ビール
「理人 いいよ!
俺 明日から旅行にいくからさ ギリギリまで この部屋使っちゃえば」
こうちゃんにそう言われて 理人はとりあえず提案した
「じゃ 俺 少し多めに家賃出すよ」
「いいよ 1週間だし・・そのかわり 掃除や手続きは・・」頼む!とこうちゃんが言う前に親指を立てて頷いた理人

2人は約一ヶ月の理学療法士になるための実習を終えたところだった
実習先の病院が 互いの自宅から遠距離の場所にあったため 格安のウィークリーマンションをシェアした1ヶ月だった
「最初の1週間は 自宅からで さすがにきつかったよな」
「ここにして よかった 楽しかったな」
お疲れ!と 缶ビールで乾杯した2人

こうちゃんは 翌朝 部屋を出ていった

れ替わるように 也映子がやってきて
週末は泊まることになった

夕食を作るからと食材を持って
也映子は張り切っているようす
新婚気分でも味わいたいのだろうか・・・
理人は思わず頬が緩む
・・・俺もそっか・・・


だ何時間もあるというのに 也映子はエプロンをつけて 野菜を洗い始めた
「何か 手伝おうか?」
「いいよ 理人くん 実習のレポート まとめるんでしょ
というかさぁ 実習終わったとたん 髪の色変えちゃって
なんか チャラいなぁ」
「今だけだよ 気分転換・・・」
也映子はチャラいと言いながらも本心ではない
むしろ惚れ直してウキウキしていた・・・とそんな気分も 理人の一声で飛んでいく

「也映子さん 換気扇つけて!」
「あ はいはい」
すぐにはつけずに 也映子は炒め物をしている
「もう・・・ すぐにつけなきゃ・・・」
理人が換気扇のスイッチを入れると 少しだけふくれた也映子
「ちょっとくらい大丈夫だよ 細かいなぁ」
「也映子さんが 大ざっぱなんだよ 最初に換気扇つければいいのに」
「はいはい・・・」
怒ってはいないが 面倒くさそうな也映子は後は何も言わずに冷蔵庫を開けしめしている

理人は軽くため息をついた

前の本屋に行ってくるね・・・と思いついたように理人が言うと
「うん まだまだかかるから ゆっくりしてきて」
少し言い合いはしたが いつもの笑顔で也映子は理人を見送った

この町ともあと数日でおさらばか・・・
寒さも和らいできた3月も終わりごろ
いつもの道をのんびりと歩く

うだ ここ 気になっていたんだった・・・
理人は その入り口のドアを開けた

一度は立ち寄りたかったジオラマショップ
すごいなぁ パーツこんなにあるんだ
家は最初からできてるんだ
本当は家も作りたいけど ジオラマだからな
うーん 
このログハウスに決めた!
漠然と作るんじゃなくて ちゃんとイメージしよう
住む家は そんなに広いとこや 自然に囲まれた所なんて無理だもんな
別荘にしよ
釣りに行きたいから海のそば?
森も近くに欲しいから 湖かな
毎日 頑張って働いて 
也映子さんと合わせたら 何歳で 建てられるかな
でも 別荘は無理か?
でも 夢くらい見てもいいよね

まずは土台作り
こういうの 楽しいな
湖のブルー 塗っているだけで 清々しくて
気持ちいいな
理人はジオラマの 湖のブルーを塗り終わって
発泡スチロール製の板を土色に塗って地面にする
その上に芝生となる緑の粉を散らしていく
この作業 楽しいなぁ・・・
家を仮置きして 牧草を植えるように貼り
人や馬のパーツを置いていく 
馬に乗って散歩する そんなのんびりした生活もいいなぁ
どこからか ・・・
也映子の笑い声が聞こえてくるようだった

そう 笑い声だった 
換気扇のことで愚痴ったのも
本当に気をつけてほしいから言ったのに
キッチンで揚げ物をしていても 炒め物をしていても
お風呂の中が湯気でいっぱいでも ヤエコは換気扇をつけ忘れるのだった
「だって 寒いんだもん なんか」
これからも
ずっと こんな調子でいくのだろうか
口うるさくはなりたくない・・

ジオラマも完成に近づいていく
爽やかなブルーの湖面には透明の板をのせていく
透明でも波のような地模様がある板

これが さざ波みたいになるのか
この湖 魚がたくさん釣れるといいな
本当にこんな別荘が作れたら 
子どもたちと遊ぶのも楽しいなぁ
男の子だったら 庭でキャッチボール サッカー
釣りも一緒にできるぞ
女の子だったら?ん?女の子って何して遊ぶんだろ
理人には兄の侑人しか兄弟はいないので
女の子の遊びはわからない

女の子でも釣りしたっていいよな
あ!
理人は 兄と眞於 3人で川釣りに行ったときのことを思い出した
マズイマズイ 何を思い出してるんだ 俺は
也映子さんごめんね
でも 也映子さんとも この湖で釣りをするんだ
釣れたら あの人 大はしゃぎするんだろうな
理人は思わずニヤついていた
家の周りに 砂を敷き詰め 縁に色を塗っていき
完成!!

