その出会いは彼女が大学2年生の時だっただろうか。彼女の通う大学で精神保健福祉士実習指導者会議が行われた。私のもとで実習をする予定の学生と彼女は友達だったことから、会議終了後に食事をした。
彼女を見て、ふとあることに気づき私は言った。『ちょっと横向いてみろ』。素直に彼女は横を向く。
『おまえの鼻 低いな』。彼女は『ひどい』と言った。
それ以外にも何かを話したのだあろうが、今は全く思い出せない。今の時代であれば、問題になる私の発言。
そんな出会いから、どういうわけか機会あるごとに彼女は支援センターの行事になどに参加するようになる。ある年のキャンプに彼女は参加した。私は夜の浜辺に彼女を誘った。おもむろに懐中電灯で近くの岩を照らす。そして消した。彼女に私は言った。
『わかるか。ライトで照らせばそこは良く見える。でも逆に周囲は見えづらくなる。ライトを消せば照らした所は見えづらくなるが、全体はライトをつけていたときよりも見えてくるものだ』。 当時の彼女には私の意図が伝わったかどうかは疑わしい。
いつの頃からか彼女は私を 師匠 と呼ぶようになっていた。『おまえを弟子にした覚えはない』。ことある毎に私は言った。
彼女は卒業後、精神保健福祉士として施設で働き始めた。ときどき、近況やら相談の連絡があった。そして決まって私に『おまえはバカか。おまえはアホか』を怒鳴られる。それでも彼女はめげなかった。いや、落ちこんでいたのかもしれない。
その後も、彼女を私は誉めたこともなければ、弟子とは認めないと言い続けてきた。
彼女と久しぶりに会う。『弟子と認めるよ』。私は言った。出会ってから20年。
大震災を経験したり、自分が大病したり、父親を見送ったり・・・。
私が『強肩のキャッチャーって新聞に載ったことあるんだぞ』と自慢すると、数十年前の新聞記事を探しだし私に送ってきた。『師匠、ほんとうだったんだね』と笑いながら。そんな小さなことでも流さずに確認する行動が彼女の強みであり、成長の源であろう。
『よく、ここまで来たな。誉めてやる』。この言葉はまだ彼女には伝えていない。もう少し後でもいいだろう。
今、彼女はこれまでと違う分野で働き始めている。また、新たな経験と発見が待っていることだろう。