「ちょっと沙奈江、どうしちゃったのその髪・・・・・・」

全部言ってしまった数日後、報告も兼ねて志帆とカフェで待ち合わせをした。

先に店に着いた私が待っていると、少し遅れてやってきた志帆が、私を見つけてすぐに駆け寄って来た。

「いやー、さっぱりしたよね。腰くらいまであったからさ、30センチくらいは切ったんじゃない?って美容師さんに言われたよ〜」

戻ってきたその日に、こっちに来てからずっと通っている美容室で髪をばっさり切った。成人式に向けて伸ばしていたけれど、いざ切ってみると思っていた以上にスッキリした。

「私、好きよ今の沙奈江!これまでの髪の長い沙奈江も可愛かったけど、短くしたことでなんか大人っぽくなった感じ」

志帆は切った理由を尋ねずに、ただ似合うと褒めてくれた。

その後、一応何があったかの報告はした。細かいところは省いたけど。

「ほんと最低だね!一発殴ってやりたい!」

 いつも志帆は、家族みたいに私のことを心配してくれる。まるでお姉ちゃんみたいだ。

「ありがとう、志帆。・・・・・・でもね、不思議なんだけど、私今すっごくすっきりしてるの。なんかすべてが吹っ切れないみたいな・・・・・・」

「そうなんだ。・・・・・・まあなんにせよ、沙奈江にはもっといい人がいるから!あ、近々合コンがあるの!里佳に誘われたんだよね。沙奈江も行ってみない?沙奈江が行くって言ったら喜ぶ男がたくさんいるわよ!」

「うーん、なんか当分恋愛とかいいや。自分のしたいこと探そうと思ってるから・・・・・・。これまでは、大人っぽく思われたいとか、こうならなきゃって思って色んなことやってきたから、いざ自分って何したいんだろって考えた時、分かんなかったんだ」

これまでのことが無駄だったとは思わないけど、なんかこれまでやってきたことが突然どうでもいいことに思えてしまった。

「沙奈江はなんでうちの大学のこの学部に来たの?地元にも大学はあるでしょ?」

志帆がふとそんな質問をしてきた。

「元々第1志望は地元の大学だったんだけど、センターで思いの外取れなくて、先生に勧められて受けたの」

「ちなみに第1志望の学部は?」

「同じで文学部。理系科目が駄目でとりあえず大学には行きたいなって思って、文学部にしたから、何したいかって言われると困っちゃう・・・・・・。志帆はしたいことある?」

「残念ながら、文学部にした理由は沙奈江と同じ。だから、私もしたいこと見つけなきゃいけないんだよね」

「そうなの!?」

「そう!だから一緒に探そ!」

志帆がそっと私の手を取って笑う。

「うん」

と言って頷き、お互いに笑い合っていると、突然志帆が真剣な表情になった。

「佐奈江がこれまでやって来たことは絶対に無駄じゃないから、頑張ってきたことを否定したりしなくて大丈夫だよ」

「でも・・・・・・」

「まだ数日しか経ってないんだし、まだ整理がつかないこともあるよ。けど、きっと良かったって思える日が来るよ」

 遠くを見つめて語る志帆が、とても大人に見えた。

「そういう経験が志帆にはあるの?」

 志帆は少し寂しそうな、悲しそうな表情を少しだけして、人差し指を唇に当てて「秘密」と言った。

 いつか聞かせてもらおうと思いながら、別の話題に変えて話を続けた。

 帰り際、すぐに帰ろうとした私を志帆は引き留め、

「じゃあ、とりあえず合コン行こうね」

とどういう流れでそうなったか分からないけど、そう言ってきた。

 正直行きたいわけではないけれど、話を聞いてもらったり、心配してもらったしと思い、

「今回だけだよ」

しょうがないと言いたげな表情を浮かべながら答えた。

志帆と別れた後、下宿先に向かって歩いていた。

ふとショーウィンドウに映る自分の姿が目に入ってくる。

髪を切ってから、前から持っていた服が似合わなくなって、新しく何着か買った。

これまでと違う見た目にまだ全然慣れない。でも、新しくなれた気がして嬉しいのも事実で、変な感じだ。

あんなに大人になりたいと思っていたのに、今回のことをきっかけに大人になれた気がする。

何だか喜べばいいのか悲しめばいいのか分からない。複雑な感情だ。

けれど何故かこれで良かったと思える。

私はきっと「自分」を見てもらいたかった。「妹」でも「さっちゃん」でもなく、「沙奈江」を見て欲しかった。だから、あんなに必死になっていた。

でももう私にはそんなことをする必要はない。

私のしたいことを見つけて、私らしく生きていく。

そんなことを考えながら、合コン用の服でも見ようと、駅前のショッピングモールの中へと入ったのだった。

 

[Fin]