はずだったが、みんなが疲労困憊で店を後にしようとしたときもまだ、外が騒がしいのに気づいた。

がちゃ
ドアを開けるとそこには雛身沢の村の人の大半が集まっていた。
「おいおい、どうなってんだ。もう営業はとっくに終わってるぞ」
あたりを見渡すとどうやら並んでいるわけではない、ある人はビールを片手に談笑しており、ある人はテイクアウトで持ち出したケーキをぱくついている。
本当にどうしてものかと固まっていると、まさかと思われる人がこの店の前に居ることに気づいた。
「お、おい魅音」
恐る恐る魅音に確認するために魅音を呼んでいると、どうやら相手のほうがこっちを見つけたようだった。
「お、お、お、おじいちゃん?」
そこにいたのは雛身沢の村長である公由さんだった。
「お~、魅音ちゃん。先に始めさせてもらってるよ」
そういうと公由さんは、手に持っていた一升瓶を掲げて近づいてきた。
「ちょっとおじいちゃん。これはどういうこと?」
今日の大忙しから、閉店後の駐車場の大宴会。俺たちにはどういうことかさっぱりわからなかったが、どうやらこの公由さんが全ての元凶だというような魅音のいいようだった。
「え、どういうことって、今日は魅音ちゃんにとっての大事な日なんだろ?だから村人を集めてお祝いと宴会をしてたんだよ」
「まあ、確かに今日は大事な日だけど、なんでこんなに人がいっぱい来てるのよ?」
「だってこの前魅音ちゃんいってたじゃないか。電話で」
「おい、どういうことなんだよ魅音。まさか10年前と同じことをしてるんじゃないだろうな?」
俺たちの中には10年前の神社でのパーティのことを思い浮かべた。
「え、そうなのかい、魅音ちゃん。でも、電話では確かに今日、大事な人との門出だって言ってたじゃないか?」
「本当なの?みーちゃん」
レナが代表して言ったが、どうやらそこにいる全員が同じことを考えているようだった。
「お、おい魅音。おまえ本当に進歩がないな」
あきれるしかなかった。
まさか、十年越しで同じミスをするなんて思っても見なかった
「あ、ははははは。またやっちゃった」
といって魅音は恐る恐る後ろを振り向くと、そこには般若のような顔をしたみんながいた。そして俺も同じ顔をしてたにちがいない。
「こら~魅音。お前という奴は何回同じことをすれば気が済むんだ。あの時俺もお前も死ぬほど恥ずかしかったじゃないか、よもや忘れたわけじゃないだろうな?」
「わわわわ。忘れてなんかないよ。今日もただ公由のおじいちゃんにお祝いを言ってもらいたかっただけなんだから」
そういってあわてた後、しょんぼりし始めてしまった。
「それにしてもどうするかな。みんなには俺たちの店の開店だけじゃなく、俺との結婚っていうことになってるんだよな。は~、全員に謝罪か~」

十年前はあんなにも頼りになっていた委員長が日常においては本当にドジっ娘だというのは、高校、大学と同じ学校に通っていたからわかる。
まあ、部活の要領で努力をおこたることはなかったから、高校でもすぐに学年一位にまでなったが、肝心なところでドジを踏むんだよな。
例えば、二年生のときに生徒会長になったのはいいが、卒業式の日にちを間違えて送辞を用意し忘れてたり、受験の時に受験票を忘れて、一度家に帰ってから会場にいったら、日にちを一日間違えてたり、まあ、一緒に居て楽しかったからいいんだけどな。
本当に魅音は何も変わってないんだよな。
あの頃から…

と感傷に浸っていると
「そんなことはいいから早くこの誤解を解きなさいよ」
と少し不機嫌になった梨花ちゃんが声をかけてきた。
「そうだな。みんな、もう少しだけ手伝ってくれ。これが今日最後の仕事だ。何とか手分けして誤解を解いてくれ」
「もう、本当にしょうがないですね」
詩音があきれながら。でも、笑顔で手伝ってくれるのを承認した。他のみんなもしょうがないな。と口では言いながら、満面の笑みで答えてくれた。
「よし、じゃあ作戦開始だ」
という俺の号令でみんなが一斉に散っていった。



