公傷制度に思うこと…… | 内藤堅志オフィシャルブログ「労働科学研究者 内藤けんしの"ちょっといい話かも!"」Powered by Ameba

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労働科学研究所 協力研究員。
第1種衛生管理者。
労働衛生・安全、技能伝承、ストレスを研究しています。成功、活躍した人を分析して「運」も研究しています!

大相撲、連日満員で人気復活ですね。

そういえば、場所前に「公傷制度」が話題になっていました。

私は、公傷制度に「反対」の立場です。
(厳しくてすみません。怪我は防げることが多いんです!)

では、公傷制度とは何か?
公傷制度とは……大相撲において、力士が本場所の取り組みにおいて怪我をして休場した場合、休んだ事実を“考慮”するものです。

ちょっと、くどい言い方でわかりにくいので事例で説明すると……

初日に怪我をして休場します。するとその場所は「0勝15敗」となります。
もし、その怪我が公傷として認められたときは、「負け越しにはなりませんよ!」となります。つまり、場所前の番付を維持できるよう考慮されます。

労働者でいう「労災」をイメージすれば分かりやすいと思います。
(仕事中の怪我や事故でも「労働者の責に帰する場合」は労災を認定されにくいと考えられます)


なぜ、反対なのか??

「怪我を防ぐ努力をしている力士もいる」からです!

このことを労働衛生・安全の基本から説明します。


労働衛生・安全には「ハインリッヒの法則」があります。

作業中に、労働中に……
「あっ、危ない!!」という、ヒヤッとしたこと、ハッとしたことを300回経験すると、そのうち29回は小さな怪我となり、1回は重症災害を経験する
という考え方です。

図で説明すると

このようになります。
(この図は氷山で説明しています。ヒヤリハットは水面下に存在しています。つまり当事者しかわからないことになります。怪我は第三者にもわかりますよね)

そこで、もう一つこの図を……

そうなんです。ヒヤリハットの下にはヒヤリハットの卵である
「不安全行動」や「不安全状態」があります。

例えると、車の運転中の携帯電話。
注意散漫で事故を起こしそうになり、「危ない!(ヒヤリハット)」となりますよね。
つまり、運転中の通話はヒヤリハットの卵となります。


これが、なぜ怪我と関係あるのか??


2000年初頭の論文に「スポーツ選手と怪我の関係」という論文があります。
(実は私この論文を無くしてしまいました……)

内容は、怪我とスポーツ種目、ポジション、経験年数、性別などはどのような関係になるのかを考察したものです。

その結果、怪我とスポーツ種目、ポジション、経験年数、性別は関係がなかったそうです。
関係があったのは、「寝不足、疲労、準備運動不足」つまり、先ほどの不安全状態、不安全行動に値します。


つまり、怪我をしない力士はそれだけの準備をしていることになります。
素質だけではありません。
怪我をしない努力をしていることになります。

例えるならば……
・夜中遊んでいて、寝不足で稽古をする、場所に出る。
・遊ぶ金はあるが、体をケアする金に使わない。
・十分な準備運動や整理体操をしない・
このような力士は怪我をする確立が高くなります。

もちろん、アクシデントによる「怪我」もありますが、その「アクシデント」を誘発する要因も当然あります。

つまり、リスクマネジメントです。

年齢が高くとも、大きな怪我をせずに15日間闘っている力士はいます。
すばらしいです。




昨年、「第1条2項の頭髪を故意につかむ」文章から「故意」という文字が無くなりました。
つまり、意識的(故意)に掴んだのか、無意識(過失)で掴んだのか判断できないからです。
これと同じだと思います。


現代医学は非常に発達しています。
栃ノ心関のように、序の口に下がっても、再び幕内で取れます。

少々厳しい意見ですが、怪我をしないように努力(行為・研究)をしている力士のことを考えると公傷制度を取り入れることには反対の立場です。

怪我をしない、生活習慣、稽古内容の研究が必要だと思います。

補足
双葉山さんは公傷制度に賛成のようでした。
少々長いですが(原文ママ)
著書:相撲求道録(昭和31年8月30日発行:黎明書房)のP154:昭和13年夏場所後の朝満巡業でアメーバー赤痢のことについて以下のように書かれております。

資料3

 今ものべましたように、わたしは、北支巡業のときアミーバ赤痢にかかって難儀をし、帰国してから駆けこむようにして大阪の病院に入ったのですが、その入院中でも、外部からのいろいろな連絡は途絶えたことがないのです。ことに横綱ともなれば、責任上どうしても、周囲の事情にひかされやすくなるものです。そんなことから、中途半端な養生でつい病院を出てしまって、不本意ながらも悪い結果を招く場合もないとはいえないのです。わたくしもあのときは、不十分だと知っていながら、早めに退院して、すぐさま四国方面の巡業に出かけなければなわなかったわけです。こういうさい、主査者側としてみれば、事情はよくわかっているのですが、前々から宣伝はしているし、横綱が出場不可能となれば地方のファンが承知しないわけです。主催者としては、「なんとか出てもらえないか」といってせびりにくるのも当然至極です。わたしの右の場合でも、「ぜひ土俵入りだけでも!」と要望され、「大体よかろう」というので出かけたのですが、なにしろ体が衰弱しきっているものですから、まったくのフラフラで、めまいを感じたことも一再ではありません。すると今度は、「土俵入りが無理ならば、挨拶だけでも!」というわけで、無理にも顔をださねばならない始末でした。こんな次第で、力士の養生はどうしても不十分におわざるをえないのです。要するに、周囲の人情にひかれて、十分な養生の暇をもらえないのが、病気になった力士の実情です。したがって、協会もこういうさいには、この辺りの事情をよく参酌し、十分に力士の病状を察してやって、悪い間はなるべく心おきなく養生できるよう努力するようにありたいと思います。




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