2024/02/15

《テレパス》
その日 眠ろうと 彰人が目を閉じると
浮かんできたのは本宮侑里の顔だった

おどおどしながらも話しかけてきた彼女は
再生エネルギーの研究をしていると言っていた
研究者になれば たくさんの時間を使って知りたいことを学ぶことはできる
だが それを世の人に伝えること 広めることが最終目的だと目を輝かせて話す侑里はこれまで近づいてきた女子学生とは違っていた

意志の強さも伝わってきたし 勉強家なのは間違いない

自分の描いていた未来に 侑里が加わることになるとはその時点では思いもしない彰人だった

1週間後 次は3日後…3回目はその翌日
講義の合間に話すのは
図書室であったり 中庭のベンチだったり
学食だったり……いつも小一時間のことだった

彰人と侑里が2人でいるところを目にした学生も一人二人ではなくなってきた
それは一部の噂の的ともなっていった頃
侑里はゼミ仲間との飲み会で尋ねられた
「ねぇ……本宮さんって彼氏できたの?」
「この頃 よく一緒にいるよね」
ジョッキやグラスを手に みな笑顔だった
「あ…違うの……ちょっと研究の話を」
すぐに否定した侑里は 真正面の一人と目が合った
その目は笑っていたが 聞こえてきたのは少々不満めいている
(花岡くん 私だって声をかけたのに どうして本宮さんばかり……)
侑里はふぅっと息を吐き 頑張って笑顔を作った
そして軽く全員を見渡して言った
「聞きたいことがあったの やっぱり無視されたよ……でもどうしても知りたいことがあって……」
「そうなんだ……やっぱり花岡くんって 女嫌いなのかな」
「本宮さんと付き合い始めたと思ったのに違ったのね」
彼女たちは口々に好き勝手なことを言っていた

嘘ではないもん……侑里は心の中でつぶやく

実際にそうだった
彰人とは 勉強以外のことで話すことはなかった
どこに住んでいて 一人暮らしなのか 親元にいるのか 兄弟はいるのか 好きなものはなんなのか 趣味はあるのか……何一つ知らない

知っているのは マイ箸を持ち歩くことと
部屋のベランダにコンポスターがおいてあること

そして 侑里もマイ箸をバッグにしのばせるようになった
学食で向かい合ったときに 彰人は侑里がバッグから取り出したマイ箸を見て あっと軽く呟いた
侑里は自分の手元に視線を移す

買ったんだ……
俺の真似?
感化されやすい人?

どんな言葉だとしても 彰人の心の声を聞くことは避けたかった 
いつか……聞こえてしまうかもしれないけど

心の声が聞こえてしまうことに慣れてはきたけれど
できたら この能力はなくしてしまいたい

それが侑里の本心だった
割り箸 つづく
#EyeLoveYou
#中川大志
#花岡彰人