百年の恋 (朝日文庫)/篠田 節子

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さえないライター稼業の真一が射止めたのは、容姿端麗、頭脳明晰、3歳年上のスーパーエリート梨香子。出会って4ヶ月で結婚はしたけれど、それこそ百年の恋もさめるような悲惨な日々がはじまる。仕事はできるけど、家事はいっさいダメな妻。妙に几帳面で生活巧者の夫。かみあわないふたりの毎日は、梨香子の妊娠で、そのキテレツぶりに拍車がかかる。逆転カップルの結婚生活を描く傑作コメディ。
(裏表紙あらすじより抜粋)


あとがきから考えるに、これは今からだいたい10年ほど前に描かれたお話です。文庫で買ったので正確にはわかりませんが。作中、真一の育児日記が登場するんですが、それはリアルに青山智樹氏の日記なのだそうです。
今はドラマやなんかでも主夫、という言葉が認知されてきています。
立花のお母さん世代の方は「今は男の人だってなんでもできなきゃね」と口々に言い、だけど「あたしらのころとは違って」とボソッとつぶやいたりします。
おむつ替えをするお父さんをみつけては「あら男の人がおむつを!」料理をするお父さんをみつけては「あら男の人が料理を!」
家事や育児はなんでも女の仕事といわれ、がんばってきた方々ですね。
最初はそんなの当たり前じゃん・・・とうんざりしていた立花ですが、ふだん食事の際に箸すら自分で持ってこない父を思い出すと、そりゃ「男の人が!」とも言いたくなるわ、とも思います。
今私たちの世代がそんな男ならいらんと思えるのは(すいません、個人差ありますよね)先人が一生懸命がんばって下さったおかげです。
いまどきの男は弱いと嘆く人もいらっしゃるようですが、立花は優しい男のひとの方が好きなので、地道な努力で男性を変えてくれた先人の女性たちに感謝です。今後また男の人は偉いんだぞって風潮に戻っていく気がしてなりませんが。歴史は繰り返す。


さて、小説のお話。
あらすじにはコメディとありますが、これのどこがコメディなものか。
だってとてもとてもリアルなんだもの。



梨香子は美人で背が高く、頭をよくて仕事もできて人あたりもいいという完璧な女性。
彼女の年収は夫の4倍(800万円!)もある。
ただ家事一切が苦手で、真一の前だと幼児返りしたように、日頃溜め込んだストレスを放出してしまう。
真一は“こんな女だと知ってたら結婚しなかった”だの、“男友達と会ってやがった、離婚だ”だのぐだぐだぐだぐだ考えますが(口に出す勇気はない)あーもう!!!(;`皿´)といらったく読んでました。


梨香子が出産するときには“(離婚したいが)とりあえず無事に産ませてやる”、出産を終えてからは“寝転がって乳を出すだけの雌牛のような女房”だなんて考えていて、かなりぞっとしました。
男の人ってこんなもの?


真一はいいます。
「僕はけんかは強くなかった。金もない。でも男に必要なのは金や力でなく、自分が男だというプライドだと思う」
んなもんいらーん(`ヘ´)!!


や、いらんことはないけど、誰にだって向き不向きがあるし、せっかく家族になったなら協力し合わなきゃ。
「男だというプライド」って、たしかに言葉はきれいだけど、真一のいうプライドとやらに内容は全くといっていいほどない。
そんなものが世界を歪めてみせるなら、やっぱりんなもんいらん。
とはいえ、自分が彼だったら、と考えると嫌な気持ちになるのもわかりますが。


反面、ダメ女と陰口、もとい陰思考される梨香子にはとても共感してしまいました。
出産後、家で赤ちゃんと二人きりで過ごしたときの彼女のセリフ。
「気が狂いそう」「こんなところに、赤ん坊と二人で閉じこめられるのよ。一日中、だれとも話せないのよ。何一つまとまったことができないの。たった一人よ、泣くだけの赤ん坊がいるだけ。物を考えることもできなくなるの。自分が何なのかわからないわ。何をしているか、わからなくなるの・・・・・・」
おんなじこと、思ったよ・・・と。
いいことでも威張れることでもないけれど。


ムカっとしてもスカっとさせてくれるいい小説でした。
これはたしかに物語だけれど、登場人物のキャラクター性や意見は決して現実離れしておらず、リアルです。男女問わず興味を持って読める一冊だと思います。ぜひ。