ロンジ写真館『蝶の眼薔薇の声』

その23『鐘


写真・文by ロンジ (クリック)


遠くで入相の鐘がなります
どこかの犬がひとつ鳴き
藍色の空をもっと深い色の鳥が帰ってゆきます
夕餉の匂い 走り去る泥だらけの自転車
そんな曖昧でやさしい姿をした圧倒的な現実が
夢物語をかたるあなたの口を重くするのです
結局どこへも連れて行ってくれないあなたがついに黙ったとき
私は預金通帳と歯ブラシだけが入った旅行カバンを持って
ひとり家路につきました

玄関のドアを開けると暖気が流れ出て行き
奥から間延びした「おかえり」という声がします
私は誰にも知られないようにそっと
もう使うことがない旅行カバンをクローゼットに押し込みました


『鐘』文by 70rock


朝霧が病室の窓を濡らしていた


君のために校歌をうたう僕らの前で
君は最後の息を音をたてて吐きだすと
ひとり永遠へと旅立った


木履(ぼくり)で登った桜の丘の
耳をすませば始業の鐘が聞こえてくる空の下で
今も十八のまま眠っている
友よ


あれから時は傾いた輪軸のように
緩やかに
緩やかに曲がりながら昇ってきた

そして今
時は僕を君のいるところへ連れてゆこうとしている


再会の日
老いて草臥れた僕は
永遠の童子でいる君になんと答えよう


おまえは今日まで何をしてきたのか
という君の問いに


冷やし蜥蜴寫眞館 (クリック)のロンジさんと 
私70rockとのコラボレーション
ロンジ写真館『蝶の眼薔薇の声』の第23回です。


日曜の夜にロンジさんの写真と文章をアップ。

その写真と文章に触発されて私の灰色の脳細胞に生れた言葉を書きつけ

1枚の写真と2つの文章を次の日曜にアップします。



その1『指輪』その2『紫陽花』その3『装置』その4『Nine Lives』その5『残暑』

その6『横浜ベイサイド』その7『一人と二人の夜のものがたり』その8『官能』

その9『板チョコと廃工場』その10『かきのきのさか』その11『舞台』その12『水辺』

その13『まちぼうけ』その14『土蔵』その15『凍る夜』その16『渇望』その17『回廊』

その18『指』その19『アイスバーグ』その20『籠の鳥』その21『潮満るを待つ人』その22『片道切符』