二回にわたり長野久義のドラフトについて述べてきましたが今回が最終回となります。

この回では2度のプロ入り拒否が長野にとって果たしてベストな選択であったのかどうかも含めて、そのことによって影響を受けたであろうと思われることも推察してみようと思う。

 

2009年ドラフト巨人1位指名

2009年長野は念願叶い3年越しで巨人の1位指名を受けることとなる。巨人は2009年2月、早々に異例の1位指名を公表、長野には安心感を与え他球団には釘を刺す形となったのか。

まずはこの発表がもたらした影響を推察したいと思う。

  • 果たしてこの発表に肩を落とした他球団スカウトはいたのだろうか?

26歳という年齢での入団(12月生なので実際は25歳)になる長野。決して遅咲きの社会人という扱いではない。単にプロ入りを拒否し自ら3年という月日をアマで費やしただけである。他球団にしてみれば食指が動く魅力のある選手になるのだろうか?決してそうではない。この年齢で上位指名するのは過去に遡っても稀なケースなのだ。巨人はこの年もリーグ優勝し3連覇、そして日本一を果たすことになるのだが、このシーズンが始まる約二か月も前に長野1位を公言している。要するにチーム編成は二の次でとにかく長野を指名する他ない現状があったと言える。ここで1位指名をするような選手なら2006年の二巡目、あるいは2008年の1位指名でも良かったはずである。逆にもし2006年も2008年もドラフトで指名されなかった選手だとしたら2009年に巨人が1位で指名するとは思えないのだ。世間的には長野の一途な思いに巨人が応えた形だが私には他球団への体裁を取り繕ったようにしか見えなかった。

 

ここで三つ目の注目点。

  • このドラフトにおける巨人のメリット or デメリットは?

原監督はこの指名に関し「彼との運命を感じる」と述べていたが、本当に巨人との運命があったのなら2006年にすんなり入団していただろう。私にはリップサービスにしか聞こえなかった。折しも2006年に育成で入団した長野と同い年である松本哲也はこの年新人王に輝いている。公言していなければわざわざ1位指名で獲得する必要性があったかどうかも疑問だ。また2月時点での長野1位指名公言は巨人が1位入札の権利を放棄したこと同意であり、これは他球団スカウトにとって朗報でしかない。巨人はこのシーズン1位指名に関するスカウティングはしないと、春夏の甲子園で或いは都市対抗などで素晴らしい選手を見つけても1位ではいきませんと、公言したのだ。ある意味ドラフトで一番厄介な巨人が1位入札をしないとなれば、獲得したい選手のドラフト戦略が楽になるのは火を見るよりも明らかである。

この年の目玉は何と言っても菊池雄星。結局6球団が指名し抽選となったが巨人の動向が明らかになっていなければまた違った指名になっていたかもしれない。筒香、荻野、今村はそれぞれ単独指名で確定し今も各球団で活躍している。(筒香はメジャー)ドラフトは前回述べたように即戦力或いは将来性を考えて獲得に動く。当然のことながら年齢的にも若い選手が主体になる。長野のようにドラフトでは高齢の部類に入る選手は、獲得するにしても上位指名が終わってからになるのが通例で、この年齢でも巨人が1位で指名するような選手ならば本来指名が重複して然るべきなのだ。この年日本一の巨人は2位指名ウエーバーでも最後の12番目。長野一人を獲得するために22名の上位評価選手を必然的にあきらめる形になったのである。

今回のドラフトについての私の見解は、ある日のTwitterでのやり取りから始まった。

「菅野の1年を日ハムが無駄にした。」

この言葉に反応した形なのだが、私はもしかしたら日ハムは次の年の大谷獲得に向けて巨人を入札から排除したかったのではないかと考えている。菅野がもし入団してくれたら儲けもの、ダメでも次年の巨人1位入札は確実に排除できる。2年かけてそれを実行したのではないかと。これはまさしく2009年のドラフトで巨人に起こった事であり日ハムの菅野指名はこの長野の件が布石になっているのではないかと考えたのだ。2009年と同じように2012年のドラフトでは1位指名の入札は放棄せざるを得なく大谷や藤浪、東浜等の入札もできなかった。また2巡目ウエーバーでも11番目であったため鈴木誠也、則本、小川などの選手も目の前を取りすぎていった。2011年にすんなり菅野を獲得できていたら、今挙げた6人の選手の一人は獲得できた可能性だって少なくともあった訳である。それを考えただけでも日ハムの2011年菅野指名は戦略的に大成功だったと言えるのではないだろうか。

あくまでも推察の域は出ないのだが.....。

2009年と2012年、1位指名入札が出来なかったことの反動は確実にあったと、2位指名の名前を見ればその二人には申し訳ないが少し納得してしまうところがあるのも事実だ。

 

