島田荘司作品は御手洗潔シリーズだけではない。ただ、御手洗&石岡コンビが全く登場しない作品の中で絶対に読むべきものとしては、自分としては『切り裂きジャック、百年の孤独』『アルカトラズ幻想』は必読書と思っているが、他は無理に読まなくてもいいんじゃないかな‥‥という気がする。いや、もちろん余裕あらば『奇想、天を動かす』『摩天楼の怪人』あたりは取り敢えずは薦められる。しかし我々はミステリばかりに時間を費やしてばかりもいられまい。ここは御手洗シリーズに絞ろうではないか。ただ、このシリーズも読むのには適切な順番というものがある。例えば『アトポス』から読んだりしたら絶対に失敗する。たぶんその人は、そこで御手洗シリーズを読むことはストップしてしまうだろうよ。

 

なお、最大のポイントは「シリーズ中、唯一の泣けるヒューマン・ドラマ」たる『異邦の騎士』をどのタイミングで読むかだろう。

 

自分の記憶も曖昧だが、取り敢えず御手洗シリーズを発表順に並べてみる。

ちなみに自分が島田荘司をリアルタイムで読み出したのは『異邦の騎士』からなので、『占星術』と『斜め屋敷』は発売から数年経ってから読んだものである。

 

『占星術殺人事件』(?)

『斜め屋敷の犯罪』(?)

『異邦の騎士』(1988)

『暗闇坂の人食いの木』(1990)

『水晶のピラミッド』(1991)

『眩暈』(1992)

『アトポス』(1994)

『龍臥亭事件』(1995)

 

このあと他にも出てはいるが、まあ、ここまでで「打ち止め」で構わないと思う。

なお、御手洗シリーズには『挨拶』『ダンス』『メロディ』『最後のディナー』等の短編集もあり、それらは充分に傑作であるのだが、それは今回は省略する。

 

スタートはやはり『占星術殺人事件』がいいと思う。いきなり最高傑作を読んでしまうとあとが物足りなくなってしまう‥‥という欠点はあるが、他の作品にもそれぞれ別の魅力はあるので大丈夫なんじゃないかな?

2番目は『斜め屋敷』がいいと思う。『占星術』に比べるとかなり小粒な印象を受けるが、それは『占星術』があまりに強烈であるため、どうしたって大きく見劣りはしてしまう。しかし『占星術』と比較しなければ、これ、結構面白いと思う。ミステリとして充分に楽しめるぞ。何より「御手洗コード」というものに慣れるためにも、是非とも2番目に読むべき作品だと思う。

その次は『異邦の騎士』を飛ばして『暗闇坂』に進んでいただきたい。これが3番目。これまた『占星術』と比較してしまうとどうしても見劣りする。しかしスケールは大きく、完成度はかなり高いと思うんだよな。基本は横浜が舞台だが、中盤で御手洗&石岡くんがスコットランドにも出向きますぞ。そして「巨人の家」の「シンプルでありながら、まず我々には見抜けない真相」や終盤の地下での大冒険など、充分に力作!更にその後「準レギュラー」として活躍する松崎レオナ初登場‥‥という意義も持っている。

4番目として、ここで気分転換的に『異邦の騎士』を読んでみてはどうだろうか?若き日の御手洗潔を描いた、ヒューマン・ドラマの傑作!あとはネタバレになってしまうので何も言えないが、読み終わった時に、なぜ妖美(よみ)が『異邦の騎士』を読むタイミングにこれだけこだわったのかを皆様には理解していただけると思う。

5番目&6番目は『水晶』『眩暈』のどちらでも良い。ただ、『眩暈』はとてつもない前半傑作であることは保証できる。もし、あの前半レベルがラストまでキープできていたら、間違いなく『占星術』を上回る大傑作になっていたことだろう。後半の失速が惜しまれるが、絶対の必読書だ。自分にとっては『占星術』に次ぐ島田荘司作品ナンバー2!また、『水晶』はやたらと長ったらしくて、トリック的にもどうも自分にはピンと来ないのだが、中盤あたりに出てくる松崎レオナのある台詞!これは痺れた!かなり芝居がかっている台詞だが、自分はとてつもなく感動してしまったのである。松崎レオナのこの台詞だけで『水晶』は読む価値がある。どのセリフか是非とも当ててみてください。

というわけで、以上です。他の作品は、これらの後でありさえすれば、もうどんな順でも結構。