近大ボクシング部名城信男監督「雲外蒼天 今は耐えること」

 
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スポニチアネックス

 桜は今年も咲いた。しかし近大キャンパスに例年のにぎわいはない。ボクシング部の名城信男監督(38)は眉間にしわを寄せる。「つらいけど、一致団結して外出を自粛するしかない。大切な人に感染させないように」。近大は入学式をネット配信とし、来月6日まで学生は構内立ち入り禁止。同7日以降に開始予定の授業も当面はオンラインとなる。体育会各部を支援するスポーツ振興センターは、専属トレーナー監修の自宅で可能な強化トレーニングをまとめて配布。競技力維持に努める。「自分が置かれた状況でベストを尽くすしかない」。選手としての自己評価は「凡人」「下手クソ」ながら愚直な取り組みで、辰吉丈一郎に並ぶ日本最速(当時)のプロ8戦目で世界を獲った男らしい言葉だ。

 14年4月に現役引退し、同時に近大コーチに就任。ただ、無制限の指導に必要なアマ資格取得には、プロ引退から3年以上という日本連盟の規定を1年半も超える時間がかかった。当時の山根明会長による不条理な処分のためだ。“山根判定”で物議を醸した16年岩手国体。近大監督が大会直前に日本連盟から「本部帯同」を命じられ、やむなくコーチの名城が急きょ試合会場で近大選手のミット打ちの相手をした。これを山根会長が問題視し、近大施設以外での指導と試合会場への出入りを禁止する処分を断行。結局、山根会長らが辞職し、18年9月に連盟の新体制が発足するまで不遇は続いた。

 そんなストレスがたまる状況でも、懸命に練習する教え子の姿を励みに近大の練習場で情熱を注いだ。「セコンドに付けないし、試合会場にも入れなかったけど、選手たちが頑張ってくれた」。18年6月に関西学生リーグ(団体戦)を21年ぶりに制覇した。

 サインとともに色紙に記した言葉は「雲外蒼天」。困難を乗り越えた先には、きっと素晴らしい世界があるという意味。「長いトンネルだけど、コロナに打ち勝てばオリンピックをはじめ、いろんな競技でスポーツの素晴らしさを共有できる。今は耐えること」。プロの世界戦は12ラウンドで、全く休まず攻撃を続けるのは不可能。耐える時間もあるから勝機をつかめる。

 

 ○…19年4月に就任した名城監督は技術を磨く前に「健康第一」と肝に銘じる。プロで人生最大の試練に直面した。05年4月3日、6戦目で日本スーパーフライ級王座を獲得。だが対戦相手の田中聖二さんは試合後に意識不明となり、12日後に他界。引退するか悩んだ。「今でも思い出さない時はありません。ボクシングの危険度は理解しています。指導で心がけるのは、まずダメージを残さないように。しっかり体をつくること」。新型コロナウイルスへの対策にも細心の注意を払う。

 ◆名城 信男(なしろ・のぶお)1981年(昭56)10月12日、奈良市出身の38歳。奈良工、近大でアマ戦績は38勝19敗。03年7月にプロデビュー。06年7月にWBA世界スーパーフライ級王座を獲得。初防衛後に陥落するも08年9月に河野公平との決定戦で再奪取し2度防衛。プロ戦績は19勝(13KO)6敗1分け。右ファイター。14年4月に引退して近大コーチ就任。19年4月から現職。



「雲外蒼天」



名城信男さん



さすがですね