園客列伝の1 『デモナイ君』


3.惚れ惚れするほどいい度胸

デモナイ君が現われる場所は公園のほぼ中央。時計塔がある辺りです。皆さんも御存知のとおり、この時計塔から北に向かって真っ直ぐに道が通っている。道の長さは約200メートル。両側が公孫樹並木になっている。晩秋になると金色の葉が鮮やかに中空を染め上げる。

この公孫樹並木の南の端。時計塔から見て左側のベンチ。そこがデモナイ君の指定席です。この席に座っているというだけでデモナイ君が顔に似合わぬいい度胸の持ち主だということが分かる。

そのベンチがあるあたり。そこは千閣乃公園内の東西南北の道が交わる位置です。四通八達の地。言わば千閣乃公園のローマである。 デモナイ君はそんな場所にあるベンチに腰掛けて見慣れない楽器を弾いている。嫌でも人目につく。耳をそばだたせる。

ベンチの形は似てますが千閣乃公園ではありません。


フツーであれば、よほど楽器を弾く腕前に自信がなければ座れないベンチです。

で、肝心の腕前ですが、デモナイ君が奏でる楽器から旋律らしきものが聞こえてきた試しがない。以下に紹介するのは私と知人の或る昼下がりの会話です。

私『あの時計塔のあたりのベンチで見慣れない楽器を弾いてる男を知ってます?』
知人『ああいるいる。そう言えばよく見かけるなぁ』
私『あの楽器から音が出てくるのを聞いたことあります?』
知人『ん? ああそう言えば聞いたことないなぁ』
という現状です。そしてこの現状はいっこうに改まる気配がない。

日本の公園には一定の規則、不文律のようなものがあります。

公園がある程度の広さになると、トランペット、クラリネット、笛、太鼓など、様々な楽器の練習場として使われるようになる。最近の千閣乃公園はダンスや殺陣や大道芸の練習場としても利用されている。

この場合、初心者、中堅、ベテランが公園に占める位置は自ずから決まってくる。初心者は公園の目立たない端っこ。中堅はやや内側。ベテランが公園の中心に居すわる。無言のうちに棲み分けが決まっている。

デモナイ君はこの不文律を打ち破った。圧倒的初心者のくせにローマ皇帝が座るベンチにいる。革命的精神の持ち主なのか。ただ鈍感なだけなのか。私なりの判断はありますが口外は差し控えます。[続く。次回が最終回です]

by 70rock