話を元に戻すと長野と菅野の大きな違いは何かといえば、本当に1位で欲しかった選手なのか否かなのである。先述で私は長野1位を他球団への体裁を取り繕ったように見えたと書いたが、当たらずしも遠からずと思っている。過去二度のドラフトの構図を見ると、積極的に獲得に動いた日ハムとロッテに対し巨人は決して長野を積極的に獲りに行ったとは言えず、長野の巨人熱望に対する温度差を私は当時から感じていた。だからこそ2009年2月の獲得公言は一体何のために?というのが第一印象だった。

「わかりましたわかりました、うちが責任をもって1位で指名しますんでそれで勘弁してください」ということなのだろう。要するに1位で獲りたかったのではなくて1位で獲るしかなかったと言わざるを得ないのだ。もし公言しなかったとしても他球団で長野を1位指名した球団があったと考えるのは全くナンセンスで、巨人スカウトだって他が長野を1位で指名してくるなんて思っていなかっただろう。公言しなくとも長野は確実に1位で獲得できたはずだ。だからこそ早々の獲得公言は世間的にも長野の思いを巨人は受けとめたとする方がセンセーショナルに映りマスコミ受けも良くファンにも受け入れられると考えたのではないだろうか。事実、私のようにこの事を斜めから見ずに、真っ直ぐに受け止めたファンの殆どは賛辞を送り喜んでいたはずだ。

結果的に2009年のドラフトを丸く収めたという点ではこの年の長野1位は致し方なかったと言えるかもしれない。

 

そして現行のドラフト制度に関して述べるなら、私はもう完全ウエーバー制にした方がいいと思っている。ネットなどの意見を拝見していると、未だに逆指名復活の声も多い。しかしその声は裏を返すと逆指名で良い選手を獲らなければ巨人は勝てないと言ってるのと同じだ。遡れば江川問題から右往左往したドラフト制度。FAにしてもアメリカを真似たと思われがちだが、元々はドラフトでは好きな球団に行けないからFAで好きな球団に行けるように配慮した、日本独特の考え方で始まっている。しかしそれも今は昔、選手はFA本来の自己評価の対価として権利を行使するようになってきた。ただ悲しいかな本当にFAで高い金を出してでも欲しい選手は殆どメジャーに行き、国内のFAはトレードと大して変わらない制度に成り下がってしまっている。昨オフの楽天、ロッテのFA及び人的補償は出来レースなのではないかと疑ってしまう内容だった程だ。この現状を考えてもドラフトは完全ウエーバー制にするべきだと考える。

1位入札制度も今では恒例のくじ引きが一種のショーのようなものになってしまっていて、その証拠に観客を入れることでもはや演出の片棒を担がされている始末で、選手の人生を当たったの外れたのと盛り上がるのはどうかと思うのだ。また現行でも2巡目からはウエーバーで行っているのだから最初の12名がどう割り振られるのかはくじを引くのとさほど変わりないのではないだろうか。それに一番公平であり一番シンプルな方法でもある。ただ完全ウエーバー制の一番の問題はシーズン終盤でウエーバーの順番欲しさに八百長が発生しないかという事である。しかしそれもCSが続く限り4位チームにとっては八百長のメリットはなく、5位6位チームにとってみても既にドラフトで4番以内の指名権はある訳なのでそんなリスクを負う必要性もない。それでも懐疑的に見るのなら昨年の順位を基準にする方法だってある。そうすれば2年後のドラフトのために八百長をしようと考えもしないだろう。性善説で物事を考えるなら八百長など私も指摘したくないが、実際サイン盗みなどがメジャーで問題になっている昨今あり得ない話でもないとあえて指摘させてもらった。

そして完全ウエーバー制になるとドラフトで入団拒否というような事態が起きる可能性は限りなく低くなり、指名された球団で頑張ろうと選手も素直な気持ちでプロに向かうことができると思う。しかし必ずセットで考えないといけないのはFAの権利取得に関する期間の改訂だ。この変更なしでは完全ウエーバー制については語れない。

 

最後に巨人の事だけについて付け加える。先般スカウト部長更迭という記事が流れた。

私は近年の巨人のスカウトにはずっと疑問を感じていた。他球団のスカウトに比べてどうなんだろうと。確かにせっかく足を棒にして金の卵を探し出しても、FAでさらっと良い選手を獲得してきた現実にモチベーションが下がることはあったと思う。事実FA獲得を一切しない広島のスカウティングには素晴らしいものがありドラフトに全てを懸けているのが切実に感じられる。巨人にはそれがない。ドラフトが駄目ならFAで獲ればいいと思っている節はないだろうか。FAはあくまでも補強であり選手の補充ではない。現実的にFA宣言したら巨人に来てくれるという時代も終わっている。今一度スカウティングとドラフトの重要性を原点に立ち返って考えるためにも完全ウエーバー制になるのが巨人にとっても必要だと私は考えるのである。

 

長野にとって3年の月日はどうだったのかを述べるつもりでいましたが、少し筆が進みすぎてしまいました。次回長野久義についてという番外編で述べたいと思います。

最後までありがとうございました。