「ふぁ~」

朝、いつものように目を覚ました俺は

部屋に飾ってある写真を眺めながら

数秒の感慨に耽った…

「おはよう、みんな」

雛身沢で一緒に学校に行っていた面々との挨拶は俺の日課になっていた



雛身沢分校を卒業した俺は

雛身沢を離れて東京の高校へ進学した

雛身沢が嫌いだったわけではない

それどころか、俺に仲間や大切なことをもたらしてくれた雛身沢が大好きだった

でも、魅音の言っていた

雛身沢のために外で勉強するのも大切だということが胸に残って

また、都会へとやってきてしまった


俺にとっては嫌な思い出がある場所だが

許されたこともあって

今では快適に過ごせている




ゴンゴンゴン…

ドアから聞こえてくるノックの音

今の都会暮らしでは唯一といっていい親友のお出ましだ

ただ、何時になってもインターホンを押さずにドアをたたき続けるのが玉に瑕ではある

俺はパジャマのままドアノブに手をかけて

声をかけながらドアを開けた

「悪い、魅音、今起きたんだ

もう少し待っててくれ」

そういいながら「え~」と不満をあげている魅音を部屋の中に通して

着替えに移った

洗面所で顔を洗っているとき

台所の方から

ジュゥゥゥ…という何かをやいている音といい匂いが漂ってきた

「圭ちゃん、スクランブルエッグと目玉焼きどっちがいい?」

そういいながら魅音は慣れた手つきで家の冷蔵庫の中身をあさり始めている

「ん~、目玉焼き」

「わかった」

これがいつもの俺と魅音のやり取りになっていた

本当なら自分で作って食べていたのだが

毎朝カップ麺では体を壊してしまうと

魅音が押しかけて朝食を作るようになったのだ

レナや沙都子や梨花ちゃんと離れていても

魅音と一緒にみんなの思い出話ができるのが今の俺には

うれしくて

寂しさを忘れさせてくれる要因の一つになっている



「できたよ~」

魅音の声でリビングに戻ると

テーブルの上には美味しそうな目玉焼きとカリカリに焼けたベーコン、それにサラダが並んでいた

「よし、じゃあ食うか?」

そういいながら高校の制服に身を包んだ魅音に目をやりながら

二人で手を合わせて

「いただきま~す」

「いただきま~す」

食べ始めた

「どう?圭ちゃん、美味しい?」

食べ始めて直ぐ魅音が聞いてきた

「おう、うまい、でも…」

「でも…?」

「なんでそう毎回毎回おんなじことを聞くんだよ?」

「うっ…、だって……」

最初の一口を食べた後のこの質問は魅音のお約束になっていた

先日、レナに電話で話したところ

『鈍感!!』の一言で終わらされてしまった

「そういえば、魅音?

今日は生徒会の集まりがあるんだろ?

夕飯はどうする?」

「ん~どうしようか?

帰ってくるのは遅くなると思うし…

何か帰りに出来合いの物を買ってこよう」

そういいながら少し不満そうにため息をついた


魅音は高校に入ってから持ち前の要領のよさで勉強でもトップを取れるようになって

高校2年の冬には生徒会の会長になっていた

まあ、俺も魅音にひきづられて生徒会に入らされ

2年生ながらに副会長になっていた


「は~、もう圭ちゃんと会って3年になるんだね」

そんなことを魅音に言われて

雛身沢のことが急に懐かしくなった

「そういえば、魅音

この前、梨花ちゃんたちから手紙が来たぞ」

「えっ、なになに?

