雨の日は、本当に憂鬱だ。
「湿気で髪の毛は決まらないし本当にツイていない…」
帰りは、美沙とは校門で別れ雨が止んでいたので
ゆっくりバス停まで歩く事にした。
バス停には誰もいなく、時刻表を見ると次のバス
まで15分程あった。
携帯を弄っていると、となりに妊婦さんが小さい
子供の手を引いてやってきた。
すごく可愛くて、思わず声をかけてしまった。
『何歳ですか?』
「あっ、2歳半になったところなんですよ、ほらお姉ちゃんに挨拶しなきゃ」
「こんちわぁ」
『こんにちわ。しっかり歩いて偉いね』
「うん。にーちゃに、なるきゃらぁ」
『そっかそっか。お兄ちゃんになるんだもんね』
「うん」
そう言ってママのお腹を優しくナデナデしている
その子の姿に私は愛おしさを感じていた。
するとポツポツとまた雨が降り出してきた…
急いでその子のママさんは傘を広げようとするが、少し眠たくなってきていた男の子が急に泣き出してしまい、抱っこすると傘をさせない様子だった。
私は、折りたたみ傘を開き急いでその親子に差そうとしたその瞬間…
バサッ‼︎
反対側からその親子に向けて傘が開いた。
「良かったら傘に入りませんか?」
「あっ、ありがとうございます。助かります」
「いえ、風邪を引くと大変ですからね」
そう、横に来た人はママさんに声をかけていた。
顔は傘に隠れて見えないが、その話し声は何だか落ち着いていて優しい声。
心地よいその声に聞き入っているとバスがすぐそこまで来てしまっていた
バスが到着すると、折りたたみ傘をたたみ私は先に車内へ入った。
そして、後から乗ってくる人を席に座って見ていた。
するとあの親子が車内へ入って来て、バスの扉が閉まった。。
(あれ?さっきの人は乗らないのかな?)
ふと目線をバス停に落とすと、さっきの傘の人がバスには乗らずバス停でその親子に目線を向けているのに気づいた。
その時、その人の顔がハッキリと見えたんだ。
澄んだ眼差しでニッコリと微笑んで手を振っているその姿に一瞬で目を奪われてしまった…
完全な一目惚れだった。
でもふと思ったんだ。何故彼はバスに乗らなかったんだろうと。
…彼は、バスを待っていた訳では無かったのだ。
通りすがりで、見ず知らずの人に傘を差掛けるなんて、それだけじゃなくバスに乗るまで見送るというそんなさり気ない優しさや気遣いが出来る彼に、その親子だけじゃなく私の心まで奪われてしまっていた。
今時、見返りを求めずに中々他人にそこまで出来る人は多くない。
自分の思うままに行動に移せたらどんなに良いか。
私は、人に優しくしようとしても心の何処かで相手に拒絶されたらどうしようかと行動に移す前に考えてしまう。。
だから、彼の優しさや強さがあの一瞬で全て伝わって来たように感じたんだ。
また彼に会いたい。。走り出した想いを止めないように。
その日から私は時間を作ってはそのバス停で彼を待つようになったんだ…。
でも、何日待っても彼に会える事は無かった。。