最近読んで心に残った文章。
「人の世話になっている人が人の世話をできるか?」この言葉、呪いですね。
今日限り忘れましょう。
大事な人のために、すべてやってあげることが果たして守ることなのか?やってあげているというその心は本当に美しいのか?

「わたしのいないテーブルで」
丸山正樹 東京創元社 p187-188
聴覚障害のあるトキ子さんと聞こえる主人公荒井との会話。
以下抜粋
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<人として生きていくのに一番必要なものは、何だと思う?>
<自尊心だと思う。>
<どんな体になっても、どんな境遇にあって失ってはならないもの。手話を知らんかった時代の私には、それがなかった。家族のやっかい者、人の助けがなければ何にもできん。自分の意見など、何も聞いてもらえん。それより前に、話が通じん。私が何を思っているかさえ相手には分からん。いやおそらく、私が「何か考えてる」とも思わないんだろう。だから全部勝手に決められる。進学も。就職も。結婚も。自分のことなのに、誰かに決められてしまう。そんな者に、自尊心など芽生えるわけがなかろう>
トキ子は、特別感情を込めることなく、続けた。
〈お前は結婚はできん、と言われたよ。子供など持てないとな。どうしてか、と考える前に、そういうものだろうな、と思ったよ。人の世話になってる者が人の世話などできるわけがない。それから何年も経って、亭主に結婚してくれと言われた時、何より嬉しかったのは、ああ、私はこの言葉に自由に答えていいんだ。自分の気持ちをそのまま答えることができるんだ。そう思えたことだった>
絶句した。
何も、言葉を返せなかった。
トキ子は、最後に、
〈手話はな、私に自尊心を持たせてくれた。かけがえのないものだよ》
そう言って笑った。

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