私たち夫婦がまだ付き合っていた頃の話。
私が動物園が好きなこともあり、春秋は動物園へ一緒に出かけることが多かった。
ある動物園でチンパンジーの子どもの檻の前に列ができていた。
私たちも観たくてそこへ並んだ。
前に並んでいた女性達が
『かわいいー!!』
と何度も言っていたのが印象的だった。
私たちの番になった。
チンパンジーの子が母親と離されて一人きりで銀のタライを持って佇む姿に私はすごく寂しさを感じたことを覚えている。
すると
『母親と離されて1人きりで檻に入れられて、この姿をかわいいとは思えない。寂しいに決まってるじゃん。』
と当時は彼氏だった主人が言った。
私と同じことを感じていた。
彼の裸の心が見えたように感じた。
一緒に過ごす中で彼の裸の心に触れる回数がたくさんあったわけじゃなかった。
でもそれは確実にあったんだ。
主人を亡くした時、許せないことがあった。
“振り返らない”
そう決めた時期があった。
でも、感情をどうしたら良いのかわからなくて
抑えきれずノートへ吐き出した。
ある程度まで感情を吐き出すと
裸の心に触れた思い出達が顔を出した。
“結婚した理由”
というと大袈裟かもしれないけど
いつでも、温かい私の帰れる場所が過去にあったことに気づいた。
この気づきが私の感情を
一つ一つひっくり返してくれたんだ。
主人の裸の心に触れた過去の私を信じることで
埋め尽くされていたどす黒い感情達が
少しずつ少しずつ小さくなっていった。
そして、私たちは住んでる世界が違っても
また手を繋ぎ直して再び歩き始めることができた。
苦しいことの方が多かったけれど
今の自分に出会えたから
諦めずに取り組んで良かったと心から思える。
帰る場所はいつも温かくて優しい光が溢れていて居心地が良い。、