2024/02/11
《はじまり》

「花岡くん……」
おどおどした声に顔を上げると 
肩を叩こうとしたのか 華奢な手が揺れている

「いつもこれに出てるよね……どうして?」
経営学部の彰人が環境問題に関する講義に出ているのを不思議に思う侑里だった
話しかけたいのに これまでそうできなかったのは
噂を耳にしたことがあるからだ

「あの人……花岡くんだっけ ほんとは経営なんでしょ」
「そうなんだよね 専攻外の授業に出てるって何を目指してるんだろ」
「でも……カッコイイよね」
「ダメダメ 好きになっちゃ この前さぁ ふられた子いるらしいよ 相手にもされなかったって」
「私もきいたよ 決まった彼女がいるのかなぁ」
後ろの席のおしゃべりが全部聞こえてきて 侑里の持つ彰人のイメージはクールな堅物 
侑里はやっとの思いで声をかけたが 返ってきたのは冷たい視線のみだった
ノートやペンケースをバッグにしまい 侑里がいることなど目にはいっていないかのように 彰人は立ち上がった
(やっぱり…花岡くんに声をかけても相手にされないって噂は本当なんだ でも…私の目的は違うから!)
ここで引き下がれないと侑里は続けた
半ば彰人を追いかけるような形になった
「私……再生エネルギーの研究をしていて……環境問題を少しでも解決していきたいのに 研究しているだけでいいのかな…と不安で…」
先を歩いていた彰人の足が止まる
見下ろすように視線を向けた彰人が口を開いた
「環境問題は……」
一瞬目が合ったのに 心の声は聞こえない
思ったことがそのまま口から出ているということの証明だ
「……ビジネスでこそ 解決の可能性がある」
侑里は目の前が明るくなった気がした
暗いトンネルの奥に光る出口を見つけたような そんな思いだった

「その話……もっと聞かせて」
侑里は 彰人を追いかけた

昼食時になっていたため 学食で話をすることになった侑里と彰人
「自分のできることから取り組めばいいと思うのね……割り箸とか廃材から作ってるとか 廃棄される竹から作るとか そういう取り組みは評価できる」
侑里はうどんをすすって 手元の割り箸を見た
「それもわかるけど……」
彰人がバッグから取り出したのは……
「え?」
広げたクロスから 取り出したのは
「マイ箸 持ち歩いてるの?」
「まあ……できることから…、」

負けたわ……勝負じゃないけど……
侑里が苦笑いすると 彰人も一瞬だけ笑みを浮かべた

あ……笑った 
初めて彰人を見たときから笑顔を見たことはなかった
こんな些細なことが なんだか嬉しい侑里だった


つづく



マイ箸を検索していたら
『マイ箸ってエコではない?』というニュースを見かけてしまった……
そこは……色々あると思うけど 
スルーしてください笑

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#中川大志
#花岡彰人