「B棟506号室の夕暮れの出来事」 team0214 4th conte live 「コーヒーは雨の降る午後によく似あう」より


台所で夕食の準備をする母。
母に必死で訴えかける娘。
母と娘の間には、ダンボールの中でしゃがんでいる
穏やかそうなスーツ姿の中年男性。


娘 ねえ、お母さん、お願い。


母、娘を振り返ることもせず、


母 何度言ったら分かるの。
   うちは社宅だからダメ!


娘 えー、でも絶対分からないよ。
   吠えたりしないし。もし、人に見られても、あ、お客さんだ。と思われるぐらいだよ。


母 だめだったら、だめです。
   部長はダメ!
   中間管理職じゃない。

娘 えー、ごはんも私がやるし、散歩もするから~。

母 そんなこと言って、結局、わたしがすることになるのよ。
   前飼ってたザリガニ、あんたえさやらないで
   死んじゃったじゃない。


極度に反応するダンボールの中の部長。


部長 !!


母 最後には、二匹いたザリガニ。共食いして!


部長 !!


娘 今度は、一人だけじゃん。
   ごはんも絶対やるから~。


母 嘘つきなさい!朝夕、部長と散歩する私の身にもなってみてよ。
   ものすっごいストレスよ。
  そもそも何を話せばいいのか全然分からないわよ。

娘 週間現代とか、プレジデントとか読めばいいんじゃない?

母 まったく!お父さんが帰ってきたら叱ってもらいますからね。

父 ただいま~。


父、帰ってくる。
父に抱きつく娘。


娘 お父さん、お帰り~。

妻 ねえ、ちょっと聞いてよ。
   また、恵理子、部長拾ってきたのよ。

父 ははは。だめじゃないか。
   恵理子、部長好きだからなぁ~。
  こんどの部長はどんなだ?


ダンボールの中で座っていた部長。立ち上がり。


部長 やあ、松田君、今、帰宅かね。お疲れさま。

父  部長!

母 あら、主人がお世話になっています。

部長 なんだかお邪魔してしまってすまないね。

父 いやいや、そんなこと・・・。


部長 お得意と会っていたはずなんだがね。
    恵美子ちゃんにね、気づいたらいつのまにか拾われちゃって。

父 すみません。昔から恵美子、部長を欲しがってまして。

部長 昔、会社の運動会で会った時は、あんなに小さかったのにねえ。

父 部長が家にいると、やっぱ情操教育とか社会の勉強とかにいいとは思うんですが・・・。

部長 あっという間にこんなに大きくなって。


はにかむ娘。


父 なんせ社宅ですから。管理職以上は禁止されているんですよ。

部長 わたしも歳をとるわけだ。

娘 お願い。お父さん。部長がいれば、きっとわたしちゃんと育つよ。
   ぐれたりしないよ。

母 無茶なこと言うんじゃありません。
   部長さんも迷惑よ。
  

部長 たしかに。わたしがいれば恵理子ちゃんは決してぐれないね。安心だ。
    こんなこと言うのもなんだがね。わたしからもお願いするよ。
    置いてくれないかね。

父 ・・・。

母 !
  ちょっとやめてよ。あなた。
  世話するのはあたしなのよ。
  朝夕、スーツ着た男性と散歩。
  浮気していないのに、浮気しているみたいじゃない。
  なんか損してる気分よ。
  近所の人になんて言われるか。

父 でも、恵理子の教育のためには。

母 いやよ。部長が毎日、うちにいるなんて。
  早く新橋に戻してきて!

部長 昔は、上司からのお願いは絶対だったんだけどねえ。

父 分かりました。部長を家におこう。

母 あなた!

父 上司の命令だよ。しかたないじゃないか。

母 私、実家に帰らせてもらいます。

娘 やった!やった!部長!部長!


はしゃぐ娘。


部長 ははは。


おちゃめにかわいこぶる部長。


部長 あ、そういえばね。

父 はい。

部長 松田くん、まだ公には言えないんだけどね。
    来月から君も部長に昇進することになってるよ。

父 ほ、ほんとうですか。
   ありがとうございます。

娘 部長が二人!
   部長が二人!
   派閥争い!
   共食い!
   共食い!


楽しそうにはしゃぐ娘。


暗転