星の瞳の煌きのなかで夜は過ぎ、僕らはホテルのロビーに集 まった。今日は僕らはニュージャージーのアズベリー・パークに行こうとしてい る。ブルース・スプリングスティーンと塩味タフィーとかいう胸くその悪いシロ モノの故郷だ。この食べ物については、ここでは何も言わずにおこう。

今日、僕は車の中でジョン・パワーとお喋りをした。彼はラーズの中でも一番の 話好きで、事実、彼は自分のことをミスター・インタビューと称している。
「ラーズはアメリカは好きかい?」
僕の質問に対するジョンの答えは哲学的だ。
「アメリカはほかの何処かと似たようなものさ。良いところもあれば、悪いとこ ろもあり、醜いところだってある。どこかの街みたいにね。ブラックバーンでも 女とヤレるし、リバプールでも同じだ。女とヤるためにニューヨークに行く必要 なんかない」

彼はここで正確な数字を出しながらこう言った。
「今回のツアーは僕たちが経験した中でも一番長いものだ。6週間ってのは、お そらくほかのバンドなら平均的な長さだろうな。でも俺たちにとってはさ。6週 間も一緒にプレイをするっていうのは何か別のことなんだよ。La」

バンドとして演奏してまわるという話になると、どうしてもラーズをめぐる奇妙 な事実を思いだしてしまう。彼らがバンドを作ってから十年かそこらは経ってい るのに、その間、彼らが何とかリリースしたのは僅か1枚の LPだけだなのだ。今 だって彼らの1セットのステージに新曲はたった5つしかない。 ラーズの怠けグ セってやつは大洋を渡るようなスケールだと思う人だっているだろう。

「俺たちだってそれは分かってるさ」
ジョンは溜め息を漏らす。
「新しい曲は一杯あるんだ、La。まだライブでやったことがない曲だってある。 もっとエキサイティングな曲にしようと思ってるのがね。キャミーはリフを一杯 溜めこんでるし、リーも曲を溜めこんでる。僕だってね。この1年半ほどは曲を 書くのには最高のときだった」


僕らは現代の95th Roy Rogers Snack Barみたいな所を通りすぎ (僕らが食べた 不味いラベリー・ハンバーガーの記念に書いといたよ)、新たな疑問について2人 でじっくりと考えてみた。
「ラーズが2枚目のLPを出したとして、そのときも1枚目と同じくらい駄目だと思 うんだろうか? 」
ジョンはくしゃくしゃの髪の毛を揺する。
「最初のアルバムのときはさ、自分たちがやりたかった事についてかなりいいア イデアがあったんだ」
彼は言う。「だが問題はそれをみんなにどう伝えるかだ。幸いなことに俺たちはスタジオで 何をやりたいか分かっている。人は過去とか色んなものから学ぶんだ。もしそれ が俺たちの求めてるものなら、それを作りたいと思う。俺たちはただバンドの本 当の表現をレコードにしたいんだ。それがすべてさ」

問題の本質から逃げている感じもする。だが何はともあれ、ラーズみたいな人間 はとても少ない。

僕らは会話を休み、ボブ・ディランのテープを聞いた。ジョンはディランに似せ た声で歌う練習を始めた。リーと同じで彼も凄く物真似がうまい。彼の「Stars In Their Eyes」なら男のコも女のコも金を払うだけのことはあるだろう。

また別の質問ができる時間がきたようだ。
「多くのファンはこう思ってるよね。ラーズはマージー・ビートのハーモニー、 ジャングリーなギター、それにレトロ・タッチのトップ・チューンをブレンドし たもんだって」
ジョンは肩をすくめた。
「好きにするさ。どうせ誰も彼も喜ばすことなんてできないんだ。いつだってア ホみたいな批評をするやつはいるものさ。レトロが何を意味するのか俺には分か らない。誰も自分の過去は否定できないだろ。それを受け入れ、そこから学ばな きゃ。と同時に俺は今日を生きてるんだ。今に生きてるんだよ。分かるだろ。俺 はクソ60年代にいるわけじゃないんだ」

僕たちの車は観光バスと並んで窮屈そうに走っている。 リー・メイバースが眠 っているのが見える。今のラーズはなんか逆乞食みたいに見えないだろうか?
「なかには全く誤解している連中だっている。物の分かってる人間となら上手く やっていけるんだ。ちょっとやそっとのことじゃ動じない奴、緊張して身構えた りしない人間とならね」
ジョンは言う。
「ところがさ。インタビューアーなんかが俺たちに会いにくる。そこで俺たちが 何かコメントを投げてやる。すると奴らはどういうわけか、俺たちを傲慢なクソ ったれと思いこむわけだ。俺たちが自信を持ってて何が悪いんだ。あいつらはそ れをただ間違った方向に解釈してしまうんだ」

この世界は奇妙に出来てるぜ、とでも言うように、彼は溜め息を漏らす。
「このクソみたいなことは奴らの問題なんだよ。俺たちのじゃない。このバンド を知ってる者は誰だって理解してることさ。俺は誰とだって上手くやっていける んだ」


アズベリー・パークはまさに世界終末映画のセットのような 風景だった。板張りの遊歩道の外には、見捨てられたような舞踏室が支柱に支え られながらビーチに佇んでいる。半分壊れたクラブが通りのあちこちに散らばっ ている。ロックンロール美術館は閉鎖されていて、塩味タフィーを買いにくる観 光客もいない。

