2024/02/12
《ときめき》
彰人は侑里と話をすることになり 昼食時でもあったので そのまま学食に向かった

「……それで もと…」
「本宮です すみません いきなり話しかけて」
侑里は食べる手を止め頭を下げた
彰人は 侑里が顔をあげたその目を見る
「話しかける時は……」
耳に届く声しか聞こえなかった
「誰でも いきなり……だから いいよ
……で 本宮さんの今研究していることから 話してもらっていいかな」
笑顔ではないものの ほんの10分ほど前とは全く違う穏やかな顔の彰人
侑里の緊張も和らぎ 落ち着いてきた 

彰人に話しかけようと決めた時から脈も早まり それは治まらずにいたのだ
「再生エネルギーって……とりあえず法令上は7種類あって……」
彰人は箸を動かしながらも頷いた
「太陽光 風力 水力 地熱 太陽熱 大気中の熱 あとバイオマス……これで7種類」
食事をしながら話すことは好都合だった
話す内容は心を読むようなことではないが
こうやって初めて話をする彰人の心の声が聞こえてきていたら やはり落ち着かない
「バイオマス……」
「そう……木材や生ゴミ……それから」
食事中なので…糞尿という言葉は飲み込んだ
すると わかってるよ…というように彰人がほんの少し笑みを浮かべた

「俺もね……コンポスター使ってるよ ベランダにおいて生ゴミを入れてる」
「え?そうなの……?花岡くんって凄いね お箸もそうやってマイ箸を使ってるし……」
侑里は尊敬の眼差しをむけていたが 彰人は首を振った
「できそうなことをやってるだけだよ……こんなのはまだまだ」
ストイックでもあるのだろうか まあ…見るからにね……と侑里は思う

食べ終わると 彰人はウェットティッシュを1枚取り出し 使っていた箸を拭いた
そして拭いた部分を内側にして折り直し テーブルを拭く
その一連の動作のスマートなことにも驚いた
「すぐそこに流しもあるのに」
「家に帰ってからも洗うだろ……ここで使った水がもったいない」
そう言って グラスの水も飲み干した

「このあと次の講義もあるから……俺の話 今度でいい?」
もちろん……と侑里は返し ラインの交換をした

思わぬ展開に侑里の心は沸き立っていた
『ときめき』にも似た状態だと思ったけれど

あ……それはない
花岡くんは……手強すぎる
遠ざかっていく背中を見つめ それでも嬉しさでいっぱいの侑里だった

つづく



ベランダに置いていると勝手に想像
↑ちょっとふざけすぎ
彰人のコンポスターは緑ではないと思う

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#中川大志
#花岡彰人