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              ※“技能合”のスタンプ

 ベルトマンは気さくな人で前回の試験で(4月初旬)シートベルトを付け忘れた話を屈託なく皆に話す。“C試験官は何も言わなかったの?”と聞くとベルト忘れは自分で気づいて自己申告したのだそうだ。そのときC試験官は“やっと気づきましたか~?アドバイスできないもんですみませんねえ・・。”と、ニヤッとしたのだそうだ。それを聞いた今日の受験生みなで“ヤな性格だなあー!”と、嫌悪感極まり声を合わせる。外人たちが振り向く。そのあいだ普通車と今日同時に行われていた二輪車の合格発表があった。

 午後から仕事が忙しいので、おそらく次回が最後であろう試験の日程を調整したあと速攻で仕事に戻りたい。スケジュール帳を手に待っているとしばらくして大型の合格発表となる。いつものように案内放送と同時にD試験官が受験票の束を手にカウンタ奥から現れる。そちらに向かいツカツカと歩み出すと、試験官が笑いながら“発表みてからだよ~”と電光掲示板を指差し笑っている。見ると、交通安全運動の標語からぱっと表示が変わる。

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       本日の合格者  大 型 103 .104  以 上
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 なんと、自分の受験番号が掲示されてあるではないか。にわかには信じられなかったが、合格したのだ。

 あっと驚き、もう一人の103って誰だっけと探し出す。これもサプライズでなんとダンプ嬢である。不合格だった他の面々に気遣い、ちょっと彼らから離れてから先ずは彼女を見つけ自然と 握手、ハイタッチ、抱擁の3点セットと相成った。6月の悪夢の免許制度改正まで試験一回分の猶予を残してようやく大型免許を手にすることができた。午後からは、けん引や大型特殊ならびに二種を除く大型車の運転が合法となる。ほんとうに良かった。気が抜けてしばらくそこに座り込んでしまう・・。

 ただ、ハマ君、ベルトマン達不合格組は本当に気の毒である。カウンターに集まり6月以降の試験の説明を受けている。おずおず話を聞くと次回の日程は5月末、本当のラストチャンスだ。D試験官は彼らに“6月以降でS岡へ受験に行こうと考えている人はいますか?”と皆に聞き、うなだれた彼らは苦笑して首を横に振る。“えー、試験場での6月以降の大型試験はS岡のC部免許センターで行います。技能試験合格の後、路上試験となり、これに合格しないと大型免許は交付されません。ただ同様の試験は公安委員会指定の教習所で今まで同様に行われますので皆さんの負担は大きくなっちゃうけどH松市でも免許取得できます”などと彼らに説明している。免許センターの試験はS岡に移管されるだけでなく試験車両が大きくなり路上試験も追加となるのだ。教習所でも路上検定とそこまでの教習時間分の教習費用の負担がこれまで以上に入校者に重くのしかかってくるであろう。

 また、これまでのS部免許センターの試験は今後も継続されるが、これに合格して与えられる資格は新設中型免許の限定解除だけということになる。まさしく悪夢である。仮に自分も不合格のまま6月を迎えた場合受験放棄もいくらか覚悟してはいたが、それまでの挑戦はまったくの徒労ということで、残るは悔いばかりである。手に届きかけていた獲物に逃げられる心境であろうか。まだあと一回彼らはチャンスがある。今まで共に頑張ってきた仲間である。健闘をいのりたい。

 さて合格の余韻に陶然としていると1回目の試験の時に試験官だったAさんが我々合格組を呼び“おめでとう、午後1時に2階の第一講習室に来てください”とそれぞれ受験票を返した。受験票には“技能合”“合格”の小さなスタンプが捺されていた。おずおずと見ていると“それ無くしちゃダメだよ、無くしたらまた最初から技能試験受け直しだからね”とおどける。そして彼女は有名人なのか、ダンプ嬢を見て“あれえ、受かったの!?おめでとう”と改めて労をねぎらっていた。

 やがて不合格組がとことこやって来る。特にハマ君は最初から顔馴染みなので残念そうである。自分はこんなプレッシャーの中にいるのは当分御免だが、彼らとの別れは大変残念であり、なおかつ心配でもある。そこで特にハマ君には今まで自分が勉強してきた参考書を進呈しアドバイスした。“普段4t乗っていて運転は上手いんだから、これ読んで基本の所だけさらっておけば大丈夫”と励ます。また他のメンバーにも“安全確認と進路変更と脱輪と白線踏みだけ注意してあとは自分のクルマ転がすつもりでやれば絶対受かるよ”と前向きにコメントする。そして正午になり解散となった。

 近くのコンビニで簡単に昼食を済ませダンプ嬢改めTさんと話をする。流暢な日本語を話すが実は日系ブラジル人で大型技能試験は3回目との事。今日の運転内容から推察して、いかなる理由で大甘採点があったかと勘ぐるが、話を聞く内に色々事情が判ってきた。彼女は来日時まったくの無免許であったため、合格屋を通じて本当に苦労してこのS部免許センターの試験で普通免許を取得された。その後、余勢嵩じてここで普通自動二輪を取得し、そして今回の大型受験に続けてチャレンジという訳なのだそうだ。いわばS部免許センターの“カオ”なのだ。試験官も安全協会の若い女性も気軽に彼女に声を掛けてくる。それで“次は大型二輪にチャレンジかな?”と聞いてみる。すると“ワタシは足短いからダメです。次ここに来れるジカンがあったら二種(タクシー、代行など)を取りたいですネ”とわらう。お住まいは(旧)D東町とのこと。

 いい機会なのでブラジルの運転免許制度について聞いてみる。ブラジル母国で免許を取得し来日した場合、やはり外免切替といって書類手続だけで日本の道路を運転できるのだそうだ。ただ、その切替が適応されるのは日本の普通免許だけに限られ、それ以外の大型などを取得する場合その外免切替から3年経たないと受験資格が得られないのだそうだ。カルロスなどはそのパターンであろう。今回言語や収入のハンディを乗り越えて免許取得に挑む多くの外国人を目にしたし、その中でこうして知り合いもできた。彼らは大変にまじめで自分が抱いていた偏見的イメージは変えねばならないと思った。少なくとも運転免許取得についての努力については脱帽ものである。Tさんは自分との話の合間、電話を掛けっぱなしである。試験を応援してくれた仲間に次々に掛け母国語で報告していた。

 午後から自動車学校卒業の若者に混じって2階の講習室にて免許証交付のためのオリエンテーション。そのあと写真撮影と進み、退屈で長い長いビデオ上映がある。この間に新しい免許証が作成されてくる。午後3時過ぎ、まだビデオ上映途中だったが、自分とTさんその他本日の技能試験合格者のみ呼び出されて新免許交付。すべての手続きが終わりとなった。Tさんと別れ、いささか夢心地でもう当分通うことは無いと思われるS岡県S部運転免許センターを後にする。職場のほうにはお昼の発表の後ですぐ合格の連絡を入れ、免許交付手続のため急遽終日有給に切り替える旨を伝えてある。3回目の受験時ここに憮然として会社の鍵を取りにきたN氏が受話器の向こうで“合格?合格?合格?”と何度も念を押していた。信じていないらしい。