
日本だけでなく中国などアジア圏でも人気爆発中の若手俳優・古川雄輝。同年代の俳優の躍進が目覚ましいシーンのなかでも、人気と実力を兼ね備えた古川は特異な立ち位置からいままさに周囲を圧倒する輝きを放っている。そんな古川が、人気少女漫画を実写化する映画『脳内ポイズンベリー』で演じたキャラクターと自身を比較しながら、俳優という道を選んだ理由とふだんの素顔を語ってくれた。
中国語は勉強中…挑戦していきたい

──日本だけでなくアジアでの人気もすごいですが、新作『脳内ポイズンベリー』の早乙女役で、さらに女性ファン増えそうですね。
古川:そうだと嬉しいですね。中国のファンとの主なコミュニケーションツールはウェイボー(weibo)というツイッターのようなSNSなんですが、そのウェイボーのフォロワーが今145万人いるんです。そういう経緯もあって最近は中国でお仕事させてもらったり、日中合作のドラマに主演したりしています。
──すごいですね!ということは、古川さんは帰国子女で英語が堪能なうえに中国語も話せちゃうんですか?
古川:英語はしゃべれますが中国語は勉強中です。中国でドラマを撮ったときはセリフが英語と中国語だったんですけど、中国語はものすごく発音が難しくて……。でも挑戦はしていきたいですね。
──そんなアジア進出のきっかけは『イタズラなkiss love in TOKYO』シリーズ。
反響のすごさを知っているからこその今回のプレッシャーはあったんでしょうか?
古川:あまり意識しないようにはしています。アジア圏でもおそらくこの映画は上映されると思うので、『イタキス』とは違う一面を観てもらえることは嬉しいですね。
──確かに今までとかなり違うキャラでした。そもそも少女漫画への抵抗は?
古川:姉が持っていた少女漫画を読んでいたし、俳優としても『イタキス』をはじめ少女漫画原作の作品が多かったりするので、抵抗はないです。ただ、そのなかでも『脳内ポイズンベリー』はすごく斬新。ふつうの少女漫画とはちょっと違うなと思いました。イケメン王子が出てきて、どっちの王子にするのか悩む……みたいなストーリーではなく、越智さんも早乙女も、出てくる男性は決して王子様のようなキャラクターじゃない。ヒロインのいちこさんにしてもポジティブな部分とネガティブな部分の両方があって、その感情が脳内で描かれているのがおもしろくて。自分が読んでおもしろいと思ったコミックのキャラクターを演じることができる嬉しさもありました。
理解するのが難しかった女性に対する感覚…

──早乙女というキャラクター、どうやって自分のものにしていったんでしょうか?
古川:僕はできるだけ原作のキャラクターに近づけて演じたいタイプなんです。なので、原作をしっかり読み込んで、このセリフを言っているときの早乙女はどんな気持ちなんだろう? 早乙女の歩き方や座り方はどうだろう? とか、仕草ひとつであっても取り入れたいと思っています。そうやって役を作っていきました。あと、早乙女に関しては自分自身と似ているところもあるんですよね。
──たとえば、どんなところですか?
古川:子どもっぽいとか、野菜が嫌いとか(苦笑)、そういうところは活かしています。また、今回は現実パートでの出演だったので、原作を取り入れつつも自然体でというのは意識しました。
─野菜を除けて食事をしるシーンは、古川さん自身でもあるんですね(笑)。一方、自分にない要素については、どうやって近づいていったんですか?
古川:早乙女を演じるにあたって一番難しかったのは、何を考えているのか分からない部分が多くて、それは漫画を読んでも台本を読んでも分からない。佐藤監督に聞いて、相談して、監督の指示に従って作っていきました。
──具体的にどのシーンでしょう?
古川:元カノに会うシーンがあるんですけど、ふつう、今カノと一緒にいるところに元カノが表れたら相当焦ると思うんです。なので僕は“真剣に焦る”という芝居をしたんですけど、監督は早乙女はその状況を悪くないと思っていて、「このひとは元カノだよ、このひとは今カノだよ」って普通に言えてしまう感覚なんだと。それを理解するのは難しくて……。
──でも、新鮮でおもしろかった?
古川:ですね。これまで演じてきた完璧なキャラクターは、完璧なりの難しさがある。何でもかんでも完璧に見せなくてはならない難しさがあるんですが、こっちはこっちで、わざとダメな部分を出すのではなく、考えてはいるんだけど考えていなさそうに見せなくてはならなくて。そういう演技は細かい動作で表現できるということを知りました。あくびをする、目をこする、枕を抱えるとか、完璧なキャラクターがやらなさそうな動きを加えることで、早乙女風になれるんです(笑)。
後悔する自分が嫌で選んだいまの道

