ふと……書いてみたくなる時がある素人の作文

私の戯れにおつきあいいただけること
ありがとうございます🙇‍♀

主演はもちろん中川大志くん
全6話です 読んでいただけたら飛び出すハート嬉しいデス

第一話 鎧男はエキストラ?

いつもなら立ち寄ったりしない
あと5分で家に着くのに わざわざ公園に寄って
コンビニのコーヒーをベンチで飲むなんて
どちらかと言えばせっかちな友里奈のすることではなかった
(なんだかねぇ ふと寄ってみたくなることがあってもいいじゃなーい?明日は土曜で休みだし)
夕食は残業の合間に職場で済ませていた
(あとは帰ってお風呂に入って……)
見逃したドラマをみよう…とコーヒーを飲み干す


(え?あれは何?)
視界ギリギリ…しかもほとんど真っ暗なあたり
何か物体がある
(何?犬や猫じゃないし 人間?やたら大きい……)
恐る恐る近づくと 驚くことに鎧を身に着けた男が動かずに寝そべっていた

友里奈はトントンと肩を叩く
「あの…大丈夫ですか?」
その声にかすかに動いた指先
「どうしました?撮影ですか?他の人は?」
エキストラが取り残されたのだろうか
それにしても時代劇が撮影できるような場所ではない


「あ……あぁ…」
起き上がろうとするとどこか痛むのか 立ち上がるのは至難の業のように見えた
友里奈は身長172センチある
男は明らかにもっと大きい
肩を貸して何とか立ち上がらせて
男をベンチに座らせた

(私だからいいけど ちょっと危険よね
しかも刀?だめじゃない!銃刀法違反だし あ…撮影なら大丈夫か 落ち着こう……とにかく落ち着こう)
男は大きく息を吐いた 深呼吸をしたようだ
「大丈夫ですか?」
「はい あの ここはどこですか?」

友里奈は公園の名前と住所を教えた
ピンときていない様子の男に友里奈は質問を続ける
手助けをしたいと思ったのも職業柄だろう

男は自分が誰なのかもどこから来たのかも答えられなかった
(記憶喪失ってこと?怪我しているのかしら)
土や草があちらこちらについていて
まるで戦をしてきたようにみえる 
でも撮影なら怪我をしているはずはない
救急車は呼ばなくていいわねと友里奈は判断した
「バッグは?お財布や…スマホとかないの?」
何を言われているか まるでわからないという様子
(うーん もうしょうがない!)

友里奈は鎧男を部屋に連れて行くことにした
見ればまだ20代前半だろうか
(息子がいればこのくらいよね きっと)
自分の部屋で休むよう伝えると
「いえ…お気遣いなく 私はここで大丈夫なので」
男は遠慮していたが 友里奈は連れて帰ってきた
口を開けば随分大人びた口調 見れば若者
何だか不思議だった

いつも通り そして予定通り
入浴を済ませ 見逃したドラマを観て友里奈は朝までぐっすりと眠った
(ああ よく眠れたわ あ!そうか!)
一瞬忘れていたが そうだったのだ
連れて帰った男が床に転がるように横たわっている

昨夜のこと……
「それ……脱いだほうがよくない?そうしたらさぁ……このソファで寝ればいいわよ……」
友里奈なりに世話を焼いたつもりだったが
目は開くこともなく ただ一言
「あ あぁ……このままで」
それだけ言ってあとは話すこともなかった
(このままでいいってこと……だよね?)
鎧だけはなんとか脱がせ 
あとはそのままで友里奈はベッドルームに向かい 
そして朝を迎えたのだった

(うーん ハムエッグでいいか)
とりあえず朝食を作ろうと卵を割る友里奈

キッチンの物音でめざめたのだろう
男は体を起こすとおもむろに自分の方を見たので
驚いた友里奈は思わず後ずさりした
(な なんか迫力が……すごいわ)

「お……おはよう」一旦手を止め男の近くに寄る
「おはようございます」
挨拶の言葉を耳にして 少しホッとする友里奈だった


不安そうな男の前に座り 友里奈は微笑む
「訊きたいことはたくさんあるのだけど まず……暑いでしょ?お風呂に入ってさっぱりしたら朝ごはんにしましょう」
「わ…私も お尋ねしたいことばかりです でも お風呂ありがたいです そうさせていただきます」
直垂の男を友里奈は浴室に案内した

「着替え…これね 置いておくから」
そう言ってさっさっとキッチンに戻る
(いくら息子くらいと言っても殿方だもの…あとは自分で脱いでもらわなきゃ……)
友里奈はそう思いながら照れている自分が何だかおかしかった

