19回 ウクライナ戦争を長引かせる連中 (令和5年6月26日)

 

 アメリカ在住の国際政治学者である伊藤貫さんが、ウクライナ戦争についてネット番組で語っていたことを切り口に勉強してみたいと思います。

 

 アメリカのランド研究所という、安全保障や外交に関する有名なシンクタンクがあります。伊藤さんによると、民間から金を集めているCSIS等とは異なり、日本で言えば防衛研究所に近い存在でレベルは高く、アメリカの初期の核戦略は全て同研究所が作成したそうです。

 

 また、ランド研究所は去年から、ウクライナ戦争はもういい加減にしておいた方がいいと発信してきたそうです。

 伊藤さんの言葉を借りると、この戦争では、ホワイトハウスと国務省がイケイケドンドンなのに比べ、軍事の専門家集団であるCIAと国防総省はもう止めた方がいいという意見だそうです。

 

 最近のニュースを見ても、米軍のミリー統合参謀本部議長は非常に慎重な言い方をしています。昨年11月には、「ウクライナの軍事的勝利が近く起きる確率は高くない」と述べ、同時に「ロシアが撤退するという政治的解決策が存在する可能性はある」という言い方をしています(ロイター)。また、今年の1月には「軍事的な観点から言えば、(ウクライナから)今年ロシア軍を追い出すことは非常に困難であると考えています」(TBS NEWS DIG)と語り、さらに5月25日には、「ロシアがウクライナ戦争で軍事的勝利を収めることはない、とのコメントを出し、また同時にウクライナが近いうちにロシア軍を自国領から撃退する見込みも薄い、と述べた。」ことをARB NEWS日本語版が伝えています。

 

 伊藤さんは、ランド研究所が6月5日に出した報告書An Unwinnable War - Washington Needs an Endgame in Ukraine】(勝ち目のない戦争―ワシントンはウクライナに終止符を打つ必要がある)を基に話していましたが、日本の大手メディアが報じることと角度がかなり違っていて、興味深く聞きました。

 同報告書のほんの冒頭部分だけ無料なので私も読めました。ちょっと紹介します。

 

 Russia's invasion of Ukraine in February 2022 was a moment of clarity for the United States and its allies. An urgent mission was before them: to assist Ukraine as it countered Russian aggression and to punish Moscow for its transgressions. While the Western response was clear from the start, the objective — the endgame of this war — has been nebulous.

 2022年2月のロシアのウクライナ侵攻は、米国とその同盟国にとって明瞭な瞬間だった。それは、ロシアの侵略に対抗するウクライナを支援し、モスクワの罪を罰するという緊急の使命だった。西側の対応は当初から明確だったが、目的、つまりこの戦争の最終目的は曖昧だった。

 

 But it is now time that the United States develop a vision for how the war ends. Fifteen months of fighting has made clear that neither side has the capacity — even with external help — to achieve a decisive military victory over the other. Regardless of how much territory Ukrainian forces can liberate, Russia will maintain the capability to pose a permanent threat to Ukraine. The Ukrainian military will also have the capacity to hold at risk any areas of the country occupied by Russian forces-and to impose costs on military and civilian targets within Russia itself.

 しかし、今こそ米国は、この戦争をどのように終わらせるかというビジョンを描くべき時だ。15カ月に及ぶ戦闘で明らかになったのは、どちらの側にも、たとえ外部からの支援があったとしても、他方に対して決定的な軍事的勝利を収める能力がないということだ。ウクライナ軍がどれだけ多くの領土を解放できたとしても、ロシアはウクライナに恒久的な脅威を与える能力を維持するだろう。ウクライナ軍もまた、ロシア軍に占領された地域を危険にさらす能力を持ち、ロシア国内の軍事・民間目標に犠牲を強いることができる

 

 This ambiguity has been more a feature than a bug of U.S. policy. As National Security Adviser Jake Sullivan put it in June 2022, “We have in fact refrained from laying out what we see as an endgame."

