第48回  本当は怖い!「パワー」の意味 power, capability (令和6年6月6日)

 

【前半】なかやまきんに君の「パワー」

    POWERの本当の意味

【後半】世界の社説でPOWERをチェック

    power, force, capability

 

■□- - パワーの本当の意味 - -□■

 

 「なかやまきんに君」がテレビで叫ぶ

  「パワー」!!!

 

 この「パワー」は「腕の筋力」をイメージさせる。

 

 試しに「彼の腕の筋力は強い」を翻訳。

  翻訳ツールA

  →His arm muscles are strong.

  翻訳ツールB

  →He has strong arm muscles..

 

 あれ?「パワー」が出てこない(笑)

 

 「彼の力は強い」ならどうか。

  →His power is strong.

 

 おお、やっとpowerが出て来たけど

 具体的に、腕や足の力を指定すると

 powerは出てこない。

 

 何だかひっかかり、

 古い切り抜きを引っ張り出した。

 

◆日下公人(くさか きみんど)さん(作家、評論家)が語る。

 (「世相を斬る」JUN, 2007, No.322)

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 いままで「力」というのは、「パワー(power)」や「フォース(force)」という意味で使う場合が多かった。これらは、肉体的な力、支配する力と言ったような意味です。

 特に外国人はそういう使い方をします。

 ところが日本人の場合は、「ケーパビリティ(capability)」という意味で使います。「人から頼まれたらやってあげる力、能力」が「ケーパビリティ」です。

 先の「パワー」や「フォース」は「強制する力」です

 海外では、自分の気持ちに相手を従わせるのが「パワー」でしたから、その辺りで食い違いがあったのです。

 しかしいま、日本人にはだんだん「パワー」が必要になってきました。「フォース」をかけられているなと、だいぶ目覚めてきたわけです。

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 う~ん、そうなのか。

 と、ちょっとpowerの定義を英英辞典で調べてみる。

 

【ロングマン現代英英辞典】 power の定義

1.  the ability or right to control people or events

  人や出来事をコントロールする能力または権利

2.  the position of having political control of a country or government

   国や政府を政治的に支配する立場。

3.  the ability to influence people or give them strong feelings

         人を動かす力、強い感情を与える力

4.  the right or authority to do something

   何かをする権利または権限(権力)

5.  a natural or special ability to do something

    何かをするための自然な、または特別な能力

 

 何と、上から4番目までは支配をイメージさせる定義だ。

きんに君の「パワー」はずっと下のようだ。

  8.    the physical strength or effect of something

   何かの物理的な強さや効果

 

force も同じように調べる(英語部分は省略)

1.  政府や他の組織のために軍事活動を行うよう訓練された人々の集団

2.  目的を達成するための手段として用いられる軍事行動

3.  望むものを得るために行われる暴力的な身体的行為 

4.  何かを動かしたり、他のものにぶつけたりする物理的な力の大きさ。

 

◆英英辞典も時には引いてみたいもの。

 翻訳サイトを使うと楽々意味が分かる。

 英和辞典では分かりにくいイメージが見えることがある。

 異文化理解にもつながることがある。

 教科書に活用してもいいのではないか。

 

■□--- 世界の社説でPOWERをチェック ----□■

 

 先の日下公人氏の解説と英英辞典の定義とを頭に置いて、power又はforcecapability両方の入った社説をデータベースで検索してみた。

 こんな感じ→ (power or force) and capability

 

 ヒットした中で興味深かったものを一部引用してみる。

 

◆2024年2月1日 ワシントンポスト社説

【Russia’s deadly new salvos challenge Congress to respond】==ロシアの致命的な新型攻撃、議会は対応を迫られる==

 

 Though backed by Western supplies, Ukraine’s 2023 counteroffensive fell far short of the hoped-for large-scale expulsion of Russian troops. There’s no denying that this disappointment had an impact on Ukraine’s morale. Still, it would be wrong to conclude that Ukraine lacks either the will or the capability to fight effectively. On Dec. 26, Kyiv’s forces destroyed a large Russian landing ship, the Novocherkassk, in port at Feodosia in Russian-occupied Crimea, causing dozens of casualties.

 西側の支援に支えられたとはいえ、2023年のウクライナの反撃は、大規模なロシア軍の追放を期待するにはほど遠かった。この失望がウクライナの士気に影響を与えたことは否定できない。それでも、ウクライナに効果的に戦う意志も能力も欠けていると結論付けるのは誤りだろう。12月26日、キエフ軍はロシア占領下のクリミアのフェオドシヤ港でロシアの大型揚陸艦ノヴォチェルカスクを破壊し、数十人の死傷者を出した。

 

◆2002年6月11日 ストレーツタイムズ社説(シンガポール)

【Japan on the make】==発展を続ける日本(福田官房長官の非核三原則見直し発言)==

 

 THERE are Japanese officials who are awkward with verbal cues, and there are those who play at being awkward but are actually razor-sharp.