──なるほど!自分からアイディアを出したりしたことは?
古川:キスシーンはこれまでの作品で経験があったので、自信をもってやるぞ! って意気込んで撮影に臨んだんですけど、結局「いや……そういうキスじゃないな」って、完璧にやりたかったのにNGを出してしまいました(苦笑)。でも、作品ごとに新しい課題が出てくるのは役者という仕事のおもしろさでもありますね。
──俳優さん道を進むきっかけとなったのは、ミスター慶応コンテストでのグランプリ受賞でした。もともと演技の世界でやっていきたいという未来図を持っていたんでしょうか?
古川:ミスター慶応に選ばれたのが大学3年のときで、その後、声をかけてもらって今の事務所のオーディションを受けたんです。当時はもちろん就活をしていたし、大学院も受かっていて……。なので、このまま就活するのか、大学院に進んでから就活するのか、大学院に進むのかどうか、それとも俳優になるか、4つの道のどこを進むか脳内会議をして、“衝動”で「俳優になる!」と決めました。就活もやめて大学院も断って、俳優の道を選んだんです。
──その決め手となったのは何だったんですか?
古川:ここでやめたら一生後悔するって思ったんです。僕は理系だったので、大学か大学院を卒業してエンジニアになったとしますよね。で、仕事で嫌なことがあったときに「あのとき、俳優の道を選んでいたら……」って後悔する自分が嫌で、それで俳優の道を選びました。
──当時、どのくらい脳内会議をしたんですか?
古川:俳優の道って決めるまでは衝動だったので決断は早かったんですが、決めた後はけっこう会議しましたね。決めたはいいけど、仕事は全然ないし、どうしよう……って(苦笑)。そのときは、この映画でいう“理性”とか“ネガティブ”な要素が多かったんですけど、考えても仕方ないのでとにかくがむしゃらにがんばりました。
──お芝居自体に趣味を持ったのはいつですか?
古川:自分が俳優になれるなんてまったく思っていなかったけれど、オーディションのときに初めてお芝居をして、ものすごくおもしろくて。僕、ダンスを7年ほどやっていたんですけど、ダンス以外でおもしろいと思ったのがお芝居だったんです。これを職業にできたらなんて素晴らしいんだろうって思いました
思ったことをすぐ口にしてしまうタイプ…

──これだと思うものに出会ってしまったわけですね。ただ、海外生活が長かったわけですから海外で就職という選択肢はなかったんですか?
古川:それはなかったです。カナダに8年、ニューヨークに3年住んでいましたけど、日本が大好きで日本に帰りたくて仕方なかったんです。日本の学生生活にも憧れていたし、だからもう一生日本で暮らしたい(笑)。でも、英語を活かして海外の仕事はしていきたいと思っています。
──楽しみにしています。続いて、今回の撮影で一番印象に残っているシーンはどこでしょう?
古川:早乙女がいちこさんが30歳だと知ったときの「ないわ~」っていうシーンの撮影ですね。監督が冗談で「10パターンぐらい撮るぞ!」って言っていたんですけど、結局20パターンくらい撮りました(苦笑)。台本に書かれている台詞はたったのひと言「ないわ~」なんですが、その後にアドリブを入れなくてはならなくて。いちこさんが頭のなかで勝手に想像している早乙女のリアクションなので、早乙女としてはそんなこと思っていないけれど、いちこさんに向かってひどいこと、バカにするようなことを“がんばって”言いました。監督がまた楽しそうに、煽るように指示を出してくれるんです(笑)。
──女性としては「ひどいっ!」と思いつつも笑わせてもらいました(笑)。古川さん自身はいちこのどんなところが好きですか?
古川:可愛いなぁと思ったのは、早乙女が「じゃあ、つき合う?」と言ってつき合うことになるシーン。いちこさんが満面の笑みでベロを出すシーンがあるんですけど、それがものすごく可愛くてキュンとしました。また、可愛いだけじゃなくて、女性って恋愛に関してこんなに脳内会議をしているんだってことを知って、女性の心を読むのは難しいなって(苦笑)。男性としては、映画のなかの早乙女のセリフにもあるんですけど、ちゃんと言ってほしい。いちこさんは会議だけして、遠慮して本当の気持ちを言わないけれど、男性はそれに気づかないことが多いんです。
──ちなみに古川さんは?
古川:すぐに言っちゃうタイプです。フィルターを通さずに(よく考えないままに)言っちゃって失敗した経験も多々ありますね。でもまあ、いい意味で素直ということにしておいてください。そういうところは早乙女と似ているんですよね(笑)。

(文:新谷里映/撮り下ろし写真:鈴木一なり)
古川雄輝 『脳内ポイズンベリー』インタビュー