ロンジ写真館『蝶の眼薔薇の声』


その14『土蔵』

写真・文by ロンジ (クリック)


冷たい土蔵に黄金色の光が射し
埃をかむった葛篭を出たがる鼠が揺らすのです
私は鼠の親子の通り穴を夢中で掘って
焦がれた夕陽の下へと逃げ出しました
高台のこの地を渡る潮風はつよく
足のよわい私を転かすには十分でした
赤い絹をよごしながら此処でない何処かを探すのですが
海猫でさえ迷うことなく帰ってゆくのが
私を臆病にさせました
いよいよ駄目だと観念して土蔵に戻りましたが
もう二度と葛篭が揺れることはありませんでした


『土蔵』文by 70rock


遠い昔、

子供だった頃、

赤い目をした白い青大将が

土蔵の白壁をまっすぐに天井まで登っていくのを僕は見た。


太鼓の音が遠くから聞こえてくる夏の夜、

17になったばかりの姉が

男の手を引いてそっと土蔵に入っていくのを僕は見た。


土蔵の小窓が金色に光る夕方は

なぜか

気のふれた姉のことばかり思いだす。


冷やし蜥蜴寫眞館 (クリック)のロンジさんと私70rockととのコラボレーション、ロンジ写真館『蝶の眼薔薇の声』の第14回です。


日曜の夜にロンジさんの写真と文章をアップ。

その写真と文章に触発されて私の灰色の脳細胞に生れた言葉を書きつけ

1枚の写真と2つの文章を次の日曜にアップします。



その1『指輪』その2『紫陽花』その3『装置』その4『Nine Lives』その5『残暑』

その6『横浜ベイサイド』その7『一人と二人の夜のものがたり』その8『官能』

その9『板チョコと廃工場』その10『かきのきのさか』その11『舞台』その12『水辺』

その13『まちぼうけ』