―陵―
嫌な予感が的中してしまった・・・。
和哉さん・・・油断できない。
これからも何かするやもしれない。
絶対に、僕がお護りする・・・。
「・・・陵」
「なんですか・・・?」
「ううん、なんでもないよ」
「はい」
僕の腕の中に、ずっとこうすることができたらいいのに・・・。
そしたら、誰にも触れさせないのに・・・!
落ち着いたように、未来さんは息をする。
ドク・・・ドク・・・。
心臓の動悸が、同じ速さになるのが伝わってきた。
「落ち着いてきたよ、ありがとう・・・」
未来さんがそう言う。
本当に、落ち着いた声だ。
だから、僕は手の力を緩めた。
なぜか、向かい合わせに正座で座る。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙・・・。
前を見ると、未来さんの顔は真っ赤になっていた。
ドキドキ・・・してくれたのかな?
そう考えると、不謹慎にも嬉しくて頬が熱くなる。
どこからか、ピピッという音が聞こえた。
僕らは二人で、びくっとする。
お互いのびっくりした顔を直視して、口元が緩んだ。
それと同時に、空気が和らぐ。
「もう、10時だよ?帰ったほうがいいんじゃ・・・」
「あ、母には言ってきたので大丈夫ですよ」
「そっか・・・」
未来さんは、ホッとしたように微笑んだ。
・・・母に言ってきたのは事実だけど・・・・・。
本音は、こんな状態の未来さんを放っとけないってことだ。
未来さんの部屋に着いて、直後の未来さんはカタカタと震えていた。
体も冷たかったし・・・。
よほど、嫌だったんだろう。
しかも、和哉さんはここに住んでいる。
これを放って帰れる人がいるのなら、信じられない。
「・・・未来さん」
「な、なに?」
少しそわそわしている未来さんに、真剣な口調で話しかける。
未来さんの手に指を絡めながら、まっすぐな視線を送った。
「僕のことは気にしないで大丈夫です。迷惑だと思っているなら、今すぐ取り消してください。愛する人に頼られて喜ばない人なんかいません。少なくとも僕は、凄く嬉しいです!」
「な・・・っ//////!?」
未来さんの顔が耳まで真っ赤に燃え上がる。
繋いだ手が、かなり熱くなった。
何か言いたそうに、口を動かしてるけど声が出てない・・・。
なんだか、可愛いなぁ・・・。
愛しいと思って、目を細める。
そう気を緩めた瞬間、急に扉の向こうから声がした。
「未来?誰か来てる?」
「「!!」」
体が飛び跳ねるほどに、僕と未来さんは驚いた。
未来さんが小声を出しながら、僕の腕を引っ張る。
「や、やばっ・・・!とりあえずこっち・・・!」
「え///!?み、未来さ・・・!」
ガチャ
ドアが開いた。
「あら、もう寝るの?」
「う、うん!あっ明日も早いしさ~!(汗」
毛布の下の方に、僕は口を抑えられて入っている。
今、僕はきっと情けない顔をしていると思う。
全身が火照ったように熱い・・・。
「変ねぇ・・・確かに誰かの声がしたと思ったんだけど・・・」
「き!気のせいだよ!そんなわけないじゃん!あははは!」
「気のせい・・・そうね!・・・あら?こんな袋、未来持ってたかしら・・・?」
「え?・・・っあ!」
持ってきた荷物・・・!
あの中身は・・・!た、大変だ!!
血の気が引くような思いになって、慌てふためく。
今すぐ出たいけど、そっちの方が大変だ・・・。
抑えられた口が開放された。
未来さんが慌ててベットから出て、お母さんのところに駆け出す。
「そ、それ!貰ったんだよ、友達に!」
「そうなの?」
「うん!!なんだっけ・・・その・・・。あ!た、誕生日プレゼント忘れてたって!遅れてくれたの!」
未来さんの説明に、納得した声が聞こえた。
正月で忙しかったから忘れてたらしい。昔からそういうこともあったじゃん!
との説明で。
「電気消して寝るのよ、おやすみ」
「うん!おやすみ~!」
パタン・・・
静かに閉められたドアと同時に、僕はそろっと顔を出した。
こっちを見た未来さんと目が合う。
苦笑し合って、少し張り詰めた空気が和らいだ。
未来さんが片手にもった袋を持ち上げながら僕を見た。
「あ、そういえばこれ陵が持ってきたやつだよね?」
「はい、そうです。隠すのを忘れてしまってて、すみません」
「んーん、いいよ。それよりこれ何?ちょっと重たいけど・・・」
いろいろ入れて来ちゃったから・・・。
苦笑を混じらせ、説明した。
「明日使う教科書と、制服を持ってきました」
「・・・は?」
どういうこと?と続きそうな顔をしている。
それがなんだか可笑しくて、くすっと笑った。
わかりやすいなぁ・・・。
「今日は、泊まる意気込みで来たということです」
「と、とま・・・っ///!?」
「あ、大丈夫ですよ!変な気を起こさない自信はありませんが、変なことは絶対にしませんから!」
「そ・・・!そんなこと聞いてないし///!!」
未来さんの一発が飛んできた。
久しぶりのパンチは効きます・・・。なんてのんきに考えて、床に手を付いた。
「あたた・・・」
額を抑えながら、未来さんを見た。
恥ずかしさを抑えるように、手で顔を覆っている。
もしかして僕は、とんでもないことを言ってしまったんだろうか・・・?
未来さんがこんな反応するなんて・・・。
なんだか、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「あ!ごめん、痛かった?」
未来さんがこっちに目を向けた。
少しだけ。と言って、僕は床に座る。
「それより、電気を消したほうがいいのでは・・・」
「あ、そっか!寝るって言っちゃったから、お母さんまた来るかもだし・・・。じゃあ消すね」
「はい!」
パチンと音と同時に、電気が消える。
夜だけど、月の光が差し込んでくるから少し明るい。
「では僕はここで寝ますね」
「え、でも風邪引くかもしんないじゃん!」
心配してくださってるんだ・・・。
僕は、身を乗り出してきた未来さんの顔に触れる。
一気に手のひらいっぱい、熱くなった。
未来さんの大きくなった瞳を、捉えるように見る。
「大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございます、凄く嬉しいです!あ、それに風邪をひいたら未来さんがお見舞いに来てくださるので悪くないですよ♡」
「な・・・!・・・バカ///」
否定しない、ということが嬉しい・・・。
ニコッと笑って、顔を近づけた。
愛しすぎて、たまらない。
未来さんは察したかのようにゆっくりと目を閉じる。
―――――真っ暗な部屋に、何度もキスの音が響いた。
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