第38回 米山隆一さんの発言を元に考える (時事)(令和6年2月19日)

 今回も時事ネタの感想を切り口に、世界の社説で英語の勉強をしてみます。

 

前半は、米山隆一さんの発言を元に、時事ネタを

  ・山本太郎さんの「赤字・黒字」

  ・銀行の信用創造と「国債は無限に発行できるのか」という疑問

後半は、信用創造 credit creationを世界の社説から

  Rate cut reasoning (利下げの根拠) 英紙フィナンシャル・タイムズ

 

◆米山隆一さんの発言を元に

 

 先日、立憲民主党の米山隆一衆院議員(元新潟県知事)のX(旧ツイッター)での発言に疑問を感じてしまいました。(2月11日付けデイリー新潮より引用)

(引用中「山本」は、れいわ新選組の山本太郎代表)

 

----------- 引用開始 ----------------------------------

 山本はアベプラで複数のパネルを使い、「誰かの『赤字』は誰かの『黒字』」という言葉から派生するように「(財政出動した際の)政府の赤字は民間の黒字」「政府の負債は民間の資産」と論理展開した。

 この動画を引用した米山氏は「非常に不正確で正確には『政府の赤字は国債を買った人の黒字。但しそれは、例えば100万収入がある人が、自分では50万しか使わず50万国債を買ったので収入(100万)>支出(50万)になって黒字なだけで別に何か富が生み出されている訳ではない』です。ミスリーディングな幻想を語るのも大概にと思います」と否定した。

 ---------  引用終了 --------------------------------------

 

》》米山さんの発言が私にはちょっと難解なのですが、次のように整理してみました。

 

・Aさん(100万円の資産(預金)がある)が、国債を50万円購入する。

    ▼

・すると、政府の資産(預金)が50万円増えるが、同時に国債という債務が50万円増える。ここまでは、政府は差し引きゼロ(バランスしている)。

・Aさんの預金は50万円減るが、国債という債権が50万円増えるので、資産は合計100万円で変わらない。

(米山さんはここをAさんの赤字と考えているように見える。)

    ▼

・続いて、政府は事業を実施して50万円を企業Bに支払う。

・すると、政府の資産は50万円減る(50万円の赤字)。

Aさんが持っている国債は政府の負債なので、政府の負債は50万円増えたことになる。

・企業Bは、50万円の収入があったので、資産が50万円増える(黒字)。

    ▼

・ここまでで、政府は50万円の支出(赤字)があり、企業B(民間)は50万円の収入(黒字)があるという構図が分かる。

 

・つまり、政府の(50万円の)赤字(支出)は民間の(50万円の)黒字(収入)になっている。

・米山さんは、ここまで考えに入れていないように見えてしまいますが、実際、政府の支出(赤字)は民間の収入(黒字)になっているのです。

・このことは、企業で経理や財務を経験した方には理解しやすいことと思いますし、ごく普通にある事実に過ぎません。

・もっとはっきりした事例はコロナの時で、政府が支出(赤字)した給付金は国民の預金になり、収入が増えました(黒字)。

 

》》しかし、さらに疑問が湧きます。

・政府の赤字はどうすればいいの? 国民が返すことになるのでは?

 

・Aさんの国債が満期になり、払い戻しを求められると、政府は「また」国債を発行して個人や銀行や保険会社などに買ってもらうのです。

・要は、「借り換え」しているのです。

 

・さらに、銀行が持っている国債は、日銀が大量に買い取ります。現在、日銀が保有している国債は全体の52%くらいですから、半分以上です。

・前回も書きましたが、日銀は政府の事実上の子会社ですので、両者の間の貸し借りは連結してチャラなので、日銀が買い取った分、政府の「借金」は約半分に減ったのです。

・ただ、政府と日銀との間では形式的に数字のやり取りだけは続けられていますので、その数字が国民に示されます。それで借金が大きく見えることになってしまいます。

 

・政府の負債は見かけ上どんどん積み上がって1200兆円にも膨れ上がりましたが、日銀保有分を除くと約600兆円に減ります。

・そして、実質上は借金ではなく、実態は国債(実質的には通貨・円)の発行累計額というか、単なる発行残高という記録だということなのです。

・なので、この「借金」は返すどころか、返していませんし、見かけ上どんどん増えてきましたが、何の問題も起きていません。ハイパーインフレなど起きないのです。

 

