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ジュブナイルの最高傑作として、ミステリならば『都筑道夫/蜃気楼博士』、SFならば『筒井康隆/緑魔の町』‥‥ということを、以前ブログにも挙げた。

 

 

しかしミステリのジュブナイルに関して言えば、もう1つ「異端の暗黒の傑作」たるものが存在する。

 

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自分は小学校の、少なくとも4年生より前だと思うのだが、この「異端の暗黒の傑作」を読んでとんでもなく暗い気分になったことをはっきりと覚えている。

 

 

作者はこの「とんでもなく暗い気分になる作品」を当時の子供達に読ませて、何がしたかったんだろう?

 

 

それに対して『都筑道夫/蜃気楼博士』はわかりやすい。

都筑道夫氏が「ね!ミステリって、こんなに面白いんだよ!みんなも読もうよ!」という勧誘メッセージが隅々から明確に子供達に伝わってくるではないか。

 

 

自分もそういう受け止め方をしてきた。

そして現に「ミステリのあらゆる面白さ」みたいなものを作中に片っ端から盛り込んだ『蜃気楼博士』は、子供向けミステリの最高傑作として自分の中では君臨している。

 

 

しかし、この某作品は違う。

「ミステリって、こんなに面白いんだよ!」ではなく、「作品によっては、こんなに暗い気分にさせるんだよ!」「暗い気分になりたくなかったら、ミステリなんて読まない方がいいよ!」とでも言っているような気がする。

 

 

ただ、内容的には優れものである。

トリックは海外古典の「焼き直し」的な作品だが、何より登場人物のキャラの冴え具合!

これは揃いに揃って、かなり魅力的なキャラだろう!

キリコさんとかね(笑)。

 

 

ただしキリコさん達が出てくる部分は、はっきし言って「並みのミステリ」でもある。

この作品の問題作たる所以は、同時並行して出てくる別の部分にある。

 

 

自分が小学生の頃に読んだのは、雨の日の夕方だったと思う。

優れたミステリ作品を読んだ後のような爽快感ではなく、前述の通り「とんでもなく暗い気分」になった。

 

 

たぶん大人になっていきなり読んだとしたら、こうした暗い気分にはならなかったのではないか?

この本の暗黒の真価を満喫するためには、やはり感受性豊かな小学生時代に読むことがベストなんだと思う。

 

 

初出当時は『蜃気楼博士』と同様に、朝日ソノラマの子供向けシリーズで出版された。

 

 

現在では『蜃気楼博士』は入手困難本になっているようだが、この作品は現在では創元推理文庫で文庫化されて、容易に入手可能。

 

 

ただし、とんでもなく気分が暗くなるこの作品、一般には勧めはしない。

もし読むのであれば、「自分が小学校3〜4年生だったら、この本をどう読んだだろうか?」ということを推測出来る人達だけに読んで欲しい。

 

 

『辻真先/仮題・中学殺人事件』(創元推理文庫)は、そんな作品である。

 

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