「その場にいあわせた人が、何であれ、

かれの能力を超えようとしたらヒーローなのである。


したがって、問題はその状況で

行動へ飛込んでいけるかどうかである。


能力がほかのひとよりも高いかどうかは、

そのひとがヒーローになれるかどうかの

理由ではない。」


(船木亨著「メルロ・ポンティ入門」ちくま新書より)



この文章を読んで、以前イギリスであった

人命救助の話を思い出した。



民家の火事に偶然居合わせたラグビー選手が、

中にまだ人が取り残されているのを知り、救出に向かった。


だが2階に小さい子供を抱えた母親がおり、理由は忘れたが

母親が言うには「一人では逃げられるが、子供がいるから無理だ」と

言った。


1階はすでに火の海で、2階の窓から逃げるしかない。

ラグビー選手は叫んだ。


「俺はラグビー選手だ。絶対に子供を受け取る自信がある。

子供を投げるんだ!」


母親は一瞬躊躇したが、他に思いつく方法はない。

わらにもすがる思いで子供を投げた。


彼は見事に子供をキャッチし、母親も無事脱出した。


一躍ヒーローとなったラグビー選手だが、名前も告げずに

その場を去った。


新聞記者がそのラグビー選手を探し出し、インタビューを求めたが、

彼は丁重に断り、こう言った。



「俺は偶然あの場所にいただけだ。

たとえ他の誰かでも、あのような状況に遭遇したら、

何らかの方法であの親子を助けただろう。」





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