マイルス | John's BOOROCKSブログ-I Love The Beatles, Fender Guitars & Movies!

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ハンドメイド・エフェクター・ブランドBOOROCKS(ブロックス)のスタッフによる、音楽(BEATLES & Fender)と映画の気ままなブログ。

こんにちは。また新しい題材で、事実に基づいたフィクションを書いてみました。楽しんでください。


マイルス


 彼は1940年代にデビューし、ミュージシャンとして名を成し始めた頃、ビーバップが全盛だった。早いパッセージを吹きこなす指も持っていた。近年流行しているビート・ジェネレーションの風潮が、ベビーブーマーに浸透するにつれ、その上の世代にまで影響を及ぼし、白人の観客が大幅に増加した。ビート・ジェネレーションとは、ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグなどの作家によって書かれた作品で表された思想で、それまでにアメリカ社会が推進していた画一的中産階級風の生活に反対したもの。ベビーブーマーとは、第二次世界大戦後のベビーブームに誕生した世代だ。彼らに支持され、白人にもジャズの良さが広まりつつあった。

 「この時期の俺のプレイは、早いパッセージも吹きこなし、後のプレイとは全く隔世の観がある。特にブルーノート・レーベルに残したキャノンボール・アダレイのリーダー・アルバム『Someting Else』でのプレイは俺の名盤とされている。ただ1960年代に突入して状況が大きく変わった。イギリスからやって来た4人組、ザ・ビートルズが全てを塗り替えてしまった。ジャズとポップスじゃジャンルが違うと思うかもしれない。しかし同じポップの世界、そして同じベビーブーマー世代の観客たちであることは変わらない。彼らを飽きさせず聞く気にさせねばならないところは同じだ。そんなことを考えてジャズにエレクトリック楽器を導入してみた。言ってみればまさにこれはビートルズの影響だ。エレクトリック・バンドとの演奏を繰り返す中で俺は新しい奏法を編み出していた。白人たちはこれをモード奏法と呼んでいたな。」
 モード奏法とは、これまで主流だったコード進行を元にしたインプロビゼーション(アドリブ)ではなく旋法(スケール)を主眼としたアドリブを演奏した。その奏法が聞ける著名なアルバムとしては『カインド・オブ・ブルー』、そしてライブ作品として『プラグド・ニッケル』などがある。

 マイルスの達した境地とは常人である我々には計り知れないが、60年代以降の音を聞くと気が付くことがある。それは音数が極端に減っていることだ。しかし下手になったわけではない。もう一度よく聞いてほしい。本当に必要なところに必要なだけ音が供給されているのが分かるはずだ。これこそ天才の天才たるゆえんだ。

 
 1970年代以降、マイルスは再び新しいジャズを追求していく。彼が着眼したのはリズムだった。時代はフュージョンの全盛期、マイルスの名の下にフュージョン・アルバムをリリースしたなら大ヒットは間違いなかったのだが、彼は敢えて困難な道を選んだ。彼が選択したのは、ファンクだった。特に複合リズムである『ポリリズム』に熱中したのだ。それは彼の中に眠る先祖への追悼だったのかもしれない。