深夜に姿を現す店があった。

 明るい時に、店の前を通ることもあったが、場所がここだと自信を持って言えなかった。

 昼と夜の佇まいが、あまりにも違っていた。

 レンガ造りの2階建ての細い建物。

 飯屋を出て、もう少し飲みたいと思い、灯りに誘われるまま入った店。

 オレンジ色の落ち着いた照明。

 5メートルほどのカウンターしかなく、こじんまりとしていた。

 カウンターの中には、セミロングの白髪、薄い色の入ったサングラスをした50代くらいの女性がいた。

 警戒するようなつっけんどんな物の言い方。

 帰ろうと思ったが、ボクは適当な場所に腰掛けた。

 他に客がいなかったからだ。

 2回目来るか分からなかったが、ボトルを入れた。

 理由は、話のきっかけづくりと好きなトリスがあったからだ。

 ボクみたいなひょっ子にも、距離を置くのは、よほど嫌な目に遭ったことがあるのか、それともママ自身に何か後ろめたさがあるのか。

 大人はめんどくさい。

 気持ちよく飲んで、銭を置いて、帰っていく。

 ただ、これだけなのに。

 小一時間ほど、これと会話も弾むことなく、高いなと思いながらも、二万円を払い帰った。

 そして、次の日もボクは店に行った。

 サングラスの向こうのママの顔は、昨日と違って少し嬉しそうな優しい表情だった。