五覚修行を通じて心が少しずつ安定してきた熊五郎は、次に「木工療法」に挑戦することにした。孝庵医師から「大工としての技術を活かし、木と向き合うことで、心の安定を取り戻していきましょう」と提案されたのである。

熊五郎は、かつてのように木を削り、彫りを入れる作業に取り組むことにした。木の香りを嗅ぎ、木屑が舞う様子を見ながら、心を込めて一つひとつの工程に集中する。「これが俺の本当の仕事だ」と彼は心の中でつぶやき、自分の手の中で木材が形を変えていく感触を楽しむようになった。

木工療法に取り組むうちに、熊五郎の作品は少しずつ仕上がり始めた。木の表面に磨きをかけ、細かい彫刻を施すことで、彼の作品は日増しに美しさを増していく。「これが俺の生きがいかもしれねぇな」と、熊五郎は改めて感じるようになった。

だが、時折頭の片隅に浮かぶパチンコの音や映像が、彼を悩ませることもあった。まだ抜け出せたわけじゃねぇと自覚しつつ、熊五郎は心を木工に向け続けた。