10分後…



「ふぅ~。何とか全員に誤解だということを伝えることができたなぁ」
みんなにねぎらいの言葉をかけていると一人だけ戻ってきてないことに気がついた。
「あれ、梨花ちゃんは?」
みんなが戻ってきたかと思ったら梨花ちゃんだけ戻ってきてなかった。
「そういえば、梨花ちゃんは公由のおじいちゃんたちのところで話してるのを見たけど…」
魅音に言われて公由さんのほうを見たら、梨花ちゃんの姿はなかったが、その代わりに、めでたい、めでたいとお酒を飲んでいる公由さんの姿だけで、梨花ちゃんの姿が見えなかった。
「おい、さっき公由さんには訂正したよな?何でめでたいんだ?」
疑問に思ってみんなに聞いてみたけどみんながクビを傾げてしまった。
「そ、そうだ。梨花ちゃんは?」
といってみんなで梨花ちゃんの姿を探した。
「あ、いたよ」
レナが梨花ちゃんを見つけ出した。梨花ちゃんはというと村人に満面の笑みでお酌をしていた。
「どういうことだ?」
ただただ首を傾げるしかなかった面々に公由さんがまたちかづい来た。
「お~。前原君と魅音ちゃん、そういうことだったら早く言ってくれればいいのに、おじいちゃん勘違いしてたよ」
といって満面の笑みを残した後、またお酒を飲みに戻っていってしまった。
「どういうことだ?」
さっきから首をかしげていたみんなの前に梨花ちゃんが戻ってきた。
「梨花ちゃんご苦労様。ところでどういうことなんだ?さっきから梨花ちゃんが事情を話してきたところから異様な雰囲気が漂ってるんだけど」
言葉にしてみたが、やっぱり梨花ちゃんが話していたあたりからすごい勢いでコソコソ声が聞こえてくる。
「ああ、そのこと」
と妖艶な笑みを浮かべながら楽しそうにしていた。
「じゃあ、圭一こっちに来るのです」
と昔のような無邪気な笑みを浮かべながら手をとってみんなの前に出て行った。
「じゃあ、圭一にはさっきのご褒美をもらおうかしら」
というといきなり大声で
「みんな、今日は新しい門出に集まってくれてありがとうなのです」
といってにぱ~と笑い始めた。
外野からは
「おめでと~」や拍手などもちらほらと聞こえてきた。どういうことかまったくわからないまま成り行きを見ているしかなかったが、取り合えず自分のこの門出でみんなが喜んでいるんだ。何か言わなくちゃと思い。
「みんな、本当に今日は集まってくれてありがとう」
と大声で言った。
しかし、そのあと梨花ちゃんが大声で言った言葉は本当に予想外だった。
「今日、私と圭一は婚約したのです~」








「え~」
後ろで控えていた魅音たちが驚いている。そりゃそうだ。言われた本人も面食らって魂が抜けたような顔をしているんだから
「ちょ、ちょ、ちょ。圭ちゃん、どういうこと」
魅音があわてふためいて聞き返してくる。それは俺が聞きたい。
「圭一君、どういうことかな、かな」
レナ、俺も事情を知らないんだ。だから、その目だけはやめてくれ。
「あら、あら。圭ちゃんも手が早いですね。おめでとうございます」
詩音、絶対に楽しんでるだろう。
「あ、ははは。おめでとう」
悟史、その裏のない笑顔をやめろ。
「圭一さんがそんな約束を梨花としてたなんて…」
落ち込むな、沙都子。俺もそんな約束をした覚えはない。まだ、魂が抜けている俺に対して梨花ちゃんは
「約束ですよ、にぱ~」
とあどけない顔で微笑んだ後
「幸せにしてね」
と絶対に逃がしてくれない笑顔を向けてきた。
そして、俺の手をとって走り始めた。
「ほら、追っ手が来るのです。逃げるですよ」
といって走り始めた。
「こら~、ちゃんと事情を説明しなさい。圭ちゃん本当なの~」
「圭一君どういうことなのかな、かな。ほら、怒らないから逃げずに成り行きをしゃべってごらん」

「まて、俺は本当にどういうことかわからいんだ~」

これが俺たちの新しい門出でである。