ニ,都市教化の特殊的要目

都市教化の特殊的要目は常に社会問題と関連して考察せらるゝを要す。蓋し社会問題惹起の要因たる貧富の懸隔は都市に於て其の顕著なるものを見,社会の欠陥も亦都市に以て最も多く暴露せらるゝものなれば都市の教化は常に社会政策並びに社会事業と連絡提携して其の実を挙ぐべき特殊の方面あることを知悉せざるべからず。

 一,商工経営考並に従事者に対する教化

(9)此の場合に於ては次に示すが如く(イ)(ロ)と分って教化するも一方法なれど,時に両者を一堂に会し教化を中心として連合の端を開くも亦有数なる一方法たり。

イ,経営者に対する教化

主として資本階級に属する商工経営者に労働尊重の意義を明にし其の自覚と反省とを促すは現代に於て必要なる教化事項たるを疑はず,しかも従来此方面に於て閑却せられたる点少からず,一段の留意を要す。

ロ,従事者に対する教化

主として労働階級に属する商店使用人,工場労働者に対して反抗的なる階級意識を一掃し共存共栄の真相を体得せしむるを要す。

 ニ,補習教育に対する施設

一般的なる補習教育は今暫く之れを別とし茲には左の如く定時的に教育を受け難き人々に対して補習教育を施すの設備も亦都市教化上必要なることに属す。

イ,商工徒弟講座

商工徒弟の為に夜間又は公休日を利用して連続的に補習教育を施し常識の発達と共に実務に対する教養訓練。

ロ,労働者補導学級

現に今日大都市に行はるゝ一定の期間短期講習の形式により労働者の余暇を利用しての教育施設。

ハ,家庭雇傭者に対する教化都市の家庭には商工従事者以外家事使用人を有するもの多きを以て是等雇傭者の為め短期講習等の形式を(10)取る俗に所謂子守学校,女中講習会等の開催。

 三,社会事業に関連する教化

都市生活は農村の如く固定的なるもの少く浮沈の伴ふもの多きが故に社会事業の設備は都市に於て特に重要性を加へ,其の物質的経済と相待って精神的教化の要も亦切なるものあり。

イ,「カード」階級生活者教化

社会施設に於てカード階級として留意せらるゝものは普通生活の水準以下に喘ぐ貧困者なれば物質的救護を計る防貧救貧の事業と提携して精神的教化を計らざるを得ず。

ロ,浮浪生活者教化

都市は常に浮浪生活者を発生せしめ又其の来集を受くるの悩みあり,是等所謂「ルンペン」者流れを包容せる無料宿泊所等に就て之れに職業を與ふる社会事業と提携し発奮努力の精神的教化を施すを要す。

ハ,〓寡孤独,〓疾,不具者等に対する教化

扶養者もなく労働の力もなき是等の人々に対し精神的慰安を與へ以て人間の情趣を体得せしむるも亦社会生活の必要事にして特に宗教家の奮起を望まざるを得ず。

ニ,人事相談と教化

都市の如く人事の錯綜せる地方に於て人事相談所の必要は言を待たず,其の相談の種目も亦多かるべしと雖,教化教導の之れに伴ふべきものたるを考慮し,こゝに教化の関与を提言せざるを得ず。

 四,司法保護事業に関連する教化

郷〓に入れられざる刑余の人も都市に来集するのみならず,都市生活に於ては多数の不良児を発生せしめ累を(11)市民生活に及ぼすこと少なからず,之れを保護し感化するも亦都市教化に於て最も留意すべき事項たり。

イ,不良少年感化

不良少年の放任は其の少年の前途を誤るのみならず,禍根を将来の社会に播種するに異らざるものなれば司法保護事業と協力して其の改過遷善に努むるを要す。

ロ,釈放人教化

一たび刑余の人となりたる釈放人は既に過去の清算せられたるものなるも社会の指弾を受けては罪を累ぬるの可能性に乏しからず,一方社会を教化して其の憎悪の眼を轉ぜしむると共に一方には本人を教化して善良なる市民としての生活に入らしむるを要す。

 

[中央教化団体連合会(1933)『都市教化留意要項』]