 日本の官僚の中には、話し方が下手な人もいれば、下手を装いながら実は非常に鋭い者もいる。

 A fortnight ago, the Chief Cabinet Secretary, Mr Yasuo Fukuda, set off a tizzy when he implied Japan could abandon its non-nuclear policy some day.

 2週間前、福田康夫官房長官が、非核政策(三原則)を放棄する日が来るかもしれないと発言、物議を醸している。

 

< abandonは、一般的には「中止する、断念する」、法律分野では「放棄する、遺棄する」が優先的な訳語だと思う。日本人がやや曖昧に「見直す」と発言しても、英語に訳された時にはabandonを使われている可能性がある。>

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 He told newsmen the reassessment would be in the same vein as calls to amend the Constitution, which had grown stronger. He did not think Japan's pacifist defence-only doctrine extended to the nation having to foreswear nuclearisation.

 福田氏は記者団に対し、憲法の見直しは、強まっている憲法改正を求める声と同じ流れになると語った。福田氏は、日本の平和主義である専守防衛の原則が、核保有を放棄しなければならないことにまで及ぶとは考えていない(核兵器を保有できないというわけではない)。

 

<  “defence-only”は、日本では普通に「専守防衛」と翻訳されるし、辞書や翻訳ツールでもそうである。しかし、直訳すれば「守るだけ」なのである。日本語にどう工夫をしても、英語を通せば諸外国がどう見ているかが想像できる一例ではないか。>

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 Mr Koizumi has been as swift to deny any assumed intentions on Japan's part but, sadly for him, he will not be believed. Prime ministers in Japan do not originate 'jugular' policy; the LDP's pullers of power-levers and vice-ministers of key ministries do.

 小泉首相は、日本側の意図を否定しているが、残念ながら信じてもらえないだろう。日本で重要な政策を打ち出すのは首相ではなく、自民党の有力者や各省庁の次官だからだ。

 

< 英語では、levers of power (権力のレバー)や、real levers of power(実権、真の権力者)などという表現がある。「有力者」には、英語ではpower「支配」のニュアンスがあるということか。英語と比較すると分かりやすい場合もあるようだ。>

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 Mr Fukuda's remarks had been preceded by those of Deputy Chief Cabinet Secretary Shinzo Abe, who said he saw no constitutional bar to possessing nuclear weapons. In April, Liberal Party leader Ichiro Ozawa told Chinese officials bluntly that Japan could build a nuclear capability quickly that would knock China out if it did not ease off on military expansion.

 福田氏の発言に先立ち、安倍晋三官房副長官は核兵器保有に憲法上の問題はないと述べた。4月、自由党の小沢一郎代表は中国高官に対し、日本が軍備拡張を緩めなければ中国を打ち負かす核戦力を迅速に構築できると露骨に語った。

 

< この社説は2002年の小泉内閣当時のもの。その後、民主党が政権を奪取し、2009年、小沢一郎氏は幹事長として483名という史上最大という訪中団を引率した。親中とか弱腰と批判されていた小沢さんが、中国に対してこんな強気な発言をしていたとは!>

 

◆2000年7月5日 タイムズ・オブ・インディア社説(インド)

【Speightful Fiji】==フィジー暫定政府の任命==

 

 In a new twist to the Fijian drama, the army has appointed Laisenia Qarase as interim prime minister. Mr Qarase who is CEO of the Merchant Bank of Fiji was also on rebel leader George Speight's shortlist for prime ministership. Yet, now that Qarase is PM -- although he'd have to share power with his benefactor, military chief Commodore Frank Bainimarama -- Speight has backtracked from his position and threatened a serious backlash.

 フィジーのドラマに新たな展開が起こり、軍はライセニア・カラセ氏を暫定首相に任命した。フィジー・マーチャント銀行のCEOであるカラセ氏は、反乱軍指導者ジョージ・スペイトの首相候補リストにも名を連ねていた。しかし、カラセ氏が首相となった今、恩人である軍司令官フランク・バイニマラマ准将と権力を共有しなければならないにもかかわらず、スペイト氏は自身の立場を撤回し、深刻な反発を招くと警告している。

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 In any case, there has been no real military coup in Fiji; it is more an act of terrorism committed by a few desperadoes with support from some army personnel. Therefore, if the present combined military and civilian ministry is to be steered towards restoration of democracy, the rest of the democratic world should give them the capability to resist George Speight.

