以前もこのブログで主張したことがあるが、この『異邦の騎士』は御手洗シリ-ズを幾つか読み終えた上で読まないと感動はゼロになる。

1988年初出だったかな?記憶を失った男。自分が何者かもわからないまま工場で働き始める。周囲となかなか上手く関係を作れずに頑張っていく中、ある女性と出会い、アパ-トの一室で共に暮らし始める。デ-トコ-スは横浜だ。ささやかな臨時ボ-ナスでステレオを購入。「ステレオがあるだけでは音楽は聴けず、レコ-ドも買わなければならないのよ」という、ごくごく当たり前の彼女の助言。そして彼女のリクエストで買った初めてのレコ-ドは『ドビュッシ-/アラベスク』だった。ふと見つかった免許証から、男は自分が都内在住の「益子秀司」であることを知る。しかし自分が過去にどんな生活をしていたのかは依然として不明なまま。やがて二人は20代後半の占星術師・御手洗潔と出会う。若き日の御手洗潔だ。超変人の御手洗潔に驚き呆れる主人公。

こうして貧しくも幸せな日々が続く中、二人の周囲には不穏な動きが‥‥。自分は何かの事件に巻き込まれているのか?記憶が失われた過去に一体何があったのか?彼女とのささやかな幸せに崩壊の足音が聞こえる。終盤のクライマックスシ-ン。益子秀司のピンチにハイ・パワ-のバイクで駆けつける御手洗!果たして間に合うのか?頑張れっ益子秀司!そして急げっ御手洗潔~!間に合ってくれ~っっっ!‥‥というのがこの『異邦の騎士』。

いやはや、この『異邦の騎士』には本当に参った。恐れ入った。島田荘司の表ベストワンが『占星術殺人事件』なら、裏ベストワンはこの『異邦の騎士』だろうよ。「泣けるミステリ」というアンケ-トを実施したら自分は間違いなくベストワンに推すし、一般的にもベスト3には入るんじゃなかろうか?1988年初出という事で自分は20代で読んだわけだが、ラストで目がウルウルになった。島田荘司よ、あなたはいつから浅田次郎になった?そして涙ぼろぼろは自分だけかと思っていたら、ネットの感想を見ると、やはり皆さん涙したようですね。結構結構。恥じる必要は無い。これを読んで涙しない方がむしろ恥ずかしいぞ。

しかし‥‥しかしそれだけではない!島田荘司はラストのラストにとんでもない「サプライズ」を用意していたのだ。そうかそうか。実はこれがやりたかったのだな、島田荘司っ!いやはや恐れ入りました。

しかしこのサプライズ、冒頭で書いたように、御手洗シリ-ズを幾つか読んだ読者でないと驚けないのである。絶対にこの作品を最初に読んではいけない。昔「決して一人で観てはいけません」と宣伝されたホラ-映画があったが、こちらは「決して最初に読んではいけません」だ。最低でも御手洗シリ-ズを『占星術』+何か、自分的には『占星術』+『斜め屋敷の犯罪』がベストで、次点は『占星術』+『暗闇坂の人食いの木』か、或いは『占星術』+短編集『御手洗潔の挨拶』あたりを薦めるが。「なぜ?」と言われたら「ネタバレになるから言えません」と答えるしかない。しかしこのアドバイスにきちんと従って読んでもらえた方々には、読後の大きな感動と大きな驚きを責任を持って保証したい。