美味いものを食べて美味いと思う。不味いものを食べて不味いと思う。それではライオンがシマウマにかぶりつくのと変わりませんね。
人間の首の上についている頭はなんのためにあるか。数十万年、数百万年をかけて進化してきた人間の脳はなんのためにあるのか。無から有を生む。想像力の世界に遊ぶためです。
昔の話ですが、○HKの番組にゲストとして詩人の高橋睦男さんが出たことがある。あっち系の詩人で三島由紀夫とも親しかった。
ゲストが料理を作って友人に振る舞うという番組で、高橋睦男さんは鴨鍋かなんかを作った(なんの鍋だったか。昔のことで記憶がやや怪しいので鴨鍋かなんかということで話を進ませてください)。
純白の脂身のついた赤紫色の綺麗な肉が大きなお皿に咲いた花のように盛りつけられる。詩人らしい細心さで切られた大根や葱がその下に添えられる。土鍋には日本酒がドボドボと注がれ、繊細な湯気を立てている。
頃合い良しと見た司会のアナが、「では頂きましょうか。入れるのはまず肉からですよね?」聞くと、
詩人は「いやいや」と首をふり、「まず野菜から入れてください」
沈黙の時間がやや暫く流れ、ぐつぐつと野菜が煮えてきた頃、再びアナが「そろそろ肉を入れましょうか」と促すと、高橋睦男さんはこう仰った。
「いや、この鍋には肉は入れません。この肉は見るだけです。肉を見ながら野菜を味わう。それがこの鍋の肝心なところです」
詩人の言葉を聞いたアナはしばし絶句しておりました。