アナウンサー
で、帰国してから、色々、アドバイスや、言葉を受けて、日本で、戻って来て、どんなことに力を入れました?
川本さん
段々に、やっぱり日本の中に眠っている人形の表現というものが分かって来て、これは文楽を勉強したせいですけども、文楽の中で、他の国にはないような人形の表現というのはね、愁嘆(しゅうたん)、なんですよね、悲しみなんですよね。文楽の中で人が口説きっていうのを女性がやる訳ですけど、その口説きの中身っていうのは、人間の中の苦しみを吐露する、そういうことで、それを自分の作品の中の中心に段々に持って来た、というような感じがします。
人形には、人間が演じるよりもリアルに表現出来る不思議な力がある。川本さんは、代表作の三国志の英雄たちにも、この思いを込めました。
川本さんの作品は、中国やヨーロッパでも数々の賞を受け、高く評価されています。これまで60年以上に渡って世に送り出した人形は、1000体以上にもなります。
アナウンサー
川本さんが、人形をつくる上で、一番大切にしていること、というのはどんなことですか?
川本さん
うーんとね、無心になることっていうことですかね。やっぱりあの、人形が出来る時っていうのはね、
僕たちがつくろうと思ってつくるんじゃなくて向こうから生まれてくるっていう、あの、そういうことを考えないといけないんですよね。「もうちょっと目を大きくしてみようかとか、もうちょっと鼻を大きくしようとかって、そんな風にやってる内はまだそんな人物にはなかなかなりきらない。おそらくね、人形つくってる人は誰でもね、そんな人形の声が聞こえてると思います。それをあの、やっている時に、私は誰々だ、という風になるんですね。例えば、一番大変だったのは、諸葛孔明をつくる時だったんですけど、もうね、三国志の中の、一番のスターでしょ?
どなたでも諸葛孔明っていうイメージが頭にある訳ですね。それを裏切らないようにつくらなきゃいけないってこっちはそう思ってるもんですから、だからまあちょっと大変だな、手も震えるような格好で、諸葛孔明つくってる訳ですけど、収録の期日はどんどん迫ってくる、早くつくんなきゃいけない、こっちも焦りがあるわけ。で、もうね、夜を日に次いで人形つくってる訳ですけど、やってみると、私は違うよって言うんですよ。で、これは違うからしょうがない。もうっかい作り始める。で、そういうことやっててもうね、本っ当の最後の最後の・・
アナウンサー
何回目くらいですか?
川本さん
4回目。4回目ですね、あれはね。で、もう真夜中。もう本当に誰もいなくて一人でそこでこうやってた時ににやっと笑ったような感じで。私が孔明だって言った。
アナウンサー
孔明が笑ったように見えた?
川本さん
ええ、にやっと笑ったような気がしたんですね。で、これは孔明が出来たな、と思ったんです。
アナウンサー
その瞬間はどんな気持ちでした?出来上がった瞬間。
川本さん
やっと生まれてくれたかな、という感じでしたね。
アナウンサー
「生まれてくれたな」っていうことは、何かその、やっぱり人形は取り上げる、といった感情ですか?
川本さん
そうですね、助産婦のような仕事ですね。
人形をつくる、っていうことは。だからあの、台本を読んで、この人はこういう性格ってことを頭の中に描きながら、こう、あのモデリングをしていく訳ですけど、そのモデリングもあの、ちょっと鼻を大きくしようかっていうんじゃないんですね。やってる内に、段々段々その形になってくる。あごの張り方とか、目と鼻との長さとか、色んな細かいところがありますね、そういうところが段々段々、周囲約されて来て、決まった位置に来てくれるっていう、そういう形なんですよ。で それはねえ、ほんとに面白い。神秘的な仕事です。
長野県飯田市にある、川本喜八郎人形美術館は、オープンから半年で入場者が3万人を超えました。子供からお年寄りまで、幅広い世代の人たちの心をつかんでいます。
美術館の館長を務める川本さんは、毎月一回東京のアトリエからやって来て、訪れる人たちを手厚く迎えます。川本さんは、人の心をひきつける人形に底知れない力を感じています。
アナウンサー
全くその、これまで三国志に触れてない人も、じーっと人形に魅入ってるんですよね。そういった人たちは人形からこう、どんな力を得てるんですかね。
川本さん
そこは人形の不思議なとこですね。人形にやっぱり力があるんですよ、人形というものに。つまり人間がね、生まれた時にあの、どうしても人形というものを必要としたんですね。なぜ必要としたかというと、神っていうものがあって、存在があって、その神と人間とをつなげていく役割を人形がしたのではないか、と僕は思うんですね。例えば、縄文時代の中のこう、豊穣を祈るような土偶がありますね。そういったようなものは、豊穣を願うために、人間が願ってるんじゃなくて、人間が願う媒体として人形が存在したっていうものがあるんではないでしょうか。