なぜか季節の短編を二つ(´・ω・`)
「バレンタインか。……お前、友チョコくれんの?」
……なんだそれは。というセリフを飲み込んだ。
「あぁ、あの甘くて」
恐る恐る言ってみる。
「うん」
あっていたようだ。ひとまず胸をなでおろす。
「青」
「ん?」
「いや……げふんげふん」
外しかけた!咳払いでごまかす。さて、どうしたものか。俺は右の親指の爪を噛んだ。
「いろいろな形をとっている」
「……うん……」
なんだその間は!?白黒はっきりしろ!なんちゃって……って、そんなことを言っているんじゃない。
「日本の文化」
「お前、知らないんなら知らないって言えよ。顔に出てるぞ」
くそ、見破られたか……。
ルイがため息をついた。俺は顔をしかめて何かをごまかす。
「仕方ない、貴様のうんちくを聞いてやろう」
親指を離し、上着でふく。ルイは少し考えた。
「ん~、バレンタインに友達にチョコあげるんだよ」
「なんだその文化。貴様、俺様にチョコをタダでよこせと言っているのか。身の程知らずめ、貴様がよこせ。いや、ささげろ」
「自分の地位を妙に確立するな!嫌ならいいよ」
ルイがため息をつく。それが何となく気に食わなかった。
「俺様は料理が好きだ。だから仕方なく作ってやるからお前、倍の額と態度で返せよ」
「額と態度は別として、ちゃんと返すよ」
俺は後悔していた。自分にできないことをわからせたくなかったものだから、変な意地を張ってしまった。しかし、俺は料理をしたことはおろか包丁さえ見たことがない。洋館の厨房の場所も知らない。
貴族の俺にとって、料理はいつの間にか用意されているもので、作ることとは全く無縁な行為なのだ。
しかして、俺はできない料理をやらなければならない状況に陥った。
「ドラキュラ。長くここで暮らしているが、この洋館に厨房はあるんだろうな」
「あったりまえじゃん。なかったら料理が食えにゃーだろ」
ソファに全身を預けながら雑誌を読むその姿に凛々しい貴族の面持は欠片もない。
「それはトイレの隣か」
「お前と話しているとやけにトイレが出てくることが多いな。まぁ、幽霊って水場が好きなようだし、構わんが。下ネタが好きってわけではないんだろ?……あれ、ひょっとして下ネタ好きなの?」
なんておしゃべりな奴だ。さっさと要件を伝えろ変態。といいたいところを必死に抑え、片眉を吊り上げる。
「風呂場の隣だろう?」
「トイレの次はバスルームか。水の好きな奴だ。ひょっとして女の子の方がお好きか?エッチ~」
今すぐこいつをひねりつぶしたい気持ちを親指の爪を噛むことで抑える。この様子は違うようだな。
「食堂の奥だな」
「よくわかったな。お前入ったことがないみたいだから知らないのかと思った。何?好きな子でもいるの?」
「去れ変態ロリコン」
吐き捨てるように言うと、厨房へ飛んでみる。リビングから食堂は近い。一部屋がやたら広いが。
確かに厨房はあった。ドラキュラが掃除だけはしているのか、使われた様子はないがこぎれいだ。
備え付けのテーブルに分厚い本が置いてあった。都合のいいことに、どうやら料理本らしい。手に取って目次を見る。ドラキュラに日本に連れてこられてからしばらくたつので、日本語は話せるしまぁまぁ読める。書けるかどうかは微妙だが。
あった、チョコレート菓子。ページを確認し、パラパラとめくる。……ところで、ルイに返せと言ったものの、俺は料理が食べられるんだろうか。
「うむ、結構シンプルだな。……さて、チョコレートはあるんだろうな」
要するに、とかして型に入れればいいということだ。本には数多くのチョコレート菓子の作り方が載っていたが、俺にできそうもない。材料の板チョコは何度か見たことがあったので理解できた。
とりあえず手あたり次第に引き出しを開け、中の物をすべて放り出し、材料を探す。
「何事だ!?」
騒音を聞きつけて、ドラキュラがやってくるころには、床はいろいろなもので埋め尽くされていた。
「あ~……遅かったか」
ドラキュラがため息をつき、頭が痛いとでもいうように額を抑える。
「あった」
俺はそんなことも気に留めず、やっと見つけた板チョコを料理本の上に放り投げた。
「ゴンベエ!こんなに散らかして!誰が片付けると思ってる!?」
ドラキュラがこぶしを振り上げた。俺は反射的に肩を跳ね上がらせ、ギュッと目をつぶった。しかし、いつまでたっても衝撃は来ない。俺はそっと目を開けた。ドラキュラが腕を組み、仁王立ちでじっと俺をにらんでいる。そうだ、俺は誰にも触れないんだった。
「ごめんなさいは?」
逆らうこともできたが、俺はなんとなくばつが悪くて、うつむいた。
「……悪い」
「ごめんなさいでしょ」
「ごめんなさい」
そういうと、ドラキュラはふっと笑った。それ以上なんか言われなかったことにほっとした。
「で、何を作ろうとしてるんだ?」
怒られたこともあり、正直に話した。そうしたら、ドラキュラがお決まりの高笑いをした。
「笑いすぎだ」
牙が覗いた口に手を突っ込む。触れることはなかった。
「悪い悪い。友チョコね!私も手伝ってやるよ。……うまくできるかは別として」
「仕方ないから手伝わせてやるか、うまくやらんと呪う」
そして、俺たちはチョコ作りを始めた。
「バカ、チョコに熱湯入れるなよ!」
「貴様こそ味見ばっかりするな」
「あ、ちょ……こぼれてますって!!」
「貴様のせいだ!」
「なぜに!?」
――数十分にわたる乱闘の末、残骸はある程度形を持っていた。ような気がするのは俺だけだろうか。
「こりゃあ……なんというか、ワイルド……?」
本に載っているようなうまそうな例ではなく、どの角度から見てもばっちりまずそうだ。まず、チョコが水浸し。そのうえあふれ出していたり極端に少なかったりと量がバラバラ。そのほかいろいろな欠点があった。
「俺様が食うわけじゃない。ルイだから大丈夫だ」
「お前って最低だな」
しばらく沈黙していたが、とりあえず何とかなった。
ルイは多分喜んだふりをするだろうということは今からでも十分に予測できた。