見上げると夜空に月が貼りついていた。

オレはぼんやり眺めながらそのまま土手に寝そべった。

「あいつ、とうとう来なかったな…」

オレの呟きがむなしく夜のとばりに消えていった…。

 

1989年はくすぶっていた。高校3年になり、周りは就職やら進学やらで何やら忙しい。

オレは何となく通っていた高校から突然放り出されることに、どこか冷めた気持ちで自分を眺めていた。

中学時代に両親を失った稔には進学はとても考えられる選択肢ではなかった。

かといって、就職も自分自身が何をしたいのかが分からず決めかねていた。

 

はっきりしていたのは、このくすんだ街から出ていきたいという思いだけだった。

ただ、気がかりが一つだけあった。それは、兄の存在だ。

両親が亡くなって以来、兄は心のバランスを崩してた。

ずっと画板に向かって、真っ黒な絵を描く日々。

それを後ろから眺めるには、以前の屈託のない笑顔を見せていた頃の兄が忘れられずにいた。

兄はあの日以来、オレからしか食事をとらなくなっていたのだ。

 

「オレが出て行ったら兄はどうなるんだ・・・」

 

そんな思いに駆られながら鬱屈とした毎日を過ごしていた1989年の夏。

その女は突然稔の前に現れた。

 

それが「しのぶ」だった。。。。

 

第1話 完