音を立てながら吹き抜けていった。することもなく、ぶらぶらと空っぽの街を歩いてみる。……高い建物が見えた。城だろうか。自分もあそこに住む立場だからか、無意識に近づいていた。そして、巨大な石造りの外壁の前に立ち尽くしていた。

「よし、忍び込もう!」

 ちょっとした怪盗気分で、門を通る。長い間手入れされた様子のない中庭があって、その先に小塔がある。真っ先に目についたのは小塔への扉だが、私の目はそのわきの、少し小ぶりな門に向いた。かすかだが、何かの気配があった気がする。

「誰かいるのか?」

 声を潜め、つぶやくと、門に歩み寄った。少しだけ隙間を開け、中をうかがう。ただっぴろい広場が延々と続いているように見えた。そこに点々と立っているのは、十字架だ。もう結構年を重ねているので、それくらいじゃなんともない。

「趣味悪ーい」

 なんだ、誰もいないや。私はなんとなくがっかりしたようなほっとしたような気分になりながら、門の間から体を滑り込ませ、広場の土を踏んだ。

「処刑場か?まったく、この城はどんな構造してんだか」

 百メートルばかり歩くと、十字架が一つ立っていた。ボロボロで、見る影もない。足元の土が妙に赤っぽい気がした。そして、また歩く。と、ある事に気が付いた。

「ガキ……?」

 処刑場の真ん中あたりに立っている鉄製の十字架。さびてこげ茶色になっている。それの下に、子供の小さな背中が見えた。膝を抱えて、じっと十字架を見上げている。真っ赤な長髪は一見女の子のようだが、身なりは豪華な男の服だった。

「んー?」

 もっと気になることがあった。よく目を凝らしてみる。そして、ゴシゴシと目をこすり、また目を凝らす。何度繰り返しても、子供の姿は半透明だった。向こうの景色が透けている。よく観察しているうちに、思わず近づいてしまっていた。砂をこする音で、子供がこちらを向く。やはり、透けていた。

「やっと誰か来た」

 子供の声は空気に溶けるような、不思議な感じだった。

「あ?あー……」

 気づかれてしまっては遅い。私は苦笑しながら頭を掻いた。

「誰だ?知らない顔だな」

「私はドラキュラ伯爵っつの。お前は?」

 子供はふわりと立ち上がった。

「わからない」

 は?思わぬ返答に目が点になる。

「忘れた。待ちすぎた」

 まんざら冗談でもなさそうだ……。子供はしばらくぼーっとしていた。

「誰か待ってたのか。こんなところで待ち合わせするとか趣味悪いなお前」

 冗談交じりに言うと、子供の目の焦点があった。そして、ばっと十字架の方を振り返る。

「ない」

「お小遣いでも落としたのか」

「俺様の体がない!」

 まさかのホラー発言投下。しかもなんだ、俺様って。

「つまり、幽霊?」

 私が聞くと、子供はあきらめたように肩を落とし、私の方を向いた。



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続く→


ゴーストの系譜シリーズ(ゴンベエがゴンベエになったわけ)

『ゴーストの系譜』

第一話、的な。グロ描写注意。死んでます、ゴンベエ(キース)が(´・ω・`)

見るに堪えないってほどじゃないですが……底辺文才のおかげで