「これ ここにおいといてもらっていいですか?」
理人は店員さんに頼んだ
来月9日は也映子の誕生日だ
これ プレゼントしよう
最初は 作ってみたかったから 部屋にでも飾ろうかと思ったけど  いずれ一緒に住んだら 俺も見られるもんな
いつだって

先ほどの事を思い出す
換気扇は まぁ これからもその都度言うしかないな


部屋を出て 2時間以上は過ぎてしまっただろう
6時半か・・・
理人は 部屋に向かって少し急いだ
途中也映子の好きなケーキを買って・・

「ただいま!」
「あ!理人くん お帰り
ご飯とっくにできてるよ・・やることもないから
お風呂入っちゃったよ」
屈託なく也映子は笑う
あっけらかんとしているけど
だから 楽 なのかな・・・理人は笑顔で返した

🎉

4月8日  
也映子は理人からの電話を切り
ぼんやりと数分 宙をみていた
明日は也映子の誕生日
理人は ここに来ると言う  

前から約束していたフレンチレストランは?
それ 忘れちゃったのかな
うーん・・・まっ 色々と考えてもしょうがないか
お肌にも悪いし さっさと寝ようっと

翌日 約束の午後2時
理人は小暮家にやってきた
「あら 理人くん いらっしゃい!」
あとで食べましょうと ケーキの包みを渡され
洋子はウキウキしている

也映子の部屋に入ると 
理人は手に持っていた大きな包みをおろした
「理人くん 何?それ・・」
目をキラキラさせる理人
「也映子さん 誕生日おめでとう」
「あ ありが・・」

「ジャーン!」
理人が包みをほどくと
現れた中身はさほど大きくはなかった
慎重に包まれた結果 大きな包みとなった訳である
現れたジオラマ!!
「かわいいねぇ 屋根の上にお猿さんがいるよ 」
也映子ははしゃいで見ている
「馬もいるよ 草食べてるの?」
「すごいでしょ 馬にも乗れるよ 釣りもできるんだ」
理人も 嬉しそうな也映子をみて 張り切って説明した

「ほら 犬もいて・・・吠えちゃダメだよ
魚逃げちゃうでしょって 叱ったりしてね ハハ
也映子さん 犬のしつけ 上手いって言ってたよね」
「そうそう 名前を読んで叱っちゃいけないんだよ」
あれ?どこかで聞いたお話が?
「空から見ると こんな風なんだよねー」
我ながら よくできたなぁ
理人が うっとりと上から眺めている
そんな理人をみて 也映子はフリーズ!!
なんなのーこの美しい生き物は!!
お肌透き通りそう  まつげ長いし 唇ぷるぷるっ
キャッ
也映子は今にも崩れそうだった・・・ダメダメ
落ち着け!物欲しそうな女になりさがるな!
目を閉じて 呼吸を整える

「ガオーッ!!!」
理人の声にビクッとして也映子は目を開けた
「ってね GODZILLAがきても 嵐がきても・・・
俺は也映子さんを守るのさ!チャンチャン」
「何それ!ビビったわ!」
「だって 也映子さん 寝てるんだもん 脅かしたくなっちゃったよ」
理人はニヤニヤ笑った
「バイオリン聴いてても寝ちゃうしなぁ」

そういいながら 理人は也映子の唇に自分の唇を近づけた
也映子は もう一度目を閉じた

寝てないよ わたしゃ いつも うっとりしてるんだよ
君に・・・

💏
「あ!也映子さん 3時!ケーキタイムだ!
そうそう これ プレゼントだから 飾って毎日眺めてね
将来 こんなとこで 也映子さんと暮らしたいんだ」
「えー!理人くん ありがとう  大事にするね」

2人で階下に下りていくと 
洋子が紅茶をいれるため お湯を沸かし始めていた
4人でケーキを食べ ヤエコの誕生日を祝った
「30才か 理人くん いいのか?也映子で」
健治は多少 謙遜の気持ちもあるのだろうか
「はいっ もちろんです
じゃあ お父さんお母さん このあと出かけてきます」
理人が頭を下げた
「え?そうなの?」
也映子が驚くと
「だって約束だったじゃん 予約しておいたよ フレンチのお店・・大丈夫 お箸で食べるフレンチとかで
気取った所じゃないから そのままでいいよ」

「あら いいわね」
洋子の言葉に 理人が答えた
「今日 初めていくんでリサーチしてきます
いつか 一緒にいきましょう」
「理人くん リサーチって 大げさだなぁ」
也映子がケラケラ笑う

小暮家を出ると 理人は手を繋いで
「また 1つ年の差ひらいちゃったねー!」
「キーッ よく言うよ さっきお父さんに何て言った?
あれは嘘なのかー!」
也映子が睨んで 口を尖らした
理人は「はははっ」と笑い也映子の頬にチュッ
唇を押し当てた
お料理楽しみだね 理人くん ありがと 予約してくれたんだね」
 「うん・・・そのあとも楽しみ!さっきの続きね」
コイツ~~~!
繋いでいない方の手で  二の腕にパンチ!

「いてっ じゃ 食事終わったら そのまま帰る?」
也映子は もう一度パンチした 
さっきより強めに・・・

                     てへぺろお  わ  りてへぺろ

ご覧いただき ありがとうございました🙇‍♀️
昨年書いたものも一応残しておきます🎵


   では・・・・また数日 お休みいたしますおねがい