どんな内容だった?」

「たまには顔を出せってさ

余りにも顔を出さないと押しかけるぞ、だって」

「あははは…、梨花ちゃんたちらしいね」

「そうだな、みんなとももう1年も会ってないしな

今年の夏休みには雛身沢に帰るか?」

「そうだね、私もばっちゃに今後のことをじかに話したいし…

夏休みには二人で帰ろう」

やっぱりなんだかんだ言っても雛身沢のことが恋しくなる




「ふぅ~、ご馳走様」

魅音の用意してくれた料理を全て平らげた後

洗い物を済ませて家を後にした




「何気に魅音と登校するのもこれで一年以上たつんだもんな~」

二人で足並みをそろえながら学校へと続く道を歩きながら

二人でいつものようにしゃべり始める

「そうだね、最初は一人で登校するのが寂しかったんだよ

でも、次の年には圭ちゃんが入ってきてくれて本当にうれしかったんだ」

顔を少し紅くして魅音が少し恥ずかしそうに言った

そんな俺も言われて少し恥ずかしくて

いつものように照れ隠しで返した

「そうだよな~、入学当時は赤点確実だと思われてた成績だったもんな

そりゃあ寂しくもなるよ」

魅音は「うっ…」と少しうめきながら

「でも、今じゃ成績トップなんだよ

それに、生徒会長だしね

副会長さん」

本当にどれぐらいがんばったのか想像できないぐらいがんばったのだろう

まあ、受験のときも半年で中学3年分を遣り通したんだ

それに比べれば屁でもないだろうが

「ああ、でもお前本当にやればできるんだな」

そう関心していると

「何てったってヘリの操縦までできるんだからね」

と自慢にならない自慢を始めた

「いや、それは確かにすごいがほとんど必要ないから…」

とまあ、こんな感じでわいわいと学校までを歩いていった








~放課後~


「あ~、終わった~」

やっとのことで生徒会の話し合いを終わらせたのが8時

「まったく、何であの教頭はあんなにウザいのよ~」

なかなか承認をおろさない教頭への愚痴を言いながら魅音は怒っていた

「しょうがないだろ、流石に部活の予算のことなんて一日じゃ決められないんだし…」

なんとなく怒る理由もわかるが教頭が承認を直ぐにおろさない理由もわかっている

「それに、いつもより学園祭の費用を100万も多くもらおうとしてんだから

そんなに早く降りるわけないだろ」

「まったく、しっかりと他の削れるところを削ってるんだから直ぐに承認すればいいのに…」

今日一日は魅音の愚痴に付き合うことになりそうだな、と思っていると

魅音が公園の方へ歩いていった


「どうしたんだ?」

そういいながらも魅音のあとについていくと

魅音はベンチに座って

俺にとなりに座るように促した

「圭ちゃん…」

何時にもまして真剣な表情で魅音は俺を見ていた

たじろぎながらも

「どうしたんだ?」

「ん…、ん~ん。ただ…、同じ高校に来てくれてありがとう」

そういうと少し寂しそうな表情を浮かべて

「今、楽しい高校生活を送れるもの全部圭ちゃんのおかげだよ

受験のときも手伝ってくれてありがとう」

「なんだよ、急に…

お前ががんばったからこの高校に入れたんだろ

俺はなにもしてねーよ」

そういって立ち上がろうとしたとき

魅音がまだうつむきながら話始めた

「今日の朝しゃべったでしょ、本当は一人で学校に行くのが寂しかった

それに、みんなとも会えないのもどうしようもなく寂しかったんだ…

でも、次の年、圭ちゃんが同じ高校を受けてくれるって聞いたとき

本当にうれしかった

これで、一人じゃないって思えるようになった

だから、今までがんばってこられたんだ…」

「魅音…」

俺が魅音の顔を見ようとしたとき

急に無理に笑って見せながら

「ほ…ほら、圭ちゃんてもっといい高校いけたでしょ

それでも、一緒の高校に来てくれたから…」

そういいながら最後まで笑顔が続かずに

少し涙が出て来ているのがわかった


どうしていいのかわからずに

ただ、魅音の手を引いて

「帰ろう…」

ということしかできなかった


家の前に着くと

魅音が

「………いい?」

「え?」

言葉を聞き取ることができなかった

「…今日、泊まってっていい?」

改めて言われたその言葉に耳を疑いながら

「な、何を言ってんだよ、魅音」

そういいながらドアノブに手をかけようとしたとき

ガチャッ

中から急にドアが開いた

「えっ…?」

俺と魅音は何が起こっているのかさっぱりわからずに

ひとりでに開いたドアを眺めていた

中から出てきたのは…

「おっ帰り~、圭一君。びっくりしたかな?かな?」

「レナ~?

ど、どうしてこんなところに居るんだよ」

「そ、そうよ

なんでレナが居るのさ~?」

さっきまでの魅音とは違ういつもの魅音に戻っていた

一安心するとともに

中から、破壊音のような音が聞こえてくるのが気になりはしたが

それよりも前に聞いておくことがあった

「お、おい、レナ?

お前どうやって入ったんだ?」

当然ともいえる疑問をぶつけた

「あ~、おばさまにね、みんなで圭一君のところに行くって言ったら合鍵をくれたの

だからみんなで先にお邪魔してんだよ、だよ」

みんな?

ここまで来たらみんなというのはあのメンバーしか居ないだろう

俺はうれしくなって

さっきの破壊音も忘れて

レナを押しのけて部屋の中に走っていった

「みん……、うわっ」

リビングに足を踏み入れるとそこには水の張ったバケツが置いてあって

それに足をとられこけたところに小麦粉の沢山入ったパットが


ボフッ

頭から突っ込んだ



「オ~ッホホホ…」

聞き覚えのある笑い声

「本当に進歩のありませんことね」

「みー、圭一は一年たっても何も変わってないのですぅ」

「あうあうあう~圭一、がんばるのですぅ~」

それに聞き覚えのある声たち


俺は顔についた小麦粉も忘れて

みんなに満面の笑みで答えた

「いらっしゃいみんな」


「ほ、本当に締まらない方ですこと、顔の小麦粉ぐらいお取りなさい」

そういって俺の顔についた小麦粉を沙都子が拭いてくれた

「圭一、久しぶりです、にぱ~」

と頭をなでてくれた梨花ちゃん

「あう~、圭一、大丈夫なのですか~?」

と一生懸命心配してくれた羽入


そして

「ほら、みんなちゃんと片付けて

ご飯がはこべないよ~」

と後ろからやってきたレナ


なんか事情がわからずに一人置いてけぼりを食らっている魅音



さっきの魅音の発言には正直びっくりしたが

まあ、このまま行けばさっきの事は水に流れるだろうし

しっかり楽しもう


「よ~し、今日は楽しむぞ~」

「お~う」

そうして、魅音だけを置いてけぼりにしながら俺たちは朝まで大騒ぎをした