だがラーズはそんなことは気にせず、豪華なファスト・レインズ・クラブでサウ ンドチェックした( "Son Of A Gun "、"Follow Me Down" )。そのあと僕らはバンドの友達のそのまた友達に連れられてバーへ行った。

土地の人たちはとても気さくで、僕らはすぐにブルース・スプリングスティーンのレコードに合わせてジャイブした。 玉突き台のそばでリーはリックと呼ばれる陽気な男と出会い、すぐに固い絆の友達になった。わあわあ大声を上げながら リーの腕をぴしゃぴしゃ叩いているリックに向かって、リーはこんなふうに叫び 続けていた。
「やっかいな奴と友達になっちまったもんだなあ!」

リーは明らかにサイコーの気分のようだった。ラーズのショーもここ何日間では最高の出来だった。あの偉大なレッド・ツェッペリンのインストゥルメンタルを寄せ集めたみたいな「Swashbuckler」でアンコールさえやってのけたくらいだ。 バックステージは陽気な宴だった。
「ホッホーッ!」リックが叫ぶ。
「お前はいいヤツだよ!」
「 やっかいな奴と友達になっちまったもんだなあ!」

リーが返す。

翌日の空は灰色だった。海を前にした叙事詩的な気分のする朝食。それにリーとのお喋り。リーはマックスまでエンジン全開って感じだった。
「アメリカはBirkenheadみたいだな」
それが彼の最初のご託宣だった。
「君はあそこに行ったことない?チェックしとくんだな!」
アメリカに対するリーの印象はこれで正式に終わりを告げた。
「個人的にはアメリカに来るのは別に大きなことじゃない。これはビジネスみた いなもんさ。頭の中を幸福に保つようにさえしていれば、俺たちは笑っていられ る・・・俺たちは今、自分自身の軌道に乗っかってるわけじゃない。他人がこしらえた軌道に乗って走ってるんだ。でもね。それを利用して自分のやりたいことがやれるポジションに行くことはできるんだよ」

「アメリカに来る前、俺たちはツアーに行くのを楽しみにしてたんだ」
彼は認めた。「来てみたらずっとハードだったな。サウンドに問題があった。この二晩は特に ダメだった。自分の歌なんかも聞こえなかった。でも2、3、いいギグはあったけどね」
「次のアルバムは」 リーは強調した。「すごいものになるよ」と。

「俺たちは自分の力でこれをやろうと思ってるんだ」
彼はどこか力のない確信をこめて言った。
「他人のスープに邪魔されたくないんだ。自分たちの好きなように料理を作りた いんだよ」
「で、そのアルバムはどんな風になりそうなんだい?」
リーは"説明する"のが楽しそうだった。
「俺がこの車をいよいよ道に出すときは、きっと頭に宇宙の帽子みたいなのを乗っけてるだろうな」

車はその間にも、なにか"方向性"にとりつかれでもしたようにスピードを上げて走ってゆく。

ポップ・ミュージックの世界では、多くの場合、みんな張り切って次のアルバム に取り組もうとする。 リーはラーズのサウンドを、時間や空間の外に存在しながら同時にファッションの境界の中に存在する何かと見なしているようだ。ある いは、彼が肩をすくめながら言うように、「俺たちがやろうとしている歌はずっ とまっすぐに進んできたんだ。どこが後戻りなんだ?」ということなのだろう。

後戻りという言葉が口から出た途端、彼は肩をすくめた。それは僕が見た中でも 一番怒りのこもったものだった。
「俺たちをレトロだと言う奴ら。奴らこそがレトロなんだよ」
リーは力をこめて言った。
「良いものっていうのは必ず未来的なものなんだ。今は今さ。なんで今じゃないん だ?幸福ってのは今なんだ」
ずっと沈黙していたリーが今は自分を抑えられないようだ。
「俺たちはずっとスラッシュ・パンクだった。そうだろ?Rideみたいな連中がずっといた場所に俺たちもいたんだ。俺たちはずっとその上にいたんだよ 」

では、ラーズは別にして、みんなクソったれなんだろうか?
これについてリーは長い間、懸命に考えこんでいた。
「俺はHappy Mondaysが好きだ。あいつらはとてもいい」
断定するリー。
「大事なのはアティテュード(態度)なんだよ・・。アティテュードってのは自分がどこにいるかを表すものなんだ」

ラーズにかかると、最後にはすべては態度に帰着する。新聞や雑誌の記事に関する限り、このバンドはブヨみたいな連中の理解ってやつに悩まされることになるだろう。たとえばリーは、記事のために取らせる写真さえも、それを"ポーズを取る"ことと見なしているのだ。

それでも・・・・彼らは愛想のいい人間たちだった。
そして結局のところ、 僕らは自分たちが知りたかったことの大半を手に入れたのだった。

そして結局のところ、ラーズは素晴らしいレコードを作るだろう。その為には、 たぶん、1日24時間、楽しい人間でいることはできないのだ。
「俺たちを駆り立てるもの。それは未来の記憶さ」
笑いながらリーは言う。
「物事の本質。魂。炎ってものに水を掛けることはできる。だが生命はそこにあ るんだ」

ラーズはクソったれか? いやいや、ラーズは絶対にクソったれなんかじゃない 。(完)