03/08/1991-NME or New Musical Express より。

The La'sはニューヨークのチェルシー街にあるカフェの外に座っていた。一緒にいたのはマネージャーのロブ、Tim Jarvis、そして僕だった。みんなアペリチフを前に置き、今夜のMarquee Clubのコンサートを控えてリラックスしていた。

その時だった。突然、クソみたいな60'sのいでたち。つまり薄い襟や恐ろしく古いシャツなどを一揃い着こんだ男が、僕らのテーブルに近寄ってきた。
「おい!ラーズがいるぜ!」

彼はこちらに気づいて大声をあげた。男の後ろにはもうひとり、やはり60'sのスーツを着込んだ男がいて突飛な唸り声をあげた。
「はは!ラーズだー!」

Lee Maversとドラムを叩いている彼の弟のニールが穏やかな笑顔を見せると、最初に現れたほうのバカが言った。
「俺たちは今夜、君たちを見に行くつもりなんだ」
すると、もうひとりのバカも叫ぶ。
「俺たちゃ16ドルも払ったんだぜ!」
ギターのLa Paul 'Cammy' Cammellは、爪の間に挟まってるものにすっかり気を取られている。ベースのJohn Powerは目に不快の色を浮かべていた。

「君たちは新しいビートルズだ。そうだろ?」
バカその1はそう言うと陽気な声で付け加えた。
「どっちがRon McNastyなんだい?」
バカその2はコメディーめいた感じを声に加え、大声で聞いた。
「おい。自分たちのレコードなんかクソだと思ってる。君たちはそう言ってるらしいけど、それってホントなの?」

ラーズはこの無礼に対して怒りの沈黙をもって答えた。あのレコードは救いようがない。自分たちの芸術性に対する侮辱だ。ラーズがそう思っていることは、世界じゅうの学校の子供たちでさえ知っている。だが、それについて面と向かってあれこれ言うのは礼儀知らずというものだ。

この大馬鹿者どもにはそんな事も分からないらしい。たわごとを喋り続ける。

「俺たちはグループを組んでるんだ。The Mooksって名前だよ」バカ1は続けた。「さよなら」マネージャーのロブが小声で言う。
「俺たちはアメリカのラーズなんだ」バカ2はロブの声に気づかずに言った。

ジョンはにやにや笑いながら2人のアホたれの最高に間抜けな服を眺めている。「あのさ」彼は鼻声で言った。「君たち、新しいシャツかなんか買ったほうがいいよ。La!」
「はははっ!」バカ1が言う。「イギリス流の皮肉たっぷりのユーモアか。いいね!」
「じゃあな、バイバイ」マネージャーのロブが言った。今度は大声で。


ラーズは今、アメリカ・ツアーの真っ最中だ。日本からスタートし、ハワイへ。それから6週間かけて嫌々ながらアメリカを横断してきた。

ティム・ジャービスと僕は今、アホみたいに暑くて古くさい街ニューヨークにいる。この何日か、バンドの後をついてやってきたのだ。その理由のひとつはラーズ自身が嫌っているアルバムの人気のため。もうひとつはMTVが回している「There She Goes」のビデオのためだ。これのお蔭でリバプールの元気印バンドはアメリカのホットな資産になった。

僕らがラーズに会ったのは例のバカ者どものちょっとした騒ぎの数時間前、バンドのサウンド・チェックのときだった。彼らは通りに立って愉快そうに最新のトップ・シングルにケチをつけている。
「あの歌。あれって"Son Of A Preacher Man"じゃないの」
ジョンは言う。彼はメロディーを見出す自分の能力に誇りを持っている。
「僕はどんな音楽にだってメロディーを付けられるんだ」

「これで生活していける。それだけのメロディーを作る才能があるってことは自分で分かってる」彼は打ち明ける。
「僕の父はこう言ったものさ。"お前が何かやりたいんならな、息子よ。メロディーを作る仕事をやれ。ありゃ儲かるぞ"ってね」

そんな話をよそに、ジョンはニューヨーク排出物検査局(ホントだよ)の、通りを隔てた向かい側にある衛生的なクラブに入ろうとする。そこでサウンドチェックするつもりらしい。ラーズのサウンドチェックは誰かさんと同じくらい気の乗らないもので、おかげで僕らはそこにちょっといただけで済んだ。リーは「Son Of A Gun」をプレイした。ジョンは自作の華やかな新曲「Follow Me Down」をやった。

例のバカどもの一件があったにも関わらず、その夜のショーはなかなかの出来だった。つまり、まあ、ラーズ自身は気が乗らずにいたが客のみんなは興奮して盛んに大声を上げている、そんなショーだった。「There She Goes」では一緒になって歌い、 ラーズ自身を言っているにほかならない「Timeless Melody」には驚嘆の目を見張り、新曲の「I Am The Key」は奇妙だが愛らしい叙事詩だということをこの夜の客はみんなして認めた。

ショーのあと、ラーズはアメリカのレコード会社の連中と会い、腹をへこませながら自分たちの写真を取らせる。その後、疲れてはいるけれど飲んで酔っ払うのだ。僕らはみんな家に帰った。明日の朝はワシントンに行かなければならない。

