◆図書館から借りたもの。他の本と並行して読んでいたため、何日かに分けてようやく読了した。最終的には24日(月)に自分が読書でよく使う某焼き鳥居酒屋で読み終える。

 

 

ちなみに大昔には角川文庫でも出たようだが、自分が読んだのはその後に出た「ハルキ文庫」版。

 

 

自分の記憶通り、1976年(=自分は中学1年)の4月から朝日新聞夕刊に連載されていたSF小説のようだ。以前も書いたが、その連載で毎日面白く読んでいたところ、途中で親が取る新聞を替えてしまったため、続きが読めず。「最後はどうなったのか?」が、ず~っとわからぬまま。勿論後に書籍化されたので、それを読めば結末はわかるのだろうが、その頃にはなんか関心が失せてしまっていた。というわけで、きちんと「通し」で読むのはこれが初めて。

この作品って、大阪在住の主人公が「夜遅くまで飲んでて泥酔し、朝になって目が覚めてみたら、なんと街中には誰もいなくなっていた」というスタ-ト。その後「数は少ないが、他にもやはり日本全国では消滅しなかった人がいる」という事が判明し始め、北海道とか名古屋とかの「消え残りの人達」と何とか連絡を取り合ったり、同じ大阪内での「やはり消滅しなかった人達」と何とか落ち合ったり‥‥という展開。取り敢えず数少ない「消え残り」の人々の多くが何とか苦労して東京に集まり、ホテルを基地として今後の対策を考える‥‥という展開になる。尤もこの手のスト-リ-ではよくあるパタ-ンだが、意見の違いから「内部分裂」が起こったりもする。

読者側もこうした状況を想像すれば「何が問題になってくるか?」は予想はつくと思うが、例えば食料。電気だって無尽蔵ではないので(しかも管理する人も消えてしまっている)、冷凍冷蔵設備もストップし始める。多くの人々が「突然」消えてしまった‥‥という状況なので、例えば調理中だったりすると「火をつけたまま」消えてしまったことになるため、あちこちで火災も発生している。消防隊員もいないので消火活動も行われないまま。動物たちも餌をもらえない状態なので野生化して‥‥と、なるほど、こうした状況下では色々な問題が起こってくるんだな。よく映画なんかで「生き残った人達がみんなで力を合わせて‥‥」みたいな展開の作品があるが、あれらはどれもちょっと甘いですね。この『こちらニッポン』が一番深く切り込んでいると思う。こちらが思っている以上に色々と深刻な問題が起こってくる事に気がつく。

そして『こちらニッポン』では終盤の方で出てくるのだが、「ああ‥‥確かにこういう状況下だと、こうした問題も起こってくるな‥‥」という事を痛感させられた。ネタバレになるからここでは書かないが、こういう状況下だと「おそらく」生じるであろう、実に深刻な「ある問題」だ。この種の作品で、この「ある問題」を正面から取り上げているのは、恐らくはこの『こちらニッポン』だけなんじゃないかな‥‥。ひょっとしたら他にもあるのかもしれないが、もしそうだとしても『こちらニッポン』が最初だと思う。

さて、ネットで書かれていた「この結末というか最後のオチは賛否両論」という点だが、自分は否だな。ず~っ‥‥と読んできて、「おや、こういうオチですかい?」というのは、ちょっと酷い気はする。とはいえ、「じゃ、どんなオチにしますか?」と言われると答えようがない。この展開だと、このようなオチにするしかない‥‥とも思う。いずれにしても「このような事態が本当に起こったら、どんな問題が起こってくるのか?そして我々は一体どう対処したらいいのか?」を考えさせる作品であり、小松左京氏がやりたかったのはたぶんそちらなので、最後のオチなんてどうでもいいのかもしれない。序盤のスピ-ド感に比べて中盤がちょっとダレる気はしたが、しかし傑作だとは思う。大人になって改めて読み返してみると、これは結構「深い」な‥‥と感じた。