「あ、もしもし、お客様が古い木の雨戸を直したいとおっしゃってるんですけど。俺はそういうの見たことないんで。はい、木です。
で、合板をカットして打ち付けるしかないすかね? 他に何か良い方法を知らないですか?
えぇはい。やっぱそれしかないですかね。
それで……そもそも直せるんすか?
はぁ、そうなんすか。あ、わかりました。はい、ありがとうございました。」
「そりゃぁ、木と釘でできてるんだから、壊れたら木と釘で直せますよ。だから買いに来たんじゃない。」
「そうなんですね。それじゃ、このヒノキの合板に防腐剤を塗るってことで。上の方のは湿気で反っちゃってますから、4,5枚目の反ってないのを取りますね。」
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亡父がらみの後片付けは、平日でないとできないものも多く、それに少し疲れが溜まってきたので、お盆休みというわけではないが一休みすることにした。
休むといえば私の場合、実家から引き上げて自宅へ戻ること、ではなくて、木更津方面へ行く(帰る?)こと。
マンドリンのレッスン(過去記事参照)の予約を入れ、木更津で知り合った人達の都合を聞き、そして出かけた。
この半年ほど居候(“テラワーク”)をしている木更津東泉寺を拠点にしたいところではあるが、このお盆の時期には御住職一家が滞在なさっているので、お邪魔をするわけにはいかない。
そこで、ワンデイシェフのレストランに行ったときに知った、木更津駅近くの「寛傳知(かんでんち*)」という場所に泊めて頂くことにした。
(*)これは活動内容がとても面白くて共感がもてる場所・団体。ただ、私が書くと説明が長~くなりそうなので、御興味のある方はネットでどうぞ。HPもあります。
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ここがまた、なんとも味のある古民家を改造した建物で、いや、古民家というよりも昔の海苔工場、兼職人の宿舎だったところらしい。
友達になったそこのスタッフの方に迎え入れていただき、おしゃべりをしたりマンドリンの下手な演奏を披露したりしているうちに、ここの雨戸が一部、破れていることが分かった。
むろん金属製のサッシなどではなく、昔ながらの木の雨戸。私が生まれ育った家がそうだったように。
スタッフが帰宅されて独りになったあと、考えた。
食事がつくわけでもなく布団も持ち込んだ。それでも多少は光熱水費がかかるだろう。千円ぐらいをこの団体に寄付してもいい。
でも。
ちょうど台風が接近していて直撃するという予報。破れている雨戸がもっとヒドいことになったり、もしかしたら物が飛んできてガラス戸が割れてしまうかもしれない。
この雨戸、ちょっと外してみると案外簡単に修理ができそうだ。
じゃあ、これを直すことで「一宿“零”飯」の恩義に報いようかな。
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そういうわけで、大好きなホームセンター、それも、スタッフに訊きさえすれば大抵のことは教えてもらえる気の利いたホームセンター、ジョイフル●田の君津店へひとっ走り。
スタッフに相談するにはコツがある。
何を作りたい(直したい)のか、正確なサイズはどうか、素材に何を使いたいか、そのあたりをはっきりさせておけば、必要な材料や道具や、場合によっては作業方法まで教えてもらえる。
今回の雨戸の場合、外れた板の破片と、抜けかけていた釘を拾い、板のサイズを測ってから行ったわけだ。
木材売り場で冒頭の若いスタッフに相談して、元はたぶんヒノキの一枚板だが、この薄さ(5mm)の一枚板は取り扱いがないし、おそらく弱いだろうということで、ヒノキを使った合板を購入。
隣に加工場があるので、サイズ通りに切ってもらった。自分の手で切るよりずっときれいで早い。ワンカット50円也。
釘の方は釘売り場で見せ、思った通り銅製だったので、それを買い込んだ。
あとは、木材売り場のお兄さんのアドバイスに従って、濡れても保ちが良いように、防腐塗料も購入。もちろん塗料売り場で適切な物のアドバイスを受けた。
台風の接近と競争なので、帰りがけにソバ屋で大急ぎでソバを啜り込み、寛傳知へ戻ってすぐに作業を始めた。
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まずは新しい板に防腐剤を塗る。速乾性だが1時間くらいは置きたいから。
乾くのを待つ間に古い破れた板を剥がし、雨戸自体の枠がそのまま使えるかどうかを確認。OK!
そこまでは順調だったが、そこからが豈(あに)図らんや難渋した。
そう、銅の釘だ。
なぜ銅を使っているのかな、と最初は思った。抜けたのを見て、いかにも銅だと分かったからだ。
しかし、銅だと分かったのはまだ輝きが残っていたから。
つまり、銅は錆びにくい。だからこそ、使ったのだろう。
雨戸という風雪にさらされる過酷な環境に使う釘としては、普通の鉄釘よりは銅の方が良かったのだろう。いまなら真鍮かステンレスを使うだろうが、昔はそういった合金がなかったのかもしれない。
ところが。
銅は錆びにくいと同時に、やわらかいという特徴がある。
なので、普通の釘の感覚で打ち込むと、すぐに曲がってしまう。
特に、古い板の場合が問題だった。
新しく買った板はしっかりと堅いので、根元がぐらつかないから釘も曲がりにくい。
しかし、古い板の釘が抜けたところを打ち直す場合、板がもはやスカスカになっているから、根元がぐらついてすぐ曲がってしまうのだ。
合計10本くらいは新しい釘を無駄にして、釘の根元をラジオペンチで押さえながら打ち込んでみたり、慎重にゆっくり少しずつ打ち込んでみたり、逆に一気に強く打ち込んでみたり。
それはそれで結構楽しめた。
が、台風との競争! 遊んでばかりはいられない。
何本かは曲がったまま板に打ち込んでしまったが、スピード重視でとにかく完成。
こうしておけば、多少の風なら耐えてくれるだろう。
(後記)
幸い今回の台風は雨も風もそこそこで、駆け足で通り過ぎてくれたので助かった。
とはいえ、次ということもある。余った材料を使い切るぐらいまでは、雨戸の補修をしても良いかな?