元チャンプ・名城監督が初陣飾る 山根会長の「処分」解け 近大ボクシング連覇へ快勝

 
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毎日新聞

 関西学生ボクシングリーグ戦が12日、京都市伏見区の龍谷大深草キャンパスボクシング場で開幕し、世界ボクシング協会(WBA)スーパーフライ級元王者の名城信男監督(37)が今春就任した近畿大は関西学院大に8―1で快勝し、2連覇に向けて好発進した。国内でプロの元世界王者の大学指導者は世界ボクシング評議会(WBC)ライトフライ級元王者で日本ボクシング連盟常務理事の中島成雄・駒沢大総監督(65)がいるが、監督では史上初めてだ。

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 同リーグ戦1部はライトフライ級からミドル級までの7階級・9人制(バンタム、ライト両級は2人)で争われ、来月23日まで同ボクシング場など2会場で5週にわたり、6校総当たりで対戦。近大は関学大戦でライトフライ級を棄権して不戦敗となったものの、バンタム級で出場した昨年度全日本フライ級2位の坂本達也(3年・青森山田)が三回2分17秒RSC(レフェリーストップコンテスト∥プロのTKOに相当)勝ちするなど、出場8人が全勝(不戦勝1人)。初陣を飾った名城監督は「最高の結果で、ホッとしている」と胸をなで下ろした。

 自身は奈良工高から近大に進み、アマ時代は全日本選手権8強が最高成績で、戦績38勝(20KO・RSC)19敗と際立った実績を残せなかった。大学4年生で中退して六島ジムから2003年7月にプロデビューすると、ラッシングパワーを生かした右ファイターとして頭角を現し、06年7月に当時国内最速タイの8戦目で世界王座を獲得。2度目の防衛に失敗したものの、08年9月に王座奪回して2度防衛を果たした。19勝(13KO)6敗1分けのプロ戦績を残して現役引退し、14年4月に近大のヘッドコーチに就任した。「僕はスピードやセンスがなかったが、プロで持久力やパワーを鍛えて成長した。自分の考えを押しつけず、選手の個性を生かす指導をしたい」と心掛ける。

 近大ボクシング部は全日本大学王座決定戦10回優勝を誇る名門だが、09年6月に部員2人が路上強盗事件を起こして廃部。12年10月に俳優でOBの赤井英和総監督(59)を迎えて復活し、選手補強も進めて15年に同リーグ2部優勝と1部昇格を決めた。名城監督も当時ヘッドコーチとして部の再建に貢献したが、その後、思わぬ苦難を味わうことになる。

 同連盟の規定(当時)では、元プロが現役引退から3年を経過し、選手指導などアマボクシング界に貢献した活動をしていれば、指導者・役員で連盟登録が可能。名城監督も本来なら17年にはそうなるはずだった。ところが、16年10月の岩手国体で、連盟登録のIDカード保持者しか入れない練習場に入って近大選手のミット打ちの相手などをしたことに、当時の山根明・同連盟会長(79)が「重大な規定違反」と激怒。名城監督は試合会場の無期限出入り禁止処分を受けた。

 同国体では他の指導者がその場に不在だったため、選手の練習相手を務めたのだが、「山根会長に何度も謝りに行ったが、処分を解いてもらえなかった」と振り返る。普段の練習で指導できても、試合に行けない。昨年6月、教え子たちが同リーグで21年ぶり38回目の優勝を飾った瞬間にも立ち会えなかった。

 昨年9月の同連盟の体制変更に伴い、ようやく処分を解除されて連盟登録も認められ、今年4月に監督に昇格。「監督になって何かが大きく変わるわけではないが、今回の試合前は怖かった」と、責任感から重圧を感じていたようだ。3年ぶりにリーグ戦会場に足を踏み入れたことにも「試合で選手が頑張っている姿を見ると、胸が熱くなる。うれしい」と感激の面持ちだ。

 今リーグで優勝候補と見られる近大だが、選手層は薄い。一昨年7月に当時の監督の不祥事(部員へのセクハラやパワハラ)などが原因で、大学側から有力選手の推薦入学枠を打ち切られた。2年生4人は大学で競技を始めた初心者で、1年生はゼロ。4年生7人と3年生5人が実質的な戦力だ。12日の関学大戦でライトフライ級を棄権したのも、同級の選手は1人しかおらず、名城監督が「減量がきついため、5試合全てには出せない。大事な試合だけ使う」と判断したためだ。

 指導方針は「ダメージを残さないようにする。スパーリングでもダメージを与えるパンチが当たったら、すぐ止める」。選手層の薄さに加え、自身が05年4月に日本スーパーフライ級王者(当時)の田中聖二(金沢)に挑戦して十回TKO勝ちした際、試合後に田中が急性硬膜下血腫で亡くなる経験をしたからだ。「ボクシングの危険性は僕が一番分かっている」という。

 連盟登録をしたばかりでセコンドライセンスを持っていないため、試合中は声援や指示を送ったり、試合直後の選手の医師検診に付き添ったり。昨年度全日本ミドル級1位の細野恭兵主将(4年・札幌工)は「名城監督は選手一人一人に寄り添い、体調面などを気遣ってくれる」と信頼する。選手として世界を制した指揮官は「連覇に向け、選手のあとひと伸びの成長が必要。いい成績を残し、大学に推薦枠を再び認めてもらい、素晴らしいクラブを作りたい」と誓う。【来住哲司】




連覇に向け


名城監督頑張って下さいね