東洋経済
令和6年1月19日(金曜日) 9時32分 Yahoo!ニュース
能登半島地震は稀に見る大きな被害をもたらした。被災地の皆さんには深くお見舞い申し上げたい。
元日の夕方、東京に住む筆者も揺れを感じたが、お正月番組を放送していたテレビ局が一斉に地震報道に切り替わった。伝え方は局により少し違っていたようだ。また地域によって地震への対応はさまざまだっただろう。そこで、関東・関西・中京各地区の元日の放送内容(エム・データ調べ)を表にしてみた。そこから、災害におけるテレビ局の役割を考えたい。
■関東の元日の様子
まず関東地区は、当然ながら地震発生後、放送業・放送局:NHK(※1)はずっと地震報道を放送していた。
※1=日本放送協会。
元日16時6分の震度5の地震発生直後にNHKがサッカー中継を中断し地震報道を開始した。そのすぐ後、同時10分に震度7の地震が起きると、多少の時間差はありつつ各局が地震報道に切り替えた。NHK Eテレも「新春将棋バトル」を中断し総合テレビと同じ内容を放送し始めた。民放も、もちろん地震を伝え始めたが、当初は放送業・放送局:テレビ東京(※2)だけ「平常運転」だった。
※2=TVH。
確かにテレビ東京系列の放送エリアに、北陸は入っていない。だが東京も揺れたし、関西ではもっと揺れを感じただろう。放送エリア外とはいえ、日本全体への影響は大きい地震と言っていい。 テレビ東京も約10分後、同時21分には地震報道に切り替えた。これで民放地上波テレビは全局、地震報道を放送し始めたことになる。
■お正月番組をあえて放送した意図
ただ正直、被災地からの情報はあまり伝わってこない。各地域の定点カメラから、津波らしき大波が海岸に打ちつける映像は見えるものの、はっきりしたことはわからないままの状態が続いた。チャンネルをあちこち見ながら、もやもやと不安ばかりふくらむ時間が続いた。私は正直、いっそお正月番組も流してほしいと思ったりした。そんな中、18時40分からテレビ東京が元々番組表にあった「出川哲朗の充電させてもらえませんか? 新春4時間SP」を流し始めた。私はこの番組を毎週見ていて「新春SP」も楽しみにしていたので、大喜びで見た。地震の現地の皆さんには申し訳ない気もしたが、緊張が和らぎホッとしたのが偽りない気持ちだった。本来は同時からの番組だったので、40分遅れのスタート。ここに、局としての苦渋が感じられる。どんな判断だったか、テレビ東京にコメントをお願いしたところ、「まだ災害報道の最中なので回答は差し控えたい」との、返事があった。そこから、おそらくギリギリの議論と判断があったと推測している。番組の鈴木 拓也 ディレクターがソーシャルネットワーク:X(旧Twitter)にこうポストしている。「途中からの放送になりましたが…見てくださった皆さま、ありがとうございました。本来は、安全で平和な状況で放送がおこなわれることが、バラエティ番組の制作に携わる全スタッフにとっての願いです。どうか皆さまが、ご無事でありますように…。今夜の放送が誰かの支えになれていれば幸いです。」(@taks27:元日22時38分投稿) あえて放送した意図は、ここから読み取れるだろう。少なくとも私にとっては不安を和らげてもらえたとお伝えしたい。 夜になると他の局も、予定されていた番組に戻すべきと判断したようだ。21時にテレビ朝日は「相棒season22 元日スペシャル」を、放送業・放送局:日本テレビ(※3)は「月曜から夜ふかし元日SP」を放送し始めた。
※3=STV。
私は「夜ふかし」も楽しみにしていたのでこれも嬉しい判断だった。また同時10分には放送業・放送局:フジテレビ(※4)が「有吉弘行のプライベートジェット爆食ツアー」を放送開始している。
※4=UHB。
そんな中で、地震報道に徹したのが放送業・放送局:TBSだ。同時になっても、予定されていた「ドリーム東西ネタ合戦」は放送せず、地震報道を続けた。TBSの記者が現地にいたこともあり、NHKより生々しい取材を届けていた。この日は深夜まで地震報道を続けた。23時6分前後には官公署 国の機関(国土交通省):同省 気象庁が再び震度7を発表し各局慌てて地震報道に切り替わったが、計器の誤作動だったことがわかりすぐに元の番組に戻った。以上が関東の元日の様子だ。
■関西・中京地区の放送は?