男は洗面所の鏡をまじまじと見る
(すごい…こんなに大きな鏡は見たことがない)
そして浴室に入る


湯船はわかったが (これはなんだ?)
長く伸びた筒の先に光る金物 そこには小さな穴があいている
近くを適当に触っていたら お湯が出てきた……
体にお湯をかけながらあたりを見渡す
見るもの全てが珍しい 
よくわからないものばかりなので 男は結局シャワーで体を流しただけだった
先ほど言われた着替えを広げてしばし考える
(あの人も穴から首と腕が出ていたな 確か)
男は試行錯誤の末
とりあえず白のTシャツとネイビーのハーフパンツを身につけることができた

リビングに戻った男を見て
友里奈は吹き出さずにはいられなかった
「なに?頭のそれ……烏帽子はとらないの?髪も洗えばよかったのに……」
男は答えに困っているようだった
実際になんと答えていいかわからなかった
(そう言われても なぜか洗おうとは思わなかったのだ その理由を聞かれてもわからない)
「まあ いいわ まずは食べましょう」
友里奈は男を見ると笑いそうになるがこらえながら席につく
(なんなんだろ まるで世の中のことを何も知らないみたい) 
男はパンもハムも目玉焼きも いちいち不思議そうに見ながら それでも食べている
食欲はありそうで 友里奈は安心した

「あなた……どこから来たの?名前は?」
そんな簡単な質問にも男は答えなかった いや答えられないという様子だった
「覚えていないの?」
すると 男は話し始めた
「わからないのです 何も」 
男は烏帽子に手をやると
「ただ……これは簡単にとってはいけないような気がして…おぼろげに」
嘘をついている様子はない
やっばり記憶喪失ってことなのか…
(初めてだわ そんな人を実際に見るのは)


友里奈は53歳 
私立の小中学校の理事長をしている
困っている人を見れば手を貸すのは当然のこと
朝食が終われば……警察に一緒に行くべきなのはわかっている
だが 目の前の男は子どもではない
記憶がいつ戻るかわからないけど

「ね お願いがあるの
あなたの記憶が戻るまで ここにいていいわ」
戸惑いながらも男はうなずいた
「そのかわり 私の仕事を手伝ってほしい」
(仕事?)
男は不安ではあるけれど
自分が何者かわからないなら この人にすがるしかないと思った 
「わかりました」と口を固く結ぶ
話がまとまった
「えっと…私 とりあえず何か服を買ってくるわ
その間にもう一度お風呂に入って髪を洗ってちょうだい
それじゃどこにもでかけられないわ さすがに ぷっ」
そんなにおかしいのだろうか……男は不思議だった

それでも言われたように もう一度浴室に向かい
髪をほどきシャワーを使って洗い上げた

友里奈はカジュアルファッションの店で
シャツ チノパン トランクス ソックス
タンクトップをカゴに入れていく
とりあえず…最低限のものを買い求めた

小一時間で部屋に戻りドアを開ける
「ただいま」と言った途端
洗い髪でソファに座る男に一瞬みとれてしまった

(あらぁ……烏帽子も似合っていたけど
長髪……しかも濡れ髪よ なんてセクシーなの…)

邪念を振り払うように頭を振ってもう一度
「ただいま」明るく言った
男は神妙な顔で「おかえりなさい」
丁寧に頭を下げた
まだこの男の笑った顔は見ていない
本人も不安でいっぱいなのだろう

買ってきた服を横に置き
友里奈は一度深呼吸して 語り始めた
「私の経営する学校で働いて欲しいの
あなたの得意分野もわからないから 何をするかはまだ決められないけど
いずれにしてもその髪は切ってほしいから
このあと美容院にいきましょう
それから 買い物に行って もう少し服を買って
明日は日曜日だから 
明後日から仕事にいきましょう」
友里奈の言うことはほとんどわからなかった
わからない言葉ばかりだった
だが男は「承知しました」と答えた

「名前は……決めようか
私 車を運転しながら考えていたの」

東堂柚流

友里奈が 今 気に入っている香りがゆず
元々柑橘系が好みだが
オレンジ?グレープフルーツ?すだち?
(やっぱりゆずだよね……
ちょっとキラキラネームだけど まあいいか)
名字の東堂はなんとなく思いつきだった

トウドウユズル?
ピンとこないが 男は受け入れた

「じゃ ユズ このあと美容院にいくわよ」

既に行きつけの美容院は予約してある
新しい仕事にとりかかった時のように
友里奈はワクワクしていた

つづく
長髪の濡れ髪の写真は(さがしていないけどなかったので ご了承ください笑