福島再生を重点施策の一つに掲げる政権トップが就任後初めて「現場」を訪れた。仕事納め翌日の29日、来県した安倍晋三首相。福島第1原発や、川内村や郡山市の仮設住宅などを訪れ、避難者と言葉を交わした。「新しい人に期待したい」「日本を元気に」。避難者は復興加速の祈りを込めた拍手で出迎えたが、駆け足で視察した首相に届いたか--。【神保圭作、三村泰輝】
◇原発事故対応重視、津波被災者は不満も
川内村の村民が身を寄せる郡山市富田町の仮設住宅内の集会所。午後4時半過ぎ、安倍首相が姿を見せると、集まった避難者約30人から拍手が起こった。数人と握手を交わして集会所に入った安倍首相は、避難者代表の20人と意見交換。無職女性(63)は「精神的賠償が8月に打ち切られた。心配で村に戻って生活できない」と訴えると、安倍首相は「みなさまの気持ちに寄り添えるように進めていく」と、あいまいな答えだったという。
安倍首相はこれに先立ち川内村上川内の「五社の杜センター」でも、近くの仮設住宅に暮らす村民と懇談。出迎えた村民約50人と握手を重ねたが、立ち話だけで滞在時間は10分にも満たなかった。
仮設住宅で暮らす主婦の藤田松美さん(47)は握手の際「復興をよろしくお願いします」と伝えたという。「この1年9カ月あまり物事は進まなかった。新しい人に期待したいんです」と話した。無職の草野雅勇(まさお)さん(77)は「こんな山の中まで来てくれてうれしい。沈んだ日本を元気にしてもらいたい」と期待を込めた。
ただ、原発事故への対応を重視する首相に冷ややかな声も。新地町中心街の仮設店舗で理容店「はなみずき」を営む荒文栄(あらふみえ)さん(60)は「ぜがひでも新地町まで足を運んでもらいたかった」と憤る。
震災の津波被害で多くの家屋が流されたが「がれきが片付いただけで何も復興していない」という。「原発だけでなく、津波被災者もまだまだ復興に時間がかかっていることを分かってほしい。小さい町で苦しんでいる人にもっと目配りを」と訴えた。