突然の邂逅。
おじいさんは身構え、犬はぐるる……と犬っぽく唸ったりしてみます。
「う、うきっ……?」
猿でした。
ええ、あれに見えるは紛れもない猿です。赤褐色の体毛に覆われ、顔と臀部は丸裸であり、なんにせよ「うきっ」と鳴いたのです。これを猿と呼ばすして、なんと呼称するのか。
「おお、なんだ……猿か」
「うきっ」
ほっと胸をなで下ろしたおじいさん。
猿は何も考えていない様子で、尻をぼりぼりと掻いている。傍目では間抜けな様子だ。
「あの……猿、ですよね?」
「……うき?」
おじいさんと犬は顔を見合わせる。
「あれ、猿は喋らないのか?」
「その様ワンね」
「なんで犬が喋れて、猿が喋れないんだ」
「……それは、言外に『犬は猿より、知能が低い所詮四足歩行の犬畜生で、どう足掻いても類人猿や霊長類には遠く及ばない、家畜がお似合いのペット風情』という意味が込められてるワンか?」
「深読みしすぎだろ」
「……そう聞こえたワンよ」
「考えすぎだ……とにかく」
おじいさんは懐から、きび団子……じゃなかった。よもぎ団子を取り出し、猿の前に差し出してみる。
いくら、喋れないとはいえ、猿を仲間にしておいて損することはあるまい。
そんな損得勘定丸出しの、思考回路のおじいさんは仲間に出来ないだろうか、とダメ元で猿によもぎ団子をプレゼントフォー・ユー。
「……うき」
猿は、少し警戒する様子を見せたが、匂いを嗅いだ後、おじいさんの手からよもぎ団子を受け取り、口に放り込む。しばらくしてゴクリと嚥下(えんか)。
「……これは仲間になったという認識でいいのかワン?」
「いや、どうなんだろう。コミュニケーションが取れないからわからないな」
「でも、団子食ったら仲間になるっていうテンプレがあるだろ」
「……そういう小説内世界観を崩す発言は控えてくれないか」
やれやれといった様子のおじいさんを傍目に、猿は可愛らしく首をかしげて鳴いてみせる。
「うき?」
「いや、うき?じゃなくてさ……犬、お前サル語とか喋れないのか」
「出来るわけないワン。言語は犬語と日本語とアゼルバイジャン語しか話せないワン」
「最後、一体どこの国の言語なんだよ……皆目見当もつかんわ」
「犬なのに、三ヶ国語喋れるバイリンガルなんだワンよ?凄くないかワン?」
「犬語を、一つとして捉えていいのか難しいな」
「……どうするワン?」
「そうだなぁ」
うーんと、腕組みをして考え込むおじいさん。
「まあ、とにかく先に進もうか」
*
おじいさん一行は、何食わぬ顔でその場を後にする。
気になる猿の様子はというと。
「……なぁ、犬」
「……なんだワン?」
「猿……ついてきてるな」
「あ、あぁ……どうやら仲間になったという認識でいいようだワン」
おじいさん達の歩く、数メートル後方。
決して、それ以上は近づこうとはしないが、マイペースな歩みで猿は確実におじいさん一行の後をつけてきている。
仲間になったのか、それともただ単に「まだ団子貰えるかも」という食欲の赴くままに欲望全開ストーカー行為なのか。
その判断は、猿本人にしかわからないのだが、多分前者だろう……というか前者であって欲しい、という望みのおじいさん。
「と、ともかく心強い仲間がついたじゃないか」
「喋れないのがネックだだけどね……あぁ、ワン」
【その5に続く】