4月9日。
最悪なクラスを発表された始業式の日から一日が経ち、
嫌でも一年間を過ごさなくてはならないクラスに、
一人の女子生徒が憂鬱そうな顔つきで入っていった。
嘉島ゆり。中学二年生。
成績は下の下。
持ち前の明るいテンションで、周りを明るくさせる人柄。らしい。
が。
彼女には周りには一切明かしたことのない秘密があった。
ゆりは周囲の女子達と笑顔で挨拶を交わしながら、
自席にバックを置いて一つため息をついた。
そしてきょろきょろ周りを見回す。
―みんなギャル系だなぁ…
このクラスには彼氏持ちの、スカートが膝上○cmのような、いわゆるギャル系の女の子が多かった。
別に彼女らと話せない訳では無かった。
むしろ、仲は良いのだ。
表面上は。
しかし、なかなか親友まで踏み込めない。
その理由はゆりの抱える秘密にあった。
ゆりは、「隠れオタク」なのだ。
オタク、中学二年にもなってアニメばっかり見ていればその部類に入るのだろう、
夜遅くまで深夜アニメを観賞し、
本屋で買うのはティーンズ雑誌ではなくアニメ誌。
インターネットを開けば、モ○ゲーなどせず、好きな声優陣のブログを飛び回る日々…
本当は出来れば昨日のドラマがどうとか、今話題の歌手がどうだとかいう話をするよりも、
今度発売されるフィギュアだとか、漫画の新刊の話をしていたいのだ。
ゆりはもう一度ため息をつきながら、席につき、読書を始めた。
読んでいるのはケータイ小説。
本当はライトノベル(ヲタク向けの小説でーす)を読みたいのだが。
でも、そんなわけにはいかない。
オタクに対する世間の目は冷たいから。
オタクというだけで周りから距離を置かれ、キモいと言われ、
彼氏・彼女はおろか友達まで出来ない。ネットの友人だけ。
実際、この学校でもオタクの方々はほぼ孤立している。
私がオタクと知ったら、
周りから人が消えてしまうのではないか?
そうゆりは考えているのだ。
ロマンチックなケータイ小説も悪くない。
でも、ゆりは甘い言葉を男子達にかけられる妄想よりも、
もっと現実味の無い、魔法だとか冒険だとか、
いわゆるファンタスティック溢れる妄想に浸りたいのだ。
―本当にギャル系ばっかだなぁ…
マジこのクラス最悪。
チャイムが鳴り、日直が号令をかけた。
ゆりはパタンと本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
―キーンコーンカーンコーン。
休み時間。
ゆりはギャル系が固まっている集団へと足を運んだ。
「あ、ゆり。ねえねえ聞いて?」
集団のうちの一人が険しい顔をしてゆりに話しかける。
「あのね、大森陣屋が池崎ハルと付き合ってるんだって!あの大森がだよ!」
他の一人が手をヒラヒラさせて言う。
ゆりには大森陣屋が誰だか分からなかった。
「…ごめん。…大森陣屋って誰?」
ゆりの言葉に一同は目を丸くし、驚愕していた。
「大森陣屋!知らないの!?あのオタク根暗だよ!」
「ほら、あの人だよ。」
彼女が指さした先にいた人物は、明らかに暗いオーラを放ちながら、
背中を丸め、自席に座り、本を読んでいた。
本の内容まで見てとれなかったが、きっとああいう本なんだろう。
人を見た目で判断するのは良くないが、とても彼女がいそうな人では無かった。
そんな彼と池崎ハルが付き合っている?
池崎ハル。
顔立ちは可愛いんじゃない。
綺麗なのだ。
目は細めだが、すっとした高い鼻に、少しぽってりした唇。
かなり整った顔をしている。
そして何よりも、身長169cm。中学二年にしてはかなり高い。
その身長を半分占領している足は、透き通ったように白く、そしてモデル並に細い。
そんな彼女は、男子からは爆発的な人気こそ無いが、女子達の憧れの的なのだ。
しかし、誰も彼女に近付こうとしない。
近寄り難いのだ。
何だかよく分からないが、彼女は自分に近付くな、そんなようなオーラを放っている。気がする。
本当に何故だか分からないが。
池崎ハルは、教室の窓側の隅っこで、気持ち良さそうに居眠りをしていた。
本当に綺麗な顔をしているなぁ…。
ゆりは見とれてしまった。
しばらく池崎を見つめていると、ゆりはあることに気が付いた。
池崎の制服の胸ポケに、
萌えモンのピンバッチが付いている。
萌えモン、近いうちに紹介することになるだろう。