 いずれにせよ、フィジーで実際に軍事クーデターが起きたわけではなく、一部の自暴自棄な連中が一部の軍人の支援を得て起こしたテロ行為にすぎない。従って、もし現在の軍民合同省が民主主義の回復に向けて舵を切るのであれば、他の民主主義諸国はジョージ・スペイトに抵抗する能力を彼らに与えるべきである。

 

◆2000年11月5日 バンコクポスト社説(タイ)

【Proud to be a nuclear power】==核保有国であることを誇りに思う(パキスタン)==

 

 Gen Pervez Musharraf was in Moscow last week, and in the course of a local press interview complained that Pakistan does not get enough respect. The world should know, said the dictator of Pakistan, that his country is a nuclear power. Pakistan can deliver a nuclear strike, he said. Pakistan has rockets, Pakistan has nuclear warheads.

 先週モスクワに滞在していたペルベズ・ムシャラフ将軍は、現地の報道陣とのインタビューで、パキスタンは十分な敬意を払われていないと不満を述べた。パキスタンの独裁者は、自国が核保有国であることを世界は知るべきだと言った。パキスタンは核攻撃をすることができると彼は語った。パキスタンにはロケット弾があり、核弾頭がある。

 

< すげ~な、パキスタン! >

 

 Point taken. But the general is flat wrong about other countries. Not only do Pakistan's neighbours and the rest of the world know that Pakistan is a nuclear power, they are distressed about it. Since Pakistan demonstrated its nuclear capability more than two years ago, many concerned nations and people have been trying to figure out how to convince Pakistan to stop being a nuclear power.

 その通りだ。しかし、将軍は他国については完全に間違っている。パキスタンの近隣諸国やその他の国々は、パキスタンが核保有国であることを知っているだけでなく、そのことに心を痛めている。パキスタンが2年以上前に核保有能力を示して以来、多くの関係国や人々が、パキスタンに核保有国であることをやめさせるための説得方法を模索してきた。

 

< 一文の中に、能力capabilityと支配力powerとをnuclearとの組み合わせで分かりやすく使っている。まるで今回のテーマを知っていた教科書のような社説だ(笑)。>

 

 

◆2012年6月22日 ニューヨーク・タイムズ社説(米) 

【Sanctions Against Iran】==イランに対する制裁==

 

 The goal has to be to shut down all of the program that gives Iran the capability to build a bomb. The United Nations Security Council ordered that all enrichment should be ended six years ago, but the major powers were right to start the talks with a more short-term goal: to stop the most dangerous kind of enrichment.

 協議の目標は、イランに核爆弾の製造能力を与える全計画を停止させることでなければならない。安保理は6年前、イランにウラン濃縮活動の全面中止を命じたが、主要6カ国が、最も危険な水準の濃縮活動をやめさせる短期目標を掲げて協議を開始したのは正しい。

 

◆2004年11月4日 デイリー・テレグラフ社説(イギリス)

   【No power on Earth can intimidate a free nation】==地球上のいかなる力も自由な国家を脅かすことはできない==

 

 This raises the two issues that are likely to test the Atlantic partnership over the next year: Iran and Israel. Teheran's imminent acquisition of a nuclear capability and its role in the Iraqi insurgency make Iran the most urgent item in Mr Bush's in-tray.

 このことは、今後1年間に大西洋のパートナーシップを試されることになるだろう2つの問題、イランとイスラエルを浮かび上がらせている。テヘランが核能力を間もなく獲得し、イラクの反乱で果たしている役割を考えると、イランはブッシュ大統領にとって最も緊急の課題である。

 

(参考)in-tray 未決箱(英)・・・in-boxはよく使われるが、ほとんどe-mail関連である。in-trayは筆者の社説データの中では珍しい用例である。

 

< タイトルの意気込みはよいのだが、日本のような非核の国々は、核能力を持ったpowers国(特に独裁、専制国)から常にintimidate威嚇されているのが実態である。>

 

 

【まとめの斜説】(笑)

 前述の福田官房長官のところで、abandonの説明をした。この社説の和訳を掲載した日本の「海外論説速報」(共同通信、廃刊)では「見直し」と訳していた。福田氏の実際の発言とは別に、海外のメディアがどう伝えたかは知りたいところだ諸外国にどう伝わったかは重要な情報だからだ。そこを日本向けに変えてしまっては、せっかく海外の情報を伝える意味がなくなるのではないだろうか。翻訳ものには、原文を確認した時に、重要な部分が省略されていたり、ニュアンスが違っているということが時々ある。小説や映画などの場合には変えた方が効果的な場合もある。しかし、報道関係は気をつけないといけないと思う。字数制限などで仕方のない時もあろうが、日本向け「意訳」は時に障害である。

偉そうなことを言ってスミマセンm( _ _ )m。

 

 では、今回はこの辺で。

 

(注)このブログの内容を使った結果について、管理人は一切の責任を負いませんので、自己責任でお願いします。