 この曖昧さは、米国の政策のバグというよりも特徴である。ジェイク・サリバン国家安全保障顧問が2022年6月に述べたように、「われわれは実際、最終的なゲームとしてわれわれが見ているものを示すことを控えてきた。

 

 さらに、伊藤さんの解説によると、この戦争によって、米軍の軍事力(大量の砲弾やミサイル)はどんどん落ちてきているため、その分、台湾へ回す対中軍事力も減っている。そして、ロシアは不利な立場になってもこの戦争を止めない。西側は戦争を有利にしてプーチンを交渉の場に引き出そうとしているが、ロシアには軍人の人数と砲弾などの製造能力が残っていて、逆にウクライナの精鋭はほとんど残っていないので、時間が経つほどウクライナよりロシアが有利になっていく。だから、早く終わらせるべきだという内容だという。

 

 何人かの上級研究官がこの戦争はいい加減にした方がいいと言いだしたそう。政府系のシンクタンクだからホワイトハウスから仕返しをされる恐れがあるのに言うのは、バックにペンタゴンとCIAがいることは間違いないだろうとも言っていました。さらに、慎重なことを言ったミリー統合参謀本部議長は、ホワイトハウスから大目玉をくらったとのことです。

 この戦争を早く終わらせて欲しいです。

 長引かせるのは一体誰だ?

 

 もっとあるのですが、次の機会に紹介することにします。

 

◆さて、今回の社説はウクライナ戦争の教訓になるような内容で、いささかハードです。

 2023年6月7日 クリスチャン・サイエンス・モニター(アメリカ)

【 A truth verdict against state-backed Rambos 】

   国家に支援されたランボーに対する真実の評決

 

 A U.N. court links former Serbian officials to militias that killed civilians in the 1990s Balkan wars. That’s a lesson for the war in Ukraine.

 国連の法廷は、1990年代のバルカン戦争で市民を殺害した民兵組織とセルビアの元高官を結びつけた。これはウクライナ戦争の教訓だ

 

 Former head of Serbia's state security service Jovica Stanisic appears in court at the UN International Residual Mechanism for Criminal Tribunals in The Hague, Netherlands, May 31.

 セルビア国家安全保障局の元長官ヨヴィカ・スタニシッチ氏が5月31日、オランダ・ハーグの国連国際刑事法廷残留メカニズムに出廷した。

 

By the Monitor's Editorial Board

June 7, 2023

 

 A deceitful tactic in modern conflicts - a government’s secret use of Rambo-style proxy militias to harm civilians and thus avoid accountability - just received a major setback. A United Nations court in The Hague issued a final verdict last week confirming that two former security officials in Serbia helped set up “special” combat teams in the 1990s that killed thousands of non-Serbs during the violent breakup of Yugoslavia.

 現代の紛争における欺瞞に満ちた戦術、つまり政府がランボー式の代理民兵を秘密裏に使って民間人に危害を加え、その結果、説明責任を回避するというものだが、このたび大きな挫折を味わった。ハーグの国連裁判所は先週、セルビアの2人の元警備当局者が1990年代に「特別」戦闘チームの設立を支援し、ユーゴスラビアの暴力的な崩壊の間に何千人もの非セルビア人を殺害したことを認める最終評決を下した。

 

 《「ランボー」とは、軍事的な工作員というニュアンスかと思います。私の使う辞書やネット辞書には使用例が見当たりませんでした。工作員だからかも(汗)》

 

 The verdict - which took 20 years of legal proceedings - “leaves no doubt about the involvement of Serbia’s police and security services in the wartime atrocities in Bosnia and Herzegovina, which is something that Serbia’s authorities continue to deny to this day,” concluded Amnesty International. The two former officials, Jovica Stanicic and Franko Simatovic, were given sentences of 15 years by the court, known as the International Residual Mechanism for Criminal Tribunals.