》》ここで赤字・黒字に戻ります。

 このように、1200兆円という政府の「赤字」(支出)は一方で国民の「黒字」(収入)になっています。このことは、政府の赤字を減らしたいと考えると、国民の黒字(預金)を減らすために増税などをすることになるのです。増税メガネです。でも、減らす必要はないのです。

 

》》銀行の信用創造

 ここでちょっと思いついたのですが、米山さんはもしかすると、銀行の信用創造という機能をあまり意識されていないかも知れません

・ご存じないはずはないとは思うのですが、銀行融資は我々の預金からではなく、「借用書」に基づいて「信用創造」によって、ゼロからお金を創り出して貸しているのです。(担保は関係ありません。)

・ちなみに、信用創造は英語ではcredit creationが使われます。

・日銀も、国債という政府の借用書を受け取る代わりに銀行に「円」を支出しています。これも信用創造です。

・ここでもゼロから円を作り出しているのです。何かの資産を売ったりする必要はありません。つまり、中央銀行を含む統合政府はゼロからお金を作り出せるのです。

・米山さんは、この仕組みを、多分、知識としては知っていても意識していないような気がします。意識していると、先のような発言にはならないように思うのですが。

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(参考)「銀行融資は、預金の流用ではなく、信用創造によるゼロからの創造」ということは、次の資料でも分かります。英語で専門的ですが、Google翻訳すれば、一般の方でも十分に意味がわかりますので、1ページ目だけでもご覧ください。

 この資料はBank of England (英国銀行)のサイトにあるものですが、Money creation in the modern economy(近代経済における貨幣創造)という資料です。ここでは、Credit Creation よりも、もっと直接的なMoney Creationという言葉が主に使われていますが、ほぼ同じ意味です。

chrome-xtension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/quarterly-bulletin/2014/money-creation-in-the-modern-economy

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》》「別に何か富が生み出されている訳ではない」は本当か?

 米山さんは、「別に何か富が生み出されている訳ではない」と言われました

 しかし、信用創造とは、ゼロからマネーを創造することなので、お金を富とすると、政府が富を生み出し、それを国民に支出しているという仕組みになるのです。これは普通に行われている事実であり、何か特殊な理論ではありません。

 

》》「国債は無限に発行できるのか」という疑問

 ここまで説明すると、じゃあ、「国債は無限に発行できるのか」という疑問が湧いてくる方もおられると思います。そう思いたくなるのは自然だと思いますが、実は違います

・政府が大量の国債を発行して事業を行うことは、それは需要を作り出す行為でもありますが、需要が大きくなり過ぎることもあり得ます。そうすると、供給が追い付かなくなってきて、大きなインフレになる可能性があります。

・その場合には、政府支出を減らしたり、税金を上げたり、日銀の金融引き締め等という様々な手段で調整すればよいのです。

「過度なインフレを避ける」ことが国債発行の上限になり、無限ではないのです。

・ちなみに、「国債をいつまでも発行できないよ」と言う国会議員に何人かお会いしましたが、「じゃあ、上限はどこですか?」と聞くと回答はなく、それ以上の議論は避けられてしまいました。ぜひ、耳を傾けていただきたかったです。

 

》》デフレが続いた「失われた30年」

 このの期間は、バブル崩壊後に日銀の引き締めが過度に行われた影響が大でしたが、日銀が金融緩和に転じた後でも政府が支出を控えてしまい、「財政健全化」という名の下でのいわゆる「緊縮財政」が需要を押さえる役割を果たしてきました。このことから、「財政健全化」という一見まともそうな言葉は、実際には日本経済を「不健全」にした大きな原因だったと思います。

・いろいろなご意見がありますが、30年間も日本経済を低迷させたのですから、財政健全化の考えを、せめて疑問に思って欲しいですし、見直して欲しいなと思います。

・民間なら成果の上がらないことを、こんなに長く続けないですよ。岸田総理、お願いしますよ。

 

◆【後半です】 信用創造 credit creationを世界の社説から

 

 フィナンシャル・タイムズ 2007年12月4日

【 Rate cut reasoning 】(利下げの根拠)から一部を引用します。

 