これまで、リー・メイバースが僕に喋ってくれた言葉はたったの二語、「どう?(How do?)」だけだ。嬉しいがページを満たすには量が足らない。今、僕は彼と一緒にミニバスに乗っていて、時速55マイルでニュージャージーのTurnpikeに急いでいるところだ。

晴れた日で、ワシントン目指して二ューヨークを出てから4時間たった。ラジオでは オールマン・ブラザーズ・バンドからEMFまで、何もかも一緒くたに流している 。僕はリーに、
「あとでお喋りできるよね。たぶん」
と仄めかした。リーはしかめっ面だ。
「せいぜい飲もうぜ。La」
それが彼の答えだった。
「なっ。とにかく飲もう。それで、まあ、そんな感じでやろうぜ。インタビューなんて必要ないさ」
そう言うと彼は振り返り、
「We can work it out」のポール・マッカートニーのソロ・バージョンについて キャミーと話し始める。ちょうどラジオで流れていたのだ。リーは「これは"ゆるい"んじゃないの」と答える。

ミステリアスなリー・メイバースをもっと深く知ろうとする僕の試みも、彼が目 をつむってしまったことで終わりを告げた。彼はたまにラジオで流れるレコード に意見を言うだけだった。それでも僕はなんとか2つのことを突き止めることが できた。ビリー・ジョエルの「Captain Jack」で歌われているマスタベーション について、「ありゃ気持ちがいいよな」と彼が言ったこと。そしてエルトン・ジ ョンの「Honky Cat」はなかなかいい曲だと思ってるらしいことだ。

僕たちは軽い食事をとるためにサービス・ステーションに立ち寄った。そのとき僕は、とっつきやすい感じのするキャミーと一緒に歩いていることにふと気づい た。彼はホノルルの話をしたがっている様子だった。
「俺たちはワイキキ・ビーチで遊んだんだ。あそこは観光客用のリゾートでね」 彼は言った。「クソさ。イギリスのブラックプールみたいなところだ」僕らはバスに戻った。それから何時間もドライブしたすえにやっとワシントンに着いた。ホワイト・ハウス、キャピトル・ヒルの国会議事堂、それに"The 9.30 Club"のある街だ。

"9.30"は郵便局よりちょっと小さいぐらいのクラブだ。衣裳室には僕も会ったこ とがあるポップ・スターを中傷する最大級のゴシップ記事のひとつが貼ってあっ た。可笑しかったのは、そのポップ・スターがほかならぬリー・メイバースだっ たことだ。

サウンドチェックは短い。 リーは「Son Of A Gun」を、Johnは「Follow Me Down」を歌って終わりだ。僕たちのほうはホテルのチェックだ。おっかないこと に、ホテルで僕らはリバプールのバンド、Ned's Atomic Dustbinに出くわした。

「ワシントンはグルーピーの街だよ」 "9.30"の男が言っていたが、僕らに付いてきた例のNed'sを別にすれば、ロック ンロールのらんちき騒ぎに参加しそうな人間にはお目にかからなかった。このあ と僕らはまたラーズとの再会を果たした。


彼らはみんないいヤツだ。リーがステージで写真を取られるのに異議を唱えたり 、いつもティム・ジャービスに向かって「F--- off!(失せろ)」みたいな汚い言 葉を口にするのを別にすればだが。

ショーは音を立てて進行し、ラーズはアンコールで「I Am The Key」を歌った。「実はあの曲は終わってなかったんだ」
リーはニヤリと笑って打ち明けた。
「でも、みんな気にしちゃいないさ」

ショーのあとの化粧室は大混雑だ。 ラーズのショーを見た十代の女のコたち、 見なかった十代の女のコたちでぎゅうぎゅうだ。デーブと呼ばれているペテン師 みたいな年寄りが僕をラーズのメンバーだと勘違いし、アルバムのことでお祝い を言った。

もちろんラーズも人の渦の中だ。40人ものワシントンっ子が彼らのリバプール訛 りのアクセントを理解しようと躍起になっていて、
「君たちは自分のアルバムをほんとにクソだと思ってるの?」なんて聞いてくる。そんなプレッシャーのもとで彼らは何とか愛嬌を振りまいて いる。

部屋の中を色んな会話がさまよっている。
「子供のときはスナック菓子ばかり食べて生きてたよ。ポテトチップとかリンゴ ーズとか、そんなもんをね。ほんと僕はチョー活動的なガキだったんだ」
ジョンが打ち明けた。
「みんな僕をガンマンのリンゴ・キッドって呼んでたんだ」

「まぁ聞けよ。俺たちがやることってのは、それがアートの為であれ、ただ仕事 をしているのであれ」
ニールがぶち上げている。
「それはすべてアートなんだ。それが重要なことさ」
「 808 State ?」
リーが言う。
「ありゃあテクノのクソさ」
「あなたたちは R.E.M.みたいね」
女のコが言った。
こうして時間は過ぎて行く。 [続く]