さて同じ元日、関西のテレビ局はどんな放送をしたか。表は先の関東のテレビ局と対比しやすいように、系列の順番を合わせてある。関東とほとんど同じだが読売テレビが21時以降も地震報道を続けており、そこだけ関東と違っていた。このため関西ではNHKと放送業・放送局:毎日放送(TBS系列)に加えて日本テレビ系列の読売テレビの3局が地震報道を夜まで続けたことになる。読売テレビにこの理由を質問したところ「当社の緊急編成マニュアルにおいては、近畿エリア内の『津波警報』は『(CM・提供中も)カットイン可』となっており、レギュレーション通りの対応ではありました」との回答。ルール通りやったまでのこと、ということらしいが、関西の人々にとっては頼もしい状況だっただろう。能登半島との距離を考えると、関東と関西で対応が違うのは当然のことと思う。中京地区(愛知・岐阜・三重の3県)の放送内容も表にしたのでお見せしておく。内容としては関東とほぼ同じだが一点だけ違いがある。TBS系列のCBCが16時8分にまず「震度5の地震発生」を番組を切り替えて放送しているのだ。その後、2分間ほど元の番組に戻った後、再び同時10分から「震度7の地震」の報道番組に切り替わっている。これも局としてのルール上のことなのかもしれないが、いち早い対応として特筆しておきたい。1月2日については表で説明するほど込みいってはいない。まずNHKは地震報道を続けた。一般ニュースや気象情報も挟みつつ、基本的に地震報道で朝から夕方まで通した。そこに、17時58分に突然、交通機関(航空業):羽田空港からの機体が炎上する映像が放送された。航空業:日本航空の旅客機と同省 海上保安庁の航空機が衝突した事故だ。当初は何がなんだかわからなかったのが、徐々に実態がわかってきた。その後「ニュース7」の時間でも19時20分まで航空機炎上の詳報が続き、また地震報道に戻ったり、他のニュースも伝えたりし、20時58分まで報道の時間となった。そして21時からはようやく「歴史探偵・光る君へコラボSP」などの通常の正月番組に切り替わった。民放は正月番組の中に地震報道を織り込んでいく編成だった。日本テレビは駅伝直前番組の中で地震報道に時間を割き、その後は「箱根駅伝」を中心に正月番組を編成。TBSも元日にほとんど地震報道に費やした分、2日はニュース枠で地震について伝える程度だった。フジテレビは8時30分から1時間、「緊急特番」と題して地震報道をたっぷり伝えた。これはネットワーク連携もあるので後述する。テレビ朝日も午前中の「ポツンと一軒家傑作選SP」の途中、11時45分から地震について報道し、13時まで1時間以上を割いた。その後は通常の正月番組。 テレビ東京も9時からの「温泉タオル集め旅」の中で12時45分から13時10分まで地震報道を伝えた。以上が大都市圏である関東・関西・中京地区の地震当日と翌日の放送だ。筆者はさらに地震の直接の被害を受けた石川県、富山県、新潟県の民放ローカル局に三が日の放送内容について問い合わせたがまだ返事をもらっていない。地震の余波が続いている中、迷惑な問い合わせだったかもしれない。ただ、富山県のフジテレビ系列局、富山テレビだけは返信をもらった。まず元日は基本的にキー局発の地震報道番組を放送し、その中で複数回ローカルとして差し替えた報道も行った。2日はローカル制作の報道特番を6時55分~8時30分まで放送。先述のフジテレビ制作の同時同分からの特番と合わせて9時同分まで2時間半強の地震特番を放送した。この連携は、富山の人々にとっては地元視点と全国視点の放送が続けて見られるいい形だと思う。これとは別にローカル局独自のL字放送(※5)を元日の17時24分から4日の18時59分まで送出した。
※5=メイン画面を少し小さくして文字情報を届ける。
また自社アプリとWEBサイトに特設ページを設け、地震関連のニュースのほか、罹災証明などの行政の窓口紹介や「サザエさん募金」の紹介なども行っている。おそらく他の民放局もこれらに似た独自の情報発信を行ったものと思う。再度問い合わせるので各局の皆さん、落ち着いたところで返信をもらえるとありがたい。
■考えさせられる「災害時の情報の伝え方」
今回の同地震では災害時に情報を各メディアがどう伝えるべきか考えさせられた。放送局はNHKだけでなく民放も公共的役割を担っており、災害時には急きょ報道に切り替える義務がある。一方で、そんな時の娯楽番組には人々の心を癒やす役割もあると今回再認識した。さらに、被災地の情報インフラの重要性も注目された。停電で中継局の電源が切れて電波が届かない地域もあった。それも含めて、石川・富山・新潟での各メディアの状況は知りたいところだ。引き続き情報収集を進めていきたい。
境 治 :メディアコンサルタント