1938(昭和13)「隣保組織の普及強化を提唱」『神戸市公報』607,164-165.

本市社会教育課に於ては時恰も市制発布五十年に当るに際し市民自治協和の徹底を計るべく,左の隣保組織要綱を発表し積極的に之が指導に乗出すことゝなった。

一,趣旨
都市生活の著しい弊として近隣親和の美風を欠き同一町内に居住しても相知る機会を得ないといふ実情にある場合が極めて多い。私共はこゝに思ひを致し町内挙って些しのかけへだてもなく相呼び相応じ共に楽しみ合って日々の生活を送ることが出来たならば如何に幸福であるか日常生活の〓は倍加し,そこに美はしい理想の町が建設されるであらうと,此の共同社会生活の有難さにしたることを目標として永年精進して来たのであるが其の努力に伴ふ実績は未だ十分なりとは言ひ得ないのである處がこゝに最近両三年に亘って実施した数次の選挙粛正運動竝に防空演習特に国民精神総動員によって都市教化の普及徹底上根本問題たる隣保組織の必要なることを痛感するに至ったのである。
 隣保とは向三軒両隣又は向三軒両隣の関係に於て堅く結ばれる自然の組合を指して言ふので今回この隣保を更に組織化してその互助相扶の精神を生かし町の幸福をはかり,之を広く区市一円に及ぼして〓〓〓〓の実を挙げ明朗大神戸の建設に偉大なる力を発揮せしめんとして隣保組織を提唱する次第である。

二,組織方法
 1隣保は左図の如き体系に〓つて町会地域毎に組織するものとす。
 2隣保は向三軒両隣(五,七軒)又は向三軒両隣の関係に於て組織するものとす。従って一隣保内の家庭数は一定せざるも大体十戸以内を適当とす。
 3隣保は町会の部又は組の区分に従ひ各々其の地域内に於て組織するものとす。即ち二若くは二以上の部又は組に跨って編成せざる様なすこと。尚部又は組の区分なくして隣保多数に及ぶ町会に在りては適宜部又は組の区分をなすこと但しこの場合隣保十個以上より成る部又は組をなるべく編成せざるを可とす。
 4隣保は「○○町会○○部第○組○隣保」の名称を附するものとす。但し標識として左図の如き門標を用ひること。
 5隣保には必ず世話係を置くものとす。但し標識として左図の如き門標を用ひること,尚別表の如き名簿を作成して町会(部又は組)及区に備ふること。

三,隣保指導
 1我国古来の美風たる隣保相扶の精神を一層涵養助長するに足る隣保への実現に努むるものとす。
 2国民精神総動員の趣旨に立脚して「小我を捨てゝ大我に就くの精神」を一層各戸に徹底せしむるに足る隣保への実現に努むるものとす。
 3社会教化の徹底は固より地方自治の振興に異常の力を発揮するに足る隣保への実現に努むるものとす。
 4上位下達,下情上達の機関としても十分其の機能を発揮し得る隣保への実現に努むるものとす。
 5青年団,処女会,母の会,少年団其の他各種団体の共同社会生活訓練の道場としても十分其の目的を達成し得る隣保への実現に努むるものとす。
 6理想の町―区―市―国を建設することを目標として,より健全なる隣保への実現を期するものとす。
 7有事に際しては防火防空防護網組織としての機能を十分発揮し得る隣保への実現を期するものとす。

四,隣保運営
 隣保運営の中心は「隣保は常に仲よく致しませう」の標語を凝視めて進む中に自ら生れ来る申合せを実行するにあるのである。従って実行申合事項を予め計画する必要は認めざるも強ひて実行事項例を示せば左記の通りである。
 
 一,日常生活
 A偕和
  1参詣参拝に誘ひ合ふ

  2時々懇談の会を開く
  3慶事の喜びを共にする

  4命日参拝
  5共同購入

  6生活改善の申合せ
 B相扶
  1子守託児

  2留守居の依頼
  3就職斡旋

  4弔時の手伝
  5不幸な際の手伝

  6雑役奉仕
  7子供の躾と復習時間の申合せ

  8共同清掃
  9共同衛生
 
二,銃後事項
1出生軍人の武運長久祈願
2同遺家族の慰問扶助
3出征者への慰問状
4防空防護の努力
5物資愛護国産品愛用の一致協力