 社説の大意は、信用収縮credit squeeze(銀行からお金が借りる人が減っている)が起こっているので、利下げを求める声があるが、インフレ率が上がる恐れもあるし、銀行がもっと慎重に仕事してくれというものです。

 

 < 銀行融資が減るということは、世の中の需要が減っていてデフレ傾向にあるということでもありますから、日本の今までの状況と似ているところがありますね。 >

 

 There is an imperative in any crisis: to do something, anything, to respond to it. In the case of the credit squeeze, central banks have most of the tools, hence vocal demands, especially from market participants, that they cut interest rates. The Bank of England’s monetary policy committee meets on Thursday, yet if it is to cut, it can only be as an indirect response to the credit markets.

 

(試訳)どのような危機においても、何かを行い、それに対応することが急務である。信用収縮の場合、中央銀行はほとんどの手段を持っているため、特に市場参加者からは利下げを求める声が上がる。イングランド銀行の金融政策委員会は木曜日に会合するが、もし利下げを行うとしても、それは信用市場への間接的な対応としてのみ可能である。

 credit squeeze 信用収縮(credit contractionも使われる)、market participant 市場参加者、 cut interest rates 金利引き下げ、 indirect 間接的な

 

 

 Credit creation may have slowed but it has not yet collapsed, and given that monetarist economists in the UK were worried about run away growth in the money supply earlier this year, some slowdown is welcome. There remain, too, significant inflation risks, from higher commodity prices and the incipient weakness of the pound.

 

(試訳)信用創造は減速しているかも知れないが、まだ崩壊していない。今年の初めにイギリスの金融主義の経済学者が貨幣供給の急激な増加を懸念していたことを考えると、ある程度の減速は歓迎されるものである。さらに、一次産品価格の上昇やポンドの潜在的な弱さから、依然として重要なインフレリスクが残っている。

 credit creation 信用創造、 collapse 崩壊する、 monetarist economists 金融主義の経済学者、 run away growth 成長の暴走(runaway の方が多く使われるようである)、 significant 重要な、 commodity prices 商品価格、一次産品価格、 incipient 初期段階の、潜在的な

 

 To cut interest rates now would require evidence that tighter credit will so weaken economic growth that inflation will fall below target in 2008 and 2009.

 

(試訳)今金利を引き下げるには、信用収縮が経済成長を弱め、2008年と2009年にインフレ率が目標を下回るという証拠が必要だ。

 

《《 この一文に見られるようにイギリスはインフレを恐れました。同様に日本もインフレを恐れています。しかし、なぜデフレを恐れないのでしょうか? デフレで30年も日本が苦しんでいる間に、土地や不動産、企業がどんどん外資に買われています。日本人の実質賃金も上がらず、むしろ下がっています。財政政策が極端過ぎると思うのです。需要先導型の3~5%程度のインフレにして、日本経済を復活させることに何の支障があるのかと思います。 》》

 

 Wednesday’s Purchasing Managers’ Index might just provide that evidence, but if it does not, the Bank should wait for the wealth of data that the Christmas shopping period will provide.

Unless that data shows resilience, it should then cut rates. As for the credit squeeze, it may be only time and a rigorous reappraisal by banks of appropriate lending practices and risk premiums that will bring it to an end.

 

(試訳)水曜日の購買担当者景気指数がまさにその証拠を提供するかもしれないが、そうでない場合、中銀はクリスマス商戦期に提供される豊富なデータを待つべきである。そのデータが回復力を示さない限り、利下げを行うべきだ。 信用収縮に関しては、時間をかけて銀行が適切な融資慣行とリスクプレミアムを厳しく再評価するだけで終息するかもしれない。

 

 if it does not, そうでない場合(このフレーズは私の社説データベースには13件しか出てきませんが、会話では使われるのでしょうか。使いやすそうなので研究してみよう。)、 bring it to an end 終わりにもっていく、収束する(I guess it's time to bring it to an end. お開きの時間になったようだ。という使い方もあるので、便利に使えるかも知れません。)

 

 長文ですが、いかがだったでしょうか。

では、今回はこの辺で。

 

(注)このブログの内容を使った結果について、管理人は一切の責任を負いませんので、自己責任でお願いします。