 20年間の法的手続きを要したこの判決は、「ボスニア・ヘルツェゴビナでの戦時中の残虐行為にセルビアの警察と治安機関が関与していたことに疑いの余地はなく、それはセルビア当局が今日まで否定し続けていることである。」とアムネスティ・インターナショナルは結論付けた。二人の元職員、ヨヴィツァ・スタニチッチとフランコ・シマトビッチは、国際刑事法廷残余メカニズムとして知られる裁判所によって15年の刑を言い渡された。

 

 The verdict creates a welcome precedent for finding the truth about atrocities committed by other so-called paramilitary groups in conflicts from Ukraine to Sudan to Syria. It might also help end the denial among many Serbs about the war crimes committed by government-backed groups like Arkan’s Tigers and the Scorpions during the Balkan wars.

 この評決は、ウクライナからスーダン、シリアに至る紛争において、いわゆる準軍事組織が犯した残虐行為について真実を明らかにするための歓迎すべき先例となる。また、バルカン戦争中にアルカンのトラやスコーピオンズのような政府の支援を受けた集団が犯した戦争犯罪について、多くのセルビア人が否定してきたことに終止符を打つ一助となるかもしれない。

 

《ウクライナと西側には、このような「汚い仕事」はないのでしょうか。傭兵ではありませんが、昨年の国際アムネスティの報告書騒ぎを思い出します。アムネスティは、8月4日、学校や病院に陣地を設営し民間人を危険な目に遭わせているとウクライナ軍を指弾する報告書を公表しました。ウクライナ側の反発を受けて、これはロシアの侵害行為を正当化するものではないとしましたが、報告書はとうとう引っ込めませんでした。》

 

 “Without the truth there’s nothing and each lie provokes another lie,” Goran Zadro, a Croat who survived an attack in 1993 by Serb forces, told Balkan Insight. “Here, each community has its own truth.”

 「真実がなければ何もないし、嘘はまた嘘を誘発する」と、1993年のセルビア軍による襲撃を生き延びたクロアチア人のゴラン・ザドロはバルカン・インサイトに語った。「ここでは、それぞれのコミュニティがそれぞれの真実を持っている」。

 

 Even though the verdict was a long time coming, the international prosecution of war crimes in the former Yugoslavia has provided a lesson for Ukraine. Soon after the Russian invasion in February 2022, Ukrainian officials began to probe the killing of civilians by both Russian military and the mercenary force known as the Wagner Group. The evidence collected so far - even as the war rages on - could be useful later in linking Kremlin officials to alleged backing of militias that commit war crimes.

 判決は長引いたが、旧ユーゴスラビアにおける戦争犯罪の国際訴追は、ウクライナに教訓を与えた。2022年2月のロシア侵攻直後から、ウクライナ当局はロシア軍とワグネル・グループとして知られる傭兵部隊の双方による民間人殺害について調査を開始した。これまでに収集された証拠は、たとえ戦争が激化しているとはいえ、後になってクレムリン当局者と戦争犯罪を犯す民兵の後ろ盾の疑惑を結びつけるのに役立つ可能性がある。

 

 The May 31 verdict at the court in The Hague was a major step to establishing the truth and addressing impunity, said Volker Turk, the U.N. high commissioner for human rights. It exposed the tactic of a government supporting an armed group to do the “dirty work” of killing innocent civilians and violating international norms of conduct in war. It also set a primary example, writes journalist Marija Ristic in Balkan Insight, “of how justice for the crimes of state-sponsored paramilitary groups is an achievable goal.”

 5月31日にハーグの裁判所で下された判決で、国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルクは、真実を明らかにし、不処罰に対処するための大きな一歩であると述べた。罪のない民間人を殺害し、戦争における国際的な行動規範に違反する "汚い仕事 "をさせるために、政府が武装集団を支援するという戦術を暴露したのだ。また、「国家が支援する準軍事集団の犯罪に対する正義がいかに達成可能な目標であるかを示す主要な事例となった」とジャーナリストのマリヤ・リスティックはバルカン・インサイトに書いている。

 

 《第二次大戦中、アメリカの原爆投下による民間人の無差別大量殺人を筆頭に、連合国側も相当に汚い仕事をしてきましたが、勝った側は裁かれませんでした。》

 

 

 このような内容は疲れます。もっと駄洒落が欲しいところです。今回はこの辺で。

 

(注)このブログの内容を使った結果について、管理人は一切の責任を負いませんので、